第2話 慣れない場と夢の場
偶然見つけた神社での出会いから二日経った。そして今日は初めて学校に登校する日だ。転校自体は人生二回目だが、やっぱり異例の事態には変わらないので緊張する。
「ごちそうさまでした」
朝ごはんを食べ終えた僕は食器を流しに置いた。そして近くにあったリュックを掴んだ。
「一人で大丈夫かぁ?送ってやってもいいんだぞ?」
「いえいえ、道も覚えたいので」
学校までの道のりは何となく頭に入ってる。自分の記憶を信じれば何とかなる……はず。まぁ時別方向音痴というわけではないし、学校がある方へと進めば大丈夫だろう。
「それじゃ行ってきます」
「おう、気ぃつけてなー」
「行ってらっしゃいねぇ」
横開きのドアを開け外に出る。すると眩しい日差しが僕を照らした。しかも暑い。まだ朝だぞ。雲一つすらないド晴天だし。清々しいくらいの青空が目の前に広がっている。
うだうだ考えても仕方がない。家を出発し田んぼ沿いの道を歩く。学校までは大体十分程度と聞いた。家が学校と近くて助かった。中には一時間近くかけて登校してくる生徒もいるようだ。……毎朝それはしんどいな。
田んぼや畑沿いの道を歩くこと約十分。僕がこれから通うことになる「
僕が校門に着いた途端、後ろから声を掛けられた。
「あっ、あなたが御影さん?」
「え、そうですけど……」
僕を引き止めたのは、眼鏡とスーツ姿の若い女性の羊の先生らしき人物だった。
「あぁやっぱり。あなたのことを待ってました」
そう言うなり、着いて来いと言わんばかりに歩き出した。僕はその人に着いていった。
「もうすぐ朝のホームルームが始まるので、私が呼ぶまでここで待っていてくださいね」
そう僕に告げると、先生は教室へと入る。いよいよみんなの前に立つ時が来てしまった。やばい、心臓バックバクだ。
掌に人の文字を書いて飲み込んだり、親指を握るなどの緊張を解すための迷信なんかを試行錯誤していると、教室内から声が聞こえてきた。
「はい靜に。何と今日はビッグニュースがありますよ」
教室内が一気にザワつく。うわ、めっちゃ期待されてる。おい誰だ今美少女だったらいいなとか言ったやつ。僕の姿見てがっかりすんなよ。自分の期待を恨むんだな。
「それでは入って来てください」
え、あ、やば行かないと……!
少し震える足取りで教室に入る。みんなの視線が痛い。
「今日からこのクラスの一員となる御影昭人くんです。自己紹介お願いします」
「あ、えっと……御影昭人って言います」
……や、やばい。ここからなんて言えばいい。……そ、そうだ、好きなことを言おう。それしか今の限界脳みそだとこれしか思い浮かばない。
「ほ、星を見ることが好きです。宇宙関連のことで聞きたいことがあれば大抵のことは答えられます。……よ、よろしくお願いします」
僕は礼をした。ついでに目も瞑った。もしかしたら冷ややかな目で見られてるかもしれないという不安が大きすぎて。
しかし、僕の不安はすぐに打ち消された。
大きな拍手が僕の耳に飛び込んで来た。思わず顔を上げると、みんなは笑うそぶり一つも見せずに拍手を僕に送っていた。な、なんだか逆に恥ずかしいな……。
「じゃ、御影くんはあちらの席に」
先生が指さした先に目をやると、一番後ろの列の窓際の席だった。言われるがままにその席へと足を進める。そして背負っていたリュックを机の横に引っ掛けた。
丁度そのタイミングでチャイムが鳴った。どうやら休み時間のようだ。すると、隣の席の虎が声を掛けてきた。
「よっ!よろしくな!」
その虎ははにかみながらそう言った。やや大柄な、如何にもスポーツマンっぽい体系の明るそうな人だなっていうのが第一印象。
「うん、よろしくね」
「あ、名前言ってなかった。俺、
そう名乗った彼は、おもむろに手元にあった白紙に名前を書いた。なるほど、漢字だとこう書くのか。
「昭人はどう書くんだ?」
「あ、僕は……こう書くんだ」
そして、既に書かれている名前のすぐ横に自分の名前を書いた。正直自分の筆跡を誰かに見られるのは少し苦手だ。大して綺麗ってわけでもないから。
「へーこう書くのかぁ。教えてくれてありがとな」
二人の名前を書いた紙を自身のリュックにしまうと、俊太は「あっ」と何かを思い出した様な声を出して再び僕の方を見る。
「なぁ、確か星に興味あんだよな?」
「うん、昔から好きなんだ」
「じゃあウチの天文部に来いよ!」
え、ここって天文部あったのか?事前にこの学校のことは調べたけどそんなこと書いてあったっけか。正直それを聞いて驚いた。
「え、ここって天文部なんてあったっけ」
「あー……なんつーか、学校非公認で活動してる感じなんだよな」
「え、それって先生からなんか言われたりしないの?」
「望遠鏡とか全部自費だし、学校の迷惑にならない範囲でやってるから大丈夫なんじゃねーかな?」
「あーそういうこと……でも自費って結構大変だね」
でも普通に興味あるな、天文部。自分の好きなことが出来る場が増えるのは嬉しい。体験入部的な意味で行ってみようかな?
「どーする?」
「行ってみようかな、楽しそうだし」
「よし、入部希望者一人確保ぉ!」
両腕でガッツポーズをする俊太。目に見えて喜んでいるのが分かる。
「じゃあ、放課後に俺が案内するぜ」
「うん、よろしく」
◆
そして放課後、早速僕は俊太に連れられてある場所へと向かっていた。どこに向かっているのかは分からない。
「えっと、どこに向かってるの?」
「あー……部室的な?」
なぜか抽象的な回答が返ってきた。部室的な所……一体どんな所なんだろう。
その疑問はすぐに解消された。微か遠くに見える光景によって。
「ほら、あそこが部室だぜ」
「え、でもあれ……」
僕が想像していた部室とは全く異なる現実。だって今僕の目に映っているのは何の変哲もない小さな東屋だからだ。そしてそこに座っている3人程の人影が見えた。
「おーい!」
俊太が東屋の方に向けて声を出しながら手を振る。するとその人影はこちらの方へと首を回した。
「お、俊太!……と、誰だ?」
最初に声を掛けてきたのは、背の高い白い毛並みの鳥だった。
「聞いて驚け、我らが天文部の入部希望者だ!」
「え、マジ、遂に現れたか!」
「ど、どうも」
今日だけで二回も歓迎されることになるとは思わなかった。やっぱりちょっと恥ずかしい。
「えっと、今日転校してきたばかりの御影昭人です。よろしくお願いします」
「昭人くんか、よろしくね!てか今日転校してきた子連れて来たの!?」
「いやぁ、自己紹介の時に星が好きなんて言ってたからさぁ、連れてくるしかないじゃん?」
「まぁ確かにな。あ、俺も自己紹介しなきゃ!」
コホン、と仕切りなおすと、その鳥は姿勢を直して言った。
「俺は
明るく自己紹介した彼は、隣にいた白黒の猫に自己紹介するよう催促した。そしてその猫は、座ったまま口を開いた。
「
僕らより一つ年上の彼はクールに終わらせた後「ほらお前も」と隣にいた三毛の猫に言った。
「えっ、あ……
「想は人見知りだからなー」
「大丈夫だって、昭人はイイやつだからさ」
かくして自己紹介タイムが終わった。みんないい人で良かった。学校非公認とはいえ意外と部員集まるんだなと思った。
ふと西日が差しこんだ。もうこんなに日が落ちたのか。夏場は日が落ちるのが遅いとはいえ、そんなに長い間話していたのか。
「お、もうすっかり夕方だね」
「だな、もうすぐ夜になるぜ」
「あ、てことは……」
「それじゃあ早速……」
「昭人くん入部祝いも兼ねて……」
「天文部、活動開始だ!」
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