第6話 背負うもの。背負われるもの。

「おっ…」

黒パーカー、黒いスキニージーンズに黒いレースアップブーツ。暗いんだよ、若い一般人ならもっと派手な格好しろよ。

「『おっ』?」

こっちを睨みながら、被っていたフードを脱ぐ。外にはねた短い髪、生意気な口元がのぞく。

このクソガキが!!俺は、

「おっさんじゃねぇし!!」

「はあ?どう見てもおっさんだっつーの!なんなんだよ、

私には関わらない方がいい、

「死神にならない?

全てダメにしてしまうから。

「はあ?意味わかんないし、近づくんじゃねえよ、

後ろへ下がる、ブーツの音がカツン、カツンと境界の床に響く。

そう、近づかないで、近づかないでよ、

もう終わらせたの、終わらせたいの、

近づくな!

「呪いとは向き合わないとだ

音もなく一瞬にして、おっさんは私の目の前にいた。

そして耳元でただ低く呟いた。

「偉そうに言わないでよ」

バカな人が嫌い。

何にも分かってない。分かろうとしない。

自分の中から力が湧き出てくる感覚。

今ならなんでもできるという感覚。

拳を握りしめて…

ドスッ。

地面が近ずいてくる。

あれ?近ずいてるのは私…?

私は灰色より濃い漆黒に落とされた。


『気絶させた。』

おっさんのメールはいつも短い。

いつ、どこで、誰が、何を、なぜ、どのように。情報を伝える時の掟だろうが!!

新聞記者ゲームとかやったことねぇのかよ。

まぁ、50超えた(予想)おっさんが携帯に頑張って文字打ってるところを想像したら少し愛着がわくな。

ともかく、自慢の高速タイピングで尋ねても、帰ってくるまでに私が死神を辞めていそうなので、ここは少し私の天才的な頭脳を働かせようと思う。

『いつ』はまぁ『今』、正確にいうとおっさんが文字を打つ時間を遡って5分前ぐらいかな。

『どこ』は水盆を見れば分かる、ほっといても着いたね、まっ結果オーライってことで、許してちょ♡

『誰が』はあの場にいる人間で、意志のある人間となると『おっさん』と『少女X』、ある意味特徴的な短文メールを送ってきたことから『おっさん』の方が可能性として高い。少女Xが凄腕スパイという可能性もなくはないけど。

『何を』は無難にメール通り気絶させたんだろうね、少女Xを。スパイ説だと塊は消えていないから少女Xがおっさんを気絶させるか、拘束しているかでスマホを奪って私にメールを打っている、ありえなくはないけど、おっさんがそう簡単にやられるとは考えにくい。

『なぜ』はどちらかが暴れたから、しかしあの男の時のように命の危機になるようなレベルではなかったから、が濃厚かな。スパイ説は少女Xが私をはめる理由がいまいち見えてこないんだよなぁ。

「ここは無難に、『今』、『あそこで』、『おっさん』が、『少女Xを気絶させた』、なぜなら『少女Xが暴れたから』。そして少女Xを介抱し、死神に迎え入れるためにも駅員室ここに帰りたいのでメールしたってとこかな」

あとは高速タイピングをするだけだ。

『一番左の道に入って。あと女の子に暴力を振るうな』

『送信』っと。情報量1から10をひねり出して1にまとめる、みたいな会話は本当に疲れる。電話が使えたらいいのに、なぜか境界ここでは使えないらしい。

5分後、携帯が振動する。

『少女と帰る。返事遅い。』

「あらやだ私ったら携帯を握りつぶすところだったわ。うふふふふふ…」

携帯をギシギシと音を立てるほどに強く握ったまま、私はおっさんと少女Xの帰りを待った。

少女X、彼女は死亡録の2ページ目、要注意人物欄に載っていた。

名前は…


『…やめて!僕じゃない!僕がやったんじゃない!!信じてよ…お…』

頭の中、ずっとグルグルしてる。

違う選択もあったんじゃないかって。

『呪いとは向き合わないとだ

向き合うも何もないじゃない、

私自身が呪いなんだから。

私は呪いのガキ


『意外と向き合えないもんなんだなぁ。お前に言われるまで気付かなかったよ。そうか、俺の大切なものはあいつだったんだなぁ』

呪いと向き合うことは、きっと一人では出来ない。

あなたは最高の死神相棒だった。

『申し訳ないなぁ。このまま消えちまうなんてズルいなぁ。本当申し訳ない…』

『ズルくなんかない。俺が背負う、生きる、償う』

『ハハは、永遠に永遠を足しても変わんないなぁ。じゃあ頼むわ。

消えるんじゃあ、ねえ…ぞ…?』


「おい、ガキ、帰るぞ。さっきから寝たふりしてるんだろ。俺はお前を背負っていくつもりはない。立て」

「私だってあんたに背負ってもらいたくないわ」

寝っ転がったまま答える。ここは空も灰色だ。

「速く立て。道が変わっちまうだろ」

首が痛い。多分あの漫画とかでよくある首トンってやつやったんだな、これって技名とかあんのかな。

「ねぇ死神ってなんなの」

境界ここの管理職」

簡潔すぎて意味分かんない。

「死神になるメリットってあるの?」

「君はこのままだと50年間は地獄に行くことになる。

その50年を終える頃には、人間性をなくし、呪いが暴走するようになる、

そして君のような強い呪いの者は消される」

消される?

のはじゃない。文字通りに、跡形もなく消える」

それなら地獄行きも悪くない。

もともと私は生まれるべきじゃなかった。

でもなぜだろう…

「死神になればその50年間を境界ここで過ごすことも出来る。

50年を終えても消されることはない。好きな場所に行っていい」

熱心に聞いている自分がいる。

一人で消えるのは嫌だと叫ぶ自分がいる。

私にはまだやることがあると感じている。

私は立ち上がる。誰かに背負われるのは嫌なんだ。

今度こそ守りたい。

「私、死神になりたい」

これは正しい選択なのかな。

お母さん。

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