第2話 ふざけた自己紹介

「スリーサイズは82・54・83どうもショウコです」

風呂場に一人、ふざけた自己紹介が反響する。

「享年25」

あの時から体型は全く変わっていない。

やせ我慢してたのが馬鹿みたいだよ。

死んだら何にも食べらんないのに。

「石鹸買いだめしとくんだったな…」

水とお湯は無限に湧き出てくるけれど、石鹸とかは置いていない。

すぅ、息をためて、力一杯叫ぼう、

「境界の馬鹿やろー!!レディを粗末に扱うな!!だいたいおっさんと同居とか意味分かんねぇんだよ!!」

風呂場に独り、どこにも届かない文句が反響す…

「俺はおっさんじゃねぇぞー!!んでもって風呂早く出ろや!!」

誰もお前とは言ってねぇじゃん。まぁお前しかいないけどさ。

リビングからのおっさんの返事に苦笑する。

『氷を溶かし合う』なんて言っちゃたけど、あれは精神的な意味で肉体的に蕩かし合ってるわけじゃないから誤解しないでよね。

「ふぅ。催促もあったことですしそろそろ出ますか…」

湯船から勢いよく上がる。

前にある鏡がナイスボディな美人を映し出す。

「やっぱりおっさんにこの体はもったいねぇよ!!」

「あ"?」

よっ待ってましたリビングからのノータイムツッコミ!!

「…あいつにもあげてやるんじゃなかったかな」

髪を乾かしながら呟く。

なんだか今日は濡れたままでいたい気分。

冷たいままでいたい気分。

髪をテキトーにまとめて脱衣所を出る。

「お前に私の体はやらんぞ」

「労働力はくれ」

ノーブラの私にノータイムツッコミとはお前さては菩薩か?!ていうかレディに肉体労働(別の意味で)を強いるな。

「ヘレネーに惑わされないようにせいぜい頑張るんだね。私はもうりんごを食べた愚かな人間だから、君とは分かり合えないよ」

「神話ネタは分からんって」

分からんと言いつつ、神話ネタだと分かっているところが可愛い。

さては勉強したなぁ???

「じゃ、まぁ労働力を提供するといたしますか」

「俺たちは菩薩じゃない、死神だからな」

一瞬で空気の温度が変わる。

これは仕事。肉体的にも精神的にも辛いけどさ。

「境界をふらふらしてる男がいる。素質があるみたい」

あいつに体あげちまったんだよね。

「行ってくるよ。髪ちゃんと乾かせ風邪引くぞ」

催促したくせに入らんのかよ。

「了解。気を付けてね…」

灰色の扉に向かう彼の後ろ姿を見送る。

どこか懐かしい、彼の背中を眺める。

なんで私は肝心な時にうまく声をかけられないのだろう。

名前がない死神かれに向かって。


『何それ、名乗るほどでもないって?おっさん、いい歳して厨二病?』

『名乗るほどでもない、なんて言ってない。名前は捨てたんだ』

『いや、充分厨二だよ。あとね、私は…』

『俺は殺屋ヒットマン。テキトーに呼んでくれ。ヒットでもお前でもおい!でもいい。どうせ、意識がはっきりしてる人間なんてそんないないんだから。』


本当にふざけた自己紹介だったね。

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