第5話 プロローグの終わりは新時代の到来を予告する。
数日後。
「【
ビッグサイズの泡が、ボス級の巨体スライムを包み込む。
バリバリと稲妻が走り、ボススライムは砂となって消え去った。
出現した転移門をくぐれば、そこはダンジョンの入口だ。
「17回目、と」
スマホにメモされていた「16回目」の文字を消し、新たに書き直す。
スライムダンジョンに挑むこと、これで17回目となった。
踏破回数も17回。要は攻略率100%である。
繰り返し使うことで、【
俺がお世話になった例のサイトには、例え攻略が余裕だったとしても、初めは簡単なダンジョンで戦闘に慣れることが大切と書いてあった。
その言いつけを忠実に守り、俺はこの小ダンジョンを周回しているのだ。
とはいえ、いつまでもここで留まっているわけにはいかない。
そんなことをしていたら、探索者として稼ぐことも《
タイミングを見計らいつつ、もう少しレベルの高い小ダンジョンへ、さらには中ダンジョンへと進んで行く必要がある。
でも今は、もう少しだけ。
「18回目、行くか」
技の精度を上げつつ、スライムを狩りまくることにしよう。
※ ※ ※ ※
アメリカ・ニューヨークにある『世界ダンジョン調査機構』。通称WDRO。
ここで研究を行う学者の1人に、
齢にして47。
ところどころ白髪混じりの彼は、小さな会議室で7人の学者を前に話をしていた。
冨中の目の前にいる7人は、このWDROの所長であるデニス・コーディーを始めとした上層部の学者たちである。
「その情報は確かなんだな……?」
眉間にしわを寄せ、デニスが冨中に問いかける。
疲れ気味ながら、どことなくワクワクした少年のような目で、冨中は答えた。
「間違いありません。昨日、リーダー本人から直接報告がありました。探索者ギルド『東方旅団』が、エジプトはギザのピラミッドの近くにある超極大ダンジョンの完全踏破に迫っています。世界初の五大ダンジョン攻略は時間の問題かと」
7人の学者たちは、互いに真剣な表情で顔を見合わせる。
そして彼らは、富岡に会議室から出て行くよう命令した。
伝えるべき情報は伝えた富岡は、ただ一礼して出て行く。
残された7人は、しばらくの間おのおの考え込み沈黙した。
「やはり『東方旅団』か……」
沈黙を破ったのは、所長のデニスだった。
それをきっかけに、他の学者たちも次々に口を開く。
「全く血筋というのは面倒なものだな」
「ただ上手く利用すれば、我々の目的達成に大きく近づく」
「それができたら苦労しないだろう。リーダーのゲンユウは明らかに我々を警戒している」
「無理もない。奴はゲンクウの息子だからな」
いかに有力な探索者といえど、大ダンジョンや超極大ダンジョンにソロで挑むのは難しい。
そこで実力のある探索者たちが、自然と組み始めたのが探索者ギルドだ。
世界には大小数多のギルドがあるが、特にそれぞれの五大ダンジョンで踏破に最も近く迫っている5つのギルドは『五天』と呼ばれている。
つまり最強の5つのギルド。
その一つが、今ちょうど話題に上がっている『東方旅団』だ。
「どう対応する?」
「どうもこうもないだろう。今さら『東方旅団』を止められるなら、もうとっくにそうしている。今は着実に情報を集めるほかない」
「問題はダンジョンの終点で奴らが何を見つけ、どう考えるかだ。最悪の事態も想定できる」
「WDRO直属の戦力も準備しておかねばならないか……」
あれこれ意見が飛び交うなか、デニスは初めに沈黙を破って以降、再び黙り込んでいた。
しばらく学者たちの声に耳を傾けた後、おもむろに口を開く。
「『東方旅団』はダンジョンの最深へたどり着く。どうやらこれは間違いないようだ」
低く威厳のある声に、他の学者たちは議論を止めて耳を傾ける。
デニスはなおも続けた。
「あのエジプトのダンジョンに《
デニスは立ち上がり、後ろを振り返った。
窓の外では、もう間もなく太陽が沈もうとしている。
暗闇がやってくる直前の燃えるような赤が、空を染め上げていた。
「世界にダンジョンが現われてから30年……。この世界は新世界と呼ばれるようになった。ダンジョンのない世界を知らない新世代が活躍するようになった。今度変わるのは時代だ」
学者たちの方に向き直ったデニスの顔に浮かぶのは、高揚と覚悟の入り混じった顔。
「かつてないほど、新時代の到来が近づく」
はっきりと“新時代”という言葉を耳にした学者たちは、より険しくより真剣な顔になった。
「ここまでの30年間は、あくまでプロローグに過ぎない。物語はこれからだ。新時代の訪れはまもなくだ。準備を整えよう」
学者たちは深く頷き、それぞれの仕事へと去っていく。
1人残された部屋で、デニスは静かに呟いた。
「できることなら目覚めるな……
この約2ヶ月後。
五天の一角『東方旅団』によって、世界初の超極大ダンジョン制覇が成し遂げられるのだった。
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