第3話

 深夜、ふと僕はおしっこがしたくなって目が覚めた。


 寝ぼけ眼を擦りながら部屋を出ると、廊下の電気がついていた。


 普段は寝る前に消しているから、清水家のどちらかが消し忘れたのだろう。


 それは別に良いのだけど、なんだか妙な気配がした。


 ほんわりと、変な匂いがするのだ。


 最初は清水さんか義母さんの匂いかと思ったのだけど、それにしては妙だった。


 すれ違った時にふわりと香る女の人特有の良い匂いとはちょっと違う。


 なにかもっと、イケナイ感じの匂いがした。


 眠かったので、それが何なのかについては深く考えなかった。


 僕の部屋は二階で、トイレは一階にしかない。


 裸足でひたひた廊下を歩くのだけど、またしても妙な感じがして僕は足を止めた。


「………………?」


 所々、雫を垂らしたみたいに床が濡れているのだ。


 なぜ?


 分からない。


 義母さんか清水さんが寝る前にお風呂に入り、身体をよく拭かずにその辺を歩き回ったのだろうか?


 あるいは二人がトイレに行った後、手を拭かずに戻ってきたという可能性もある。


 偏見だけど、なんにしたって清水さんの仕業だろうと僕は決めつけた。


 ご飯の後の食器も片付けないし、そういうガサツな事をしそうな子だ。


 全く、最低の妹が出来たもんだ。


 やれやれと溜息をつきながら、僕は一階に下りていく。


 すると、一階の電気も付けっぱなしだった。


 それどころか、お風呂場の電気も付けっぱなしで、脱衣所の扉の向こうから、清水さんのものと思われる「ひっぐ、えぐ、えっぐ、うっぐ……」という押し殺した泣き声が聞こえてきた。


 僕はドキッとして動けなくなってしまった。


 だって、あの傍若無人の清水さんが夜中に一人で泣いているのだ。


 嫌な奴だと思っていたけど、これはかなりのショックだった。


 義母さんの言う通り、清水さんなりに色々思う事がって、夜中に起きて一人で泣いてしまう程不安だったのだろう。


 そう思うと、途端に僕は清水さんの事が可哀想に思えてしまった。


 今まで意地悪ばかりされてきたし、兄妹になったのだって不本意ではあるけれど、そうは言っても僕らは家族になってしまったのだ。


 やっぱりここは、お兄ちゃんの僕が歩み寄って支えてあげるべきなんだと思う。


 それで僕は決意して、脅かさないようにそっと脱衣所の扉を開いた。


「清水さん、大丈夫?」

「びやああああああ!?」


 どうやら清水さんは超ド級のビビりだったらしい。


 僕の気遣いも虚しく、近所迷惑な悲鳴をあげて腰を抜かし、その場にぼふんと尻餅を着いた。


「………………嘘でしょ」


 目の前の光景に唖然として、僕は言葉を失った。


 脱衣所には洗面台もあって、清水さんはそこで下着とパジャマを手洗いしていた。


 だから清水さんはすっぽんぽんの素っ裸で、ビビり散らかした半泣き顔で僕にM字開脚を晒している。


 それだけでもヤバいのに、清水さんの大きなお尻の下には立派な世界地図の描かれた敷布団が敷かれていた。


 閉め切られた脱衣所には、もんわりと噎せるようなおしっこの匂いが充満している。


 どうやら清水さんは、もうすぐ高校二年生になるというのにおねしょをしてしまったらしい。

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