第3話 罰も資格も

カツン、カツン、とまあ一般人が歩けば音が鳴るわけだが、訓練を受けた俺は足音を完全に消せる。

ポケットの中でケイタイデンワが振動する。

『その角を左に曲がって』

短文のメイル。

やっぱり2人だと仕事がしやすい。

指示通りに左に曲がると、明らかに周りとは違う様子の男がいた。あれがその男か、素質がある、つまり、呪われた男。

どこか懐かしい背中。

???なぜお前が…

「なぜ、お前も境界にいるんだ、なぜ、呪われているんだ」

「!…よく分からないけど、会えて良かったよ。ねえ、僕はどうやったら死ねるの?」

その男は生きている時、目が死んでいた。

「…もう死んでる」

死んだ今、その目が生き生きしている。

「じゃあ一生のお願いだ、僕を消してくれ」

呪いの濃度が上がり、水盆を使わなくても可視化出来る。

こちらにやってくる。

凶器は持っていない、いや、もしくは…

首に圧力がかかり上手く息が出来ない。

「ぐっっっ」

もしくは『手』。

首を絞められる。

死んでいるのに、苦しい。

本当に苛立たしい体、世界、呪いだ。

「っっお前がなんで呪われてんのかは知らない、言わなくていい、だけどな、ただ消えて、逃げるなんてことは許されない、ぐっっ、ちゃんと生きろ」

「…僕に説教する為にわざわざ首絞められたの?変わってないね、優等生なのは」

首を絞める手が止まる。

間合いが開く。

「俺は変わったよ、お前も変わる」

俺???

「僕は別に変わらなくてもいい。もういいんだ」

本当に変わったんだね。

「俺と同じ死神にならないか」

「僕は消えるべき、消えるしかない人間なんだ」

「だから…」

言葉を遮る。

化けの皮の下が誰であっても僕の愛に文句なんて言わせない。

「僕には、受ける罰も、生きる資格もない」

あるのは一つの未練だけ。

「あっ」

あいつは突然こちらに突進してきた。

「許して…」

小さく呟いたその声は俺の空耳だったのだろうか。

ナイフが刺さって血が滴る。

俺は無意識に、

俺は故意に、

こいつを殺した。

何も残らない。

文字通り消えるんだな。

残ったのは僕の未練だけ。

『許してあげるよ』

ただその一言を、言えなかっただけ。


「なんでお前まで殺さなきゃなんないんだよ…」

灰色の世界に独り。

周りにいた奴らは全員俺が消したんだ。



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