第1章 最強になるには仲間が必要。
第6話 成長し覚醒した俺としては幼女の悲鳴を聞いたら助けないわけにはいかない。
世界初の五大ダンジョン攻略から半年。
大きく変わると思われた世界だったが、それほど劇的には変わらず、されど確実に変化の波は押し寄せていた。
ダンジョンの現れた新世界では、大きな権力を持つ勢力が2つある。
一つは探索者たち。特に5つの最強ギルド五天。
そしてもう一つは、世界的なダンジョン研究機構であるWDRO。
そのどちらもが、大きく動きを変えなかったことが、世界の平穏をある程度守ったと言える。
ただもちろん、『東方旅団』以外の五天にしてみれば、先を越されたのは面白くない。
結果として、よりダンジョン探索が熱心に行われるようになった。
……とまあ、これは言ってみれば天界の話。
まだ実績のない俺にとってみれば、雲の上で起きていることに過ぎない。
ただ俺だって、目標に《
最初に泡の能力を極めると決めた日から、1年と8か月。
新たな技が覚醒し、それが成長し。
家の近くにある小ダンジョンはたいてい攻略できるようになっていた。
こうなってくると、いよいよ中ダンジョンへということになってくる。
ただその前に立ちはだかる大きな問題。
「仲間を集めないとなぁ……」
とある小ダンジョンを攻略しながら、俺はひとりで呟いた。
中ダンジョンともなれば、ソロで攻略する人はほとんどいない。
大抵の場合、ギルドメンバーなどとパーティーを組んで挑むことになる。
ただ俺にはその相手が1人もいない。
だからどこかのギルドに入るか、誰かを勧誘してギルドを設立するかしなければいけないのだ。
そりゃ、例えば五天に数えられるギルドのメンバーとかだったら、ソロで中ダンジョンを攻略するくらい何てことないだろう。
でも今の自分にそれほどの力があると思うほど、俺は傲慢な性格ではなかった。
「出たな」
薄暗いダンジョンの奥から、モンスターが姿を現す。
何てことはない。ゴブリンだ。
小さな体でわちゃわちゃと8体ほど。
仲間集めはちゃんと考えるとして、今は目の前のモンスターに集中しないとな。
「【
スライムダンジョン周回中、氷スライムを倒した時に、笛の音と共にやってきた技。
8体をちまちまやるのは面倒なので、まとめて一つの泡で包み込んでしまう。
「キキ……」
ゴブリンたちは、泡の中でカチコチに凍り付いた。
とはいえ、まだ冷凍されただけで死んではいない。
ここから倒すためには、もう少し手を加えてやる必要がある。
「【
俺が唱えた瞬間、泡の中で凍っていたゴブリンたちが粉々に砕け散った。
そしてかつてゴブリンだった氷の欠片は、細かい砂となって消えていく。
最初に【
その中の一つが、今の【
通常の【
この発見、そして使いこなすための努力は、この8か月間で大きな成長と覚醒をもたらした。
「さーてと、どんどん進むか」
特に晶石などはドロップしていないことを確認して、俺はさらに先へ進もうとする。
その時だった。
「きゃー!」
ダンジョンには似つかわしくない、幼い女の子の悲鳴が上がる。
悲鳴の出どころは、おそらくダンジョンの奥。
「大丈夫か!?」
俺は届くか分からない声を上げつつ、一目散に駆け出す。
「助けてー!!」
やっぱり小さな女の子の声だ。
ただ何かに驚いたわけではなく、明確に助けを求めている。
「今行くぞ!」
再び大声で呼びかけ、さらに速度を上げる。
そして層の終端間際まで来た時、3つの影が見えた。
1つはモンスターだ。
さっき俺が凍らせて砕いたゴブリンより大きなメガゴブリンと呼ばれるモンスター。
そして残りの2つは人だ。
悲鳴の主だと思われる少女、というより幼女が地面にうずくまって震えていて、その少し後ろには同じく地面に倒れ込んだ男がいる。
「大丈夫ですか!?」
慌てて幼女とモンスターの間に立ち、後ろの2人に声をかける。
すると倒れていた男の方が、弱々しい声を上げた。
「す、すみません……。どうやら……かなりのケガを……してしまったようで……。娘だけでも……ダンジョンの外へ……逃がしてあげてくれませんか……?」
なるほど。
この倒れている男性が父親、幼女が娘なのか。
確か低年齢の子供がダンジョンに入ることは、親の同伴の有無にかかわらず禁止されていたはずだけど……。
ただ実際にこういう事態になってしまっている以上、助ける以外の選択肢はない。
「2人とも助けます。そのままじっとしていてください」
俺はメガゴブリンの動きを警戒しつつ、2つの泡を生み出す。
同時に複数の泡が出せることも、成長の一つに数えられるよな。
「【
金属スライムを倒して手に入れた鋼鉄のように硬い泡。
親娘をそれぞれ包み、シールドの代わりにする。
そして全神経はメガゴブリンへ。
炎と雷のコンボ技でぶっ飛ばしてやろうと思った瞬間だった。
後ろの方から、何かが猛烈な勢いで近づいてくる。
ダンジョンに潜り続けていると、自然と気配が感じられるようになってくるのだ。
間違いない。後ろから何かが近づいてくる。
敵か味方か。
本当は落ち着いて判断したいところだけど、そうも行かない。
メガゴブリンが手に持っていた大きなこん棒を振り上げたのだ。
「【
2つの泡をメガゴブリンに重ねがけ。
そして思いっきりコンボ技をぶちかます。
技名を口にし始めた瞬間に、何かが横を高速で通り過ぎた。
おそらくはさっきの気配。
でももう止まれない。
「【
「【光閃一刀】」
俺の技に、誰かの技が重なる。
そして凄まじい爆風が発生した。
辛うじて立ち堪えた俺の前で、メガゴブリンが砂となり消えていく。
そのさらに奥で、ふわりと地面に着地した美しい顔立ちの女性探索者が、日本刀らしき武器を鞘に納めて振り返った。
「……誰?」
氷のように冷たい目。無表情。
いやいや、お前こそ誰だよ。
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