第11話
「でも……」
「今いい所なの! ちょっとぐらい我慢できるもん!」
確かに、ゲームは同点でラストターンを迎えている。
花鈴ちゃんは意地でもトイレに行きたくないみたいだし、こうなったらさっさとゲームを終わらせるしかない。
と言っても、ほとんどのゲームは時間制限系なので急げる余地はほとんどないのだけど。
「ひぅっ……ぁぅ……くぅっ……」
限界が近いのだろう。
操作のない時間はお腹の下を押さえて困った声をあげている。
隣の僕も気が気じゃない。
だから、相手を倒す系のゲームが出た時は本気を出して瞬殺した。
接待がバレてしまうけど、そんな事を言ってる場合じゃない。
「終わったよ! ほらトイレ!」
「結果発表がまだだし!」
「言ってる場合!?」
「二人で頑張ったんだよ! 勝つところ見逃したくないもん!」
涙目になって花鈴ちゃんが言う。
たかがゲームで大袈裟な! と思うのだけど。
花鈴ちゃんにとってはちゃんとしたゲームも協力プレイも初めてなのだ。
僕だって、小さい頃はトイレに行くのを我慢してゲームにのめり込んだ事が何度もある。
RPGのクライマックスなんか特にそうで、本気で漏らしそうになった事だってあるくらいだ。
ゲーマーだからこそ、花鈴ちゃんの気持ちはバカに出来ない。
「……そうだね。頑張ろう!」
だから僕は花鈴ちゃんの気持ちを尊重する事にした。
二重の意味でハラハラしながら結果発表を待つ。
このゲームは道中で獲得した得点の他にも、○○で賞みたいなランダム要素で点数が増える。
今の所僕らのチームが勝っているけれど、この点差では最後まで油断できない。
あぁ、お願いします忍天堂様!
花鈴ちゃんを勝たせてあげてください!
と、オタ漫の僕ともあろうものが、パーティーゲームに本気で手に汗を握った。
そしてついに、最後の集計が終わる。
結果は、一点差で僕らの勝ちだ。
「やった! 勝った! 勝ったよ花鈴ちゃん!」
ガッツポーズで隣を見ると。
「やったあああああああああ!」
花鈴ちゃんが体当たりの勢いで抱きついてきた。
「勝った勝った! あたしらの勝ちぃ! いぇ~い!」
と、たわわな胸に僕を抱きしめて、興奮した犬みたいにはしゃぎまくる。
恐るべし陽キャノリ……。
って、言ってる場合じゃない!
「わ、わかったから! それよりトイレ! もういいでしょ!?」
「あ、そうだっ……た……」
本気で忘れていたようで、花鈴ちゃんが慌ててお腹の下を押さえて青ざめる。
「か、花鈴ちゃん? もしかして……」
「まだ出てない! ちょっとだけ!」
「出てるじゃん!?」
「怒んないでよ!?」
「いいから急いで!」
「急いだら出る! 急かさないで!」
と、涙目になりながらよろよろと立ち上が……れない。
「ま、漫太……。た、立たせぇてぇ……」
すこしでもお腹に力を入れないようにと、へろへろの声で花鈴ちゃんが懇願する。
僕は何も考えずにイエスマンに徹した。
花鈴ちゃんに刺激を与えないように、そっと肩を貸して立たせる。
「歩ける?」
「……がん、ばりゅ……」
ふーふーと息を荒げながら花鈴ちゃんが言う。
マジでヤバそうなんだけど。
「……洗面器、取ってこようか?」
ぶっちゃけ、おねしょも裸も見ちゃったし、漏らされるくらいならここで洗面器にしてくれてもかまわないのだけど。
「やら! 絶対、トイレで、するのぉ……」
という事で、花鈴ちゃんの肩を支えて階段を降りていく。
「ひぅ……はぅ……ぁぅううう……」
一段下りる度に、耳元で切実な声が喘いだ。
正直ちょっとエッチだった。
って、バカ!
そんな事考えてる場合じゃないでしょ!
花鈴ちゃんは家族で妹で同級生のクラスメイトのおっぱいの大きい美少女ギャルで――
あぁもう! こんなのエッチにならない方が無理だってば!?
と、僕も困った状態になりながら、なんとかトイレの前までやって来る。
「あとちょっとだよ! 頑張って!」
「…………ぅ」
もう、花鈴ちゃんはまともに返事も出来ない状態で、僕が開いた扉の向こうによろよろと消えていった。
「……みみ、ふさい、で……」
最後の気力でそれだけ言うと、怒涛の放水が始まった。
ちゃんと耳を塞いだけど、それを貫通する勢いだ。
それでまぁ、なんとか事なきを得た。
終わった後、花鈴ちゃんはお風呂に入って服も着替えていたけど。
僕は現場を見ていないし、今回はギリギリセーフという事にしておく。
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