第10話

「ねぇ漫太。それ、面白い?」

「面白いよ」


 お昼ご飯を食べた後、部屋に戻ってパソコンでゲームをしていると花鈴ちゃんがやってきた。


 また勝手に入って来て! と思うけど、最近は可愛いので許してあげよう。


 やましい事をしている時は鍵をかけるしね。


「ふ~ん」


 真後ろに立った花鈴ちゃんが背もたれに手を置いて気のない返事をする。


 後頭部におっぱいの気配を感じて僕は気が気じゃない。


「どんなゲームなの?」

「知らない星に不時着して、資源を集めて色んな部品を作って、ロケットを飛ばすゲームかな」

「なんか難しそう」


 花鈴ちゃんが徐々に前のめりになり、ゆらゆらと背もたれを左右に揺らす。当然僕も揺らされるけど、頭の上にふにょんと乗った二つの気配に免じて文句は言わなかった。


「……まぁ、実際難しいゲームかな。工場ゲーだし」


 テクノロジーの開発が進むごとに作れるものが複雑化し、機械の製作に必要な工程が増えていくのだけど、開発した機械で製作工程を自動化するのがこのゲームのキモだ。 


 上手くやれば、自分は何もしなくても資源の採掘から運搬、部品の組み立てや製作まで全てを自動化する事が出来る。


 ぱっと見は地味なゲームだけど、やればやる程味の出る良ゲーだ。


「……むぅ」


 花鈴ちゃんには難しかったようで、頭の上で唸っている。


「なにしにきたの?」

「暇だから……。漫太っていっつもゲームばっかりしてるから、そんなに面白いのかなと思って……」

「面白くなかった?」

「……そういうわけじゃないけど。あたしにはちょっとわかんないかな……」


 つまり面白くなかったのだろう。

 あの花鈴ちゃんがオタ漫の僕に気を遣ってくれているのだから凄い変化だ。

 花鈴ちゃんなりに、僕に歩み寄ろうとしてくれているらしい。


「色んなゲームがあるからね。花鈴ちゃんはどんなゲームが好きなの?」


 折角の機会だし、花鈴ちゃんにゲームを布教しよう。

 お姉ちゃんが居た頃は二人でよくゲームをしていたし。

 花鈴ちゃんがオタクになれば、会話も弾むし遊び相手も増える。

 良い事尽くめだ。


「あんまりゲームとかした事ないかも。携帯のパズルくらい?」

「なるほど。じゃあ、まずは初心者コースからかな」


 そう言って、僕はパソコンを落とした。


「遊んでたんじゃないの?」

「一人用だし、花鈴ちゃん向けじゃないから。折角だし、二人で遊べる奴やろうよ」

「……いいけど。あたし絶対下手くそだよ?」


 不安そうに花鈴ちゃんが言う。


「別に良いでしょ。ただのお遊びなんだし」

「……そうだけど」


 まぁ、イケてるギャルの花鈴ちゃんがオタクの僕に弱みを見せたくないという気持ちは理解出来る。だから僕も、うっかりマウントを取ってしまわないように気を付けないと。


 というわけで、僕が選んだのは忍天堂で有名なヒゲのおじさんシリーズのすごろくパーティーゲームだ。


 ゲーム初心者にはとりあえず忍天堂の子供向けゲームを勧めておけば間違いないと僕は勝手に思っている。


「あ、これは知ってる。マル男の奴でしょ?」

「うん。協力して遊べるすごろくみたいなゲームだよ」

「へー。面白そう」


 というわけで、早速最弱のCPUを敵にして、2対2のチーム戦を始める。

 ここは上手く花鈴ちゃんを接待して、ゲームの面白さを知って貰いたい。


「えー。どの子にしようかな? 可愛いから、このお姫様にしよっかな」


 流石は忍天堂だ。

 キャラセレクトの時点でギャルのハートをがっちり掴んでいる。


「じゃあ、僕は下僕のキノコ君で」

「あははは。ちっちゃいし、漫太みたい!」


 無邪気に笑うと、花鈴ちゃんはハッとした。


「今のは悪口じゃないから! ちっちゃくて可愛いって意味!」


 必死になって弁解する花鈴ちゃんが面白い。

 別に僕がチビなのは本当の事だし、バカにされるのも慣れてるんだけどね。


「可愛いって、僕が?」

「キノコ君が!」


 お道化る僕に、真っ赤になって花鈴ちゃんが叫ぶ。

 そんなこんなでゲームを始めるのだけれど。


「えい! えい! とぁ! 見て見て漫太! 綺麗に焼けたよ!」

「やだやだやだ! 怖いのが追って来てる!」

「ひぃいいい! 指攣っちゃう! 指攣っちゃう!?」


 と、ここでも流石の忍天堂だ。


 ゲーム初心者の花鈴ちゃんでもすんなりルールを飲み込んで、イイ感じに遊べている。


 プレイの方は正直ド下手くそだったけど、楽しんでくれているならそれでいい。


 僕も隣で一喜一憂する花鈴ちゃんを横目で鑑賞しつつ適度に手を抜いてプレイした。


 残念ながら点数ではCPUに負けてしまったけど。


「うああああああ! 負けっちゃったあああああ! あとちょっとだったのにぃいい!」


 悔しそうに花鈴ちゃんが足をバタつかせる。


 ゲーム自体はずっと接待だったけど、子供向けのゲームに熱くなっている花鈴ちゃんと一緒に遊ぶのは初心に帰ったような気がして楽しかった。


 ゲームってこういう物だったなって感じ。


「惜しかったね。でも、初めてなのにこんなに動けるなんて、花鈴ちゃん才能あるよ」


 と、すかさず僕は持ち上げるのだけど。


「もう一回やろ! 今度は絶対勝つし!」


 花鈴ちゃんはそんな事よりもゲームという感じだ。

 もちろん断る理由はない。

 それで早速再戦するのだけど。


「…………花鈴ちゃん、トイレ行って来たら?」

「平気だし! それより、こいつらに勝つのが先! コンピューターに舐められたまま引き下がれないでしょ!」


 花鈴ちゃんは僕のクッションを挟み込むように内股になって物凄くもじもじしている。上半身も荒ぶって、前後左右に揺れまくりだ。


 ……これはちょっと、ヤバいんじゃないだろうか?

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