第4話 炎と雷と水。もしかして強いんじゃね?

「【火炎泡ファイアーバブル】……」


 声が言っていた単語を反復してみる。

 文字通り炎の泡。そして俺は泡の能力者。

 普通なら、新たな技を習得したと考えるのが自然だ。


「【火炎泡ファイアーバブル】」


 手のひらの上に、泡を浮かべてみる。

 見た目には、今まで出していた泡と何ら変わりない。

 でも火炎というからには違いがあるはずだ。

 頭の中に炎を思い浮かべたその時。


「うおっ……! って、あっつぅ……!」


 ボッと音がして、泡の中で炎が燃え上がった。

 手のひらがかなりの高温にさらされる。

 泡によって1枚というか1膜というかの壁があったおかげで、大事には至らなかったが、この炎を直に食らったら大火傷だ。

 それはつまり、泡の中に閉じ込めた相手にダメージを与えられることを意味する。


「これは大きいぞ!」


 いくら努力して泡の強度を増したとはいえ、押し潰し戦法では限界がある。

 何せスライムでぎりぎりだったのだから。

 そこで手に入ったこの【火炎泡ファイアーバブル】。

 新たな攻撃手段はありがたいったらありゃしない。


 テンションが上がったところで、さらに奥へと進んで行く。

 するとまたしてもポチャポチャ音がして、スライムがその姿を現した。

 今度は紫色。

 ということは雷スライムだ。


「【火炎泡ファイアーバブル】」


 早速、身に付けたばかりの新たな攻撃手段を使ってみる。

 発動する時の感覚、狙いの定め方は普通の【バブル】と同じだ。

 見た目にはただの泡が、紫色のスライムを包み込む。

 雷スライムは泡の壁に軽く体当たりしてみるが、それしきで壊れるほどやわじゃない。

 俺の訓練をなめるんじゃないぞ。何せ大学を捨てた男だ。

 ……自慢にならないか。


「さてと」


 俺の意のままに、泡の中で激しい炎が巻き起こる。

 直に食らった雷スライムは、どろどろに溶けたのち砂状になって消え去った。

 討伐成功だ。

 この【火炎泡ファイアーバブル】の火力、スライムは余裕で倒せるらしい。

 性質が通常の【バブル】と全く一緒なら、使っているうちにどんどん強度、威力も上がっていくはず。

 楽しみなもんだ……ん?


 ――ピーピピピピー。


 ついさっきも聞こえてきた笛の音が、再び響いてくる。

 それに続いて、やはり透き通った女性の声がした。


 ――おめでとう。【雷撃泡エレクロバブル】を習得しました。


 ……【雷撃泡エレクロバブル】。

 …………【雷撃泡エレクロバブル】。

 ………………【雷撃泡エレクロバブル】。


 んんんっ!? 【雷撃泡エレクロバブル】!?

 また!? また新技!?


「え、【雷撃泡エレクロバブル】」


 脳の処理が追い付かないが、物は試しと泡を浮かべる。

 さっきは炎。今度は雷撃だから雷だ。


「うおっ……!」


 泡の頂点から下に向かって、一筋の強烈な稲妻が走る。

 バチバチと激しい音が鳴った。

 どうしたことだ。また新たな力を手に入れてしまった。

 しかも炎に雷。破壊力満点のコンビだ。

 どうなっているのか考えようとするが、そんな暇を与えることなく、またスライムが姿を現す。

 今度は濃い青のスライム。水スライムだ。


「【雷撃泡エレクロバブル】」


 水に炎は相性が悪いだろうし、【火炎泡ファイアーバブル】よりも新技だ。

 これもコントロールは今までの泡と変わりないな。

 水スライムを泡が包み込む。


「それっ!」


 もはや水スライムが泡を抜け出そうとする時間すら与えず。

 雷がバリバリとゼリー状の体を貫いた。

 スライムの体が一瞬硬直して、砂となり消えていく。

 これで通算3体目の討伐だ。


 ――ピーピピピピー。


「またかよ!」


 スライムを倒すたびに、笛の音が鳴り響く。

 そして声が語りかけてくる。


 ――おめでとう。【沈水泡ウォーターバブル】を習得しました。


 ふむ……。

 これは何となく仕組みが分かってきたぞ。

 泡でモンスターを倒すたびに、新たな技が使えるようになる。

 そしてその技は、倒したモンスターに影響されるようだ。

 炎スライムなら【火炎泡ファイアーバブル】。

 雷スライムなら【雷撃泡エレクロバブル】。

 水スライムなら【沈水泡ウォーターバブル】というふうに。


 この笛やら声の主が誰なのか、どこにいるのか。

 炎スライムとはまた別の炎系モンスターを倒したらどうなるのか。

 そもそも何でモンスターを倒したら技が手に入るのか。

 細かいことはまるで謎の状態だけど、とにかくある程度の仕組みなら理解できたぞ。

 ちなみに言えば、スライムを1体倒すたびに強くなっていく能力など、全く聞いたことがない。


「あれ? ひょっとしてこの能力、めちゃくちゃ強いんじゃ……?」


 にわかに湧いてきた自信と共に、俺はさらにダンジョンの奥へと進むのだった。

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