第4話
膝をガクガクさせながら涙ぐむ清水さんは、この世の終わりみたいな顔をしていた。
僕も多分似たような顔をしていた。
クラスメイトで同級生の義理の妹の裸を見てしまっただけでもヤバいのに、その上高校生にもなっておねしょだなんて。しかもこれまで僕をバカにしてきた天敵のあの清水さんが!
情報量が多すぎて、僕の頭はフリーズした。
それなのに、目はジロジロと初めて見る女性の神秘を見つめてしまう。
いや、ダメだって!
「ご、ごめんなさいっ!?」
慌てて扉を閉めるのだけど。
「ま、待って! 待ってえぇ!?」
ばたばたと清水さんが立ち上がり、扉に飛び付いて開けようとする。
「ちょ、清水さん!? 開けないでよ!?」
「これは違うの! そういうんじゃなくて! たまたま! その、お茶零しちゃって!?」
いつものクールでおっかない顔はどこへやら。
清水さんはボロ泣きの鼻水べしゃべしゃ顔で苦しい言い訳を吐く。
「わかった、わかったから! 僕は見てない! 全部忘れる! だから開けないで! 清水さん、全裸なんだよ!?」
「だって信じてないでしょ!? あたしがおねしょした事学校中に言い触らす気でしょ!?」
「言わないよ!? 言うわけないでしょ!?」
あぁもう! 折角誤魔化そうとしてあげたのに自分でおねしょしたって言っちゃったし!
「嘘! そんなわけない! お願いだから言わないで! こんなのバレたら、あたし学校に行けなくなっちゃう!」
「だから言わないって! お願いだから信じてよ!」
「漫太、どうした?」
「大丈夫?」
これだけ騒いだらそりゃ父さん達も起きるだろうさ。
でも、こんな姿を見せるわけにはいかない。
「な、なんでもないから! 二人とも、こっち来ないで!?」
そんな言い訳が通用しないのは分かっているけど、それでも僕は必死になって清水さんを庇った。
だって、高校生の女の子がおねしょで泣いているのだ。
義理でも一応妹なわけだし、幾ら大嫌いな天敵でも、庇わないわけにはいかないだろう。
って、義母さんはなんて格好してるんだ!?
チラッと振り返り、僕は仰天してしまった。
義母さんはスケスケのカーテンみたいなエッチなネグリジェでご登場だ。
薄っすらとエッチな下着や身体のラインが透けていて、僕は慌てて視線を戻すけど、こっちはこっちで扉の隙間から清水さんの裸体がチラチラしている。
当然のように非モテ童貞の僕はこの一瞬で今までの人生の全てよりも多いエッチ体験をしてしまい、頭がパンクしてしまいそうだ。
あわあわしながら扉越しに熾烈な攻防を繰り広げる僕達を見て、義母さんは言った。
「あらあら。やっぱりしちゃったのね……」
「慣れない環境で不安だったんだろう。花鈴ちゃん、気にしないでいいんだからね」
生温かい笑みを浮かべて二人が言う。
「父さん、知ってたの!?」
「そりゃ、これから家族になる娘さんの事だからな」
「ごめんなさいね漫太君。この通り、花鈴ちゃんまだおねしょが治ってないのよ。最近は大丈夫だったんだけど……。そういうわけだから、この事は内緒にして貰えるかしら?」
「……それは勿論、いいんですけど……」
ハラハラしながら振り向くと、清水さんがこの世の終わりの終わりの終わりみたいな顔で真っ赤になって震えていた。
「うえ、ふぇぇ、びぇえ……なんで言っちゃうの!? ママのバカ、バカバカバカァ! もうやだ、うぁああああああああん!」
へなへなとその場にへたり込むと、清水さんは赤ちゃんみたいに泣きだした。
……まぁ、こんな状況になってしまったら泣きたくもなるだろうけど。
せめてもの慈悲で、僕はそっと扉を閉じた。
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