第20話 いつか有栖が死神に戻ったら
いつも探索しているダンジョンは、薄暗いながらも灯りとしてライトが取り付けられている。
でも俺たちが入ったこの新たなダンジョンにはそれが無い。
当たり前だ。まだ誰も入ったことがないのだから。
「【光星】」
渚が手のひらサイズの光の球を浮かべる。
それはぼんやりと、俺たちが進む道を照らし出した。
「助かる」
「光の能力者だもの」
渚は大したことじゃないというように肩をすくめた。
俺が真ん中で右に渚、左に有栖。
3人が並んで歩いているのだが、それでも壁との間隔は十分にある。
いや、ありすぎる。
渚の妹を助けるために入った中ダンジョンの、およそ2倍くらいはある。
「何か……やけに広くない?」
有栖も同じことを感じていたようで、歩きながら軽く首を傾げた。
「私は今まで、何個か中ダンジョンに入ったことがあるけど、その中でもトップクラスに広いよ」
「やっぱり広いよな?」
「うん。でもまあ、役所のお姉さんもここは中ダンジョンで間違いないって言ってたし……」
「ひとまず今は、前に進む以外に選択肢はないんじゃないかしら」
「そうだね。渚ちゃんの言う通り」
ダンジョンの卵の映像、さらに地下の空洞の様子を判定できる装置によって、ここは中ダンジョンの規模であると判定されている。
ここに間違いはないはずだ。
道が広いのはたまたまか。
「あら、モンスターがお出ましみたいね」
渚が【光星】を動かし、ダンジョンの少し奥を照らす。
そこには大きなクモ型のモンスターがいた。
頭から尻までで、おそらく2m弱はある。
高さは俺の胸くらいだ。
「あー、これは炎の能力が相性いいんだよね。まだ第一層なら一人でも大丈夫だし、ここは私に任せてよ」
くるりと大鎌を一回転させて、有栖が強く地面を蹴った。
刃に炎を宿しつつ、モンスターの方へと向かっていく。
「キシィィィィィ!」
モンスターの方だって、黙ってやられるなんてことはない。
口元から勢いよく糸を噴射した。
数本の糸が絡み合い、複雑な軌道を描きながら有栖へと襲い掛かる。
しかし彼女に、全く焦る様子は見られない。
「【輪斬炎】!」
有栖は炎を宿した鎌を振るい、糸に対して角度をつけて前に宙返りを決める。
糸はばっさりとまとめて断ち切られ、モンスターの側に残った糸を伝って炎が襲いかかる。
どうやらこの糸、よく燃える性質があるようだ。
炎が相性がいいというのはこういうことか。
「キシィィィィィ!」
口元へ炎が直撃し、モンスターは大きな悲鳴を上げた。
しかし、まだ倒れる様子はない。
「そりゃ、これくらいじゃ死なないよね!」
さらに加速して、自分の間合いに入る有栖。
渚は渚で、【光星】を動かし戦闘を援護する。
「【炎鎌霰】!」
刃先を何度もモンスターの体に突き立て、確実にその体力を削り取っていく。
中ダンジョンの第一層に出てくる程度のモンスター。
全く同じではないにしろ、同レベルのダンジョンを完全攻略している有栖からすれば、1人で十分に倒せる相手なのだろう。
能力不調障害によって、まるで本領を発揮できないとしてもだ。
「とどめだぁ! 【嵐回炎鎌】!」
一段と速度を上げ、嵐のような攻撃を浴びせる有栖。
「キシィィィィィ!」
クモ型モンスターは断末魔の鳴き声を上げると、ぐったり地面に突っ伏した。
そして砂となり、さらさらと消えていく。
「はぁ……はぁ……」
有栖は振り返って、俺たちにグーサインを出した。
顎から滴る汗が、不意にあの配信の姿を思い出させる。
もし、彼女の能力不調障害が治ったら。
その時、『覇天の新星』は大幅に戦力アップする。
だけどその瞬間までに、俺と渚もその次元へとたどり着かなくちゃな。
「あ、これは……」
有栖は戻りがてら、地面に落ちていた鈍い光を放つ石を拾った。
渚の【光星】に照らして見る。
黒っぽく鈍く光るこれは……晶石だ。
モンスターを倒した後に、稀にドロップする鉱石。
倒したモンスターが強ければ強いほど、その純度は高くなり、同時に価値も上がる。
これはそこまで上等の晶石ではないけど、価値があることに変わりはない。
「ラッキーだね」
有栖は手のひらサイズの晶石を、ポケットにしまって笑った。
彼女が倒したモンスターから落ちたのだから、これは彼女のものでいいだろう。
「さーてと、先に進もうか」
「そうね。次は私に戦わせてちょうだい」
渚は刀に手を掛け、少しうずうずした様子を見せている。
俺たちは未開のダンジョンのさらに奥へと、並んで歩き始めるのだった。
渚の【光星】を頼りに。
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