星と重ねたあの場所で
ゆばもと
第1話 夜空
幼い時から星を見るのが好きだった。星を見ていると想像が広がって、何で光っているのかをずっと考えていることもあった。
でも、そんな日々は唐突に終わりを迎えた。
小学3年の冬、両親の離婚が決まった。俺は母親の方へ引き取られ、都会の方へと引っ越した。そのせいで見える星は少なくなってしまった。おかげで退屈な日々を数年送ることになってしまった。
当時は相当ショックだったのか、性格も暗くなり、口数も減った。ずっと好きだったものを突然失うことがこんなにも辛いことだとは思わなかった。
しかし、そんな生活も終わりを告げた。高校1年の夏、母親が他界した。急性心不全だった。保護者がいなくなった僕は母方の親戚の家へ引き取られることになった。引き取られた先はーーー。
◆
僕は
僕が越してきたこの村の名は「
「ふぅ……やっと着いた」
電車を乗り継ぐこと5時間、やっと村にたどり着いた。電車から降りると、夏らしい暑い日差しが僕を照らした。
無人の改札を抜けると、駅前のロータリーのような所に車が停めてあり、1人の犬が立っていた。その犬は僕に気付くと、手を振り僕の名前を呼んだ。
「おーい、昭人ー!」
「伯父さん」
この人は
「でっかくなったなー、小学生以来か?」
「ですね、お久しぶりです」
「しっかし気の毒にな、まさか亡くなるなんてよ」
「はい、ホント突然……」
「ま、あんま気を負うな、ちゃんと俺らが面倒見てやっから」
「はい、お世話になります」
そのまま僕は車に乗るよう促され、冷房が効いた車内へ座り込む。シートベルトをして背負っていたリュックを前に抱える。やがて車は動き出した。
ふと窓の外を見ると、辺り一面田んぼと畑しか目に入らなかった。僕が10年近く前に見た景色と殆ど変わらない。変わったことと言えば僕だけか。前はこんな陰気じゃなかったんだけどな。
車に揺られること数十分。やっと家に着いた。田舎あるある、やたらと広い庭。そこには多くのご近所さんらしき人たちと伯母の顔があった。
車を停めドアを開ける。すると一斉に人が押し寄せてきた。
「あらーこの子が御影さんの!?」
「やだーいかにも都会っ子って感じでかっこいいわねー」
……どうやら来て早々歓迎されてるみたいだ。なんだかこそばゆいやらなんやら……。
伯母の名前は
「よく来たねーあきちゃん、長旅ご苦労様だったねぇ」
「いえいえ、ここまでの道のりも楽しかったですよ」
「こんな田舎風景が楽しいってかぁ?都会の方が楽しかろうに」
「いや、なんだか新鮮だなって」
「ほら、こんなとこで立ち話もなんだから中入りなさいよ。麦茶用意してあるからねぇ」
「えー行っちゃうの?もっと顔拝ませてー」
なんてご近所さんたちの声を横目に家の中へと入る。中へ入ると段ボールの山が目に入った。よかった、ちゃんと届いたみたいだ。
伯母さんが冷えた麦茶を注いできてくれたので、一口口の中へと注ぎ込む。乾いた喉を潤してくれた。
「とりあえず最低限荷物出しちまうか。着替えとか出さなきゃしょうがないしな」
「はい、分かりました」
段ボールを開け、着替えやら布団やらを取り出す。そしてどこに仕舞うかを決め、ひと段落した頃には日も落ちかけていた。
「もうこんな時間か、飯にしちまうか」
「はい」
伯母のところへ行くと、丁度ご飯を並び終えたところだった。
「お、グッドタイミング。いっぱい食えよー?」
「ありがとうございます。頂きます」
そして僕は伯母さんの手料理をいただいた。どことなく母親の手料理の味に似ている気がした。
「ごちそうさまでした」
「はい、お粗末様」
食器を流しへと持っていく。ふと小窓から外を覗くと、星が瞬いたのが見えた。あんなに明るい星を見たのは久々だ。
「あの、ちょっと星を見てきてもいいですか?」
「あぁ、暗いから気を付けろよー」
僕は外に出て空を見上げた。そこには無数の星々がキラキラと瞬いていた。
「わぁ……」
思わず声が出た。僕がずっと望んでいた光景だ。あぁ、あの時と変わらない星の位置。当たり前のこととはいえ、幼い時に見た光景と同じものが目の前に広がっているというだけで感動した。
もっと綺麗に見れる場所はないのだろうか。僕はそれを探してみることにした。街灯の殆どない道を歩く。でも星明りがあるおかげでちっとも怖くなかった。
そして僕は、あるものを発見した。
「……階段?」
鬱蒼とした木々の中に、長い階段が上へと延びていた。どこに続いているのかが気になり、僕は登ってみることにした。
階段は思ったより長かった。普通に結構疲れる。でも後20段くらいだから頑張れ、僕。
そして何とか長い階段を登り切った。そこはなんと神社だった。こんなところに神社があったなんて知らなかったな。
僕は神社を探検することにした。といっても神社に特筆して凄いところなんて……。
いや、あった。
木で囲まれているこの神社だが、ここだけ木がなくて展望台のようになっている。そこからの景色が凄い。下の方を見れば村が一望できる。そして上を向けば満天の星空が広がっていた。
「すげぇ……」
「お、こんな時間に来客とは珍しいな」
「えっ?」
突然後ろから声が聞こえたので振り返る。そこには、背の高い袴姿の白い毛並みの狼が立っていて、僕は思わず後ずさりした。
「いいよな、ここからの眺めは。俺も好きなんだ」
「えっと、あなたは……」
「あぁ、俺、ここの神社のモンよ」
「もしかして入っちゃダメでした……?」
「いんや、こんな時間に人なんて早々来ないからさ、気になって話しかけただけ」
狼はこちらに歩いてきて、琥珀色の眼が僕の藍色の眼を捉える。正直人と目を合わせるのは苦手だ。目が合うと、なんだか心を読まれてるような気がして。
風が吹き葉っぱが揺れざわざわと騒ぎ立てる。そしてその騒ぎを遮るかのように狼が口を開いた。
「お前、この辺じゃ見ないな。どっから来たんだ?」
「と、都会の方から。今日こっちに来たばかりで」
「はえー。そりゃ見ないわけだ」
狼はそのまま俺の横を通り過ぎ、石製の柵にもたれながら言った。丁度白銀の狼の頭上に月が昇る。
「なぁ、名前なんてんだ?」
「御影昭人……です」
「歳は?」
「16です」
「え、マジで?タメじゃん」
まさかのタメであることが判明した。僕と同い年で神社の跡継ぎとは凄いな。
「俺、
「よ、よろしく」
「あ、後タメなんだからそんなカタくしなくていいぞ」
「うん、分かった」
宮田閃、か……そういえばさっき「宮田神社」って書いてあったような。帰ったら伯父さんに詳しく聞いてみようかな。
「なぁ、明日もここ来るか?」
「え?多分来れると思うけど……」
「んじゃまた来いよ。俺も一人でいると寂しいからさ」
「分かった、明日もこの時間に来るよ」
「おう、約束な」
そう言って閃は笑った。つられて僕も少し口角が少し上がったような気がする。
「んじゃ、また明日な」
そう僕に告げると、閃は夜の神社に消えていった。村に来て早々友達が出来ちゃったな。今まで一人も友達を作ってこなかったのにこうもあっさり出来るとは。
ふと空を見上げてみる。そこには一際輝く星があった。
何となくその星が、閃と重なって見えた。
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