第3話 御茶ノ水駅

 四ツ谷駅を出発した丸ノ内線は再び地下に潜り、地面の中を走り続けている。

 今は武蔵野台地ではないのだけど、都市部だから地下を走っているんだと弟は教えてくれた。

 国会議事堂、銀座、東京……。

 聞いたことのある地名がアナウンスされるたびに、地上の様子も見てみたかったと思っていたら――、一瞬だけ地上に顔を出したんだ。


「おちゃのみず~、おちゃのみず~」


 再び地下に潜った丸ノ内線はすぐ駅に着いた。ここは御茶ノ水という駅らしい。

 するとおじいちゃんがウンチクを披露し始めた。


「さっき一瞬地上に出たじゃろ? そこは元々、武蔵野台地の土の中だったんじゃ。が、徳川家康と伊達政宗という戦国武将のおかげで、地表に出ることになったんじゃよ」


 徳川家康と伊達政宗!?

 それなら聞いたことがあるよ。ゲームとかでも有名だし。


 すると弟がおじいちゃんに嚙みついた。


「徳川家康も伊達政宗も丸ノ内線の工事の時には死んじゃってるよ。それってどういうこと?」


 弟の疑問ももっともだ。

 戦国武将が丸ノ内線に関係しているって、いったいどういうことなのだろう?


「元々ここは神田山という武蔵野台地の端っこじゃった。ある時、江戸城を造った家康が、政宗に訊いたのじゃ。「お主が江戸城を攻めるなら、どこから攻める?」と」


 さっき一瞬見えた景色は、川だったような気がする。

 でも昔は台地だったんだ……。


「そしたら政宗は言ったのじゃ。「それがしならば神田山から攻めまする」と。その言葉が元となって、攻めにくくなるように台地を削ってお堀、つまり溝を造ったのじゃ」


 ええっ?

 あの川って江戸時代に人工的に造られたものってこと?

 そりゃ、大工事だよ。


「その工事を請け負ったのが、というより、やらされたのが政宗の地元の仙台藩。じゃからあそこは仙台掘と呼ばれとる」


 口は災いの元、とはこの事だよね。

 私も何か作戦を思いついたら、しゃべらずに黙っておこう。


「台地を削ってみたら予想外のことも起こったんじゃ。崖から水が湧いてきての、お茶にすると美味しいから「お茶の水」と呼ばれるようになった」


 へぇ~

 この駅名にはそんな経緯があったんだ……。


 私と弟は、車窓からホームの壁を見つめるおじいちゃんを、尊敬の眼差しで見上げたんだ。

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