第4話 胡散臭い黒

水盆すいぼん。私たちはこの胡散臭い呪具をこう呼ぶ。見た目は名前の通り薄い盆に水がはっているだけ。おかしなところは、盆に描かれた複雑な線が絶えず変化し続けていること。そしてまるで墨を垂らしたような黒い塊が揺れ動いていることだ。

この線は境界の地図、黒い塊は一定以上の呪いを表しているらしい。正直言って今も信じらんないけど、私たちはずっとこれを使って仕事をしてきた。

危険な呪いを制御、又は排除する、死神の仕事を。

黒が濃いほど呪いは強く、大きいほど年齢が高い、触れた時の温度が高ければ男性だ。しかし温度は私が冷たいと言った時おっさんは暖かいと言ったから同性か異性かという区別なのかもしれない。私たちはこの世界について知らなすぎるのだ…。とにかく私の仕事は主に水盆を見て、上からくる死亡録と照らし合わせ、判断し、おっさんの道案内をすることだ。

「…塊が消えた。交渉決裂かな」

さっきまで2つだった塊が一つになっている。大きさからして残っているのはおっさんだ。

「それにしても」

水盆を見るたびに思う、おっさんはどうしてこんなに黒いのだろうと。

「まぁ自分もそうかもしれないんだけどね…」

この部屋にいる呪いは水盆に映らない。水盆は部屋の床とくっついているので移せない。だから私は自分の呪いを見たことがない。

自分がどれだけ黒いのかを知らない。


男が消えてから数日がたった。

彼はあまり喋らない。

気にならないと言ったら嘘だけど、

触れてもいいのか、

それに、この時期に、厄介ごとに巻き込まれては困る。

私たちはただの仕事仲間相棒


「いい姉ちゃんだね、ちょっとこっち来なよ。ここには何もねえからさ」

怒ってはいけない。

ただ冷静に仕事をこなせ。

会いたいから、

愛しいに。

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