第3話 泡の能力者vs炎スライムは新たな力を生み出す。
ただ単にダンジョンといっても、その規模は様々だ。
小ダンジョンはその名の通り小さなダンジョンで、層が少なく出てくるモンスターも弱い。
中ダンジョンは、小ダンジョンの2倍くらいまでの大きさのものだ。
最初の方は小ダンジョンと同じくらいのレベルだが、下層へ進むにつれてモンスターはどんどん強くなっていく。
そしてそれ以上の規模となると、大ダンジョンという分類になり、ここの下層ともなれば出てくるモンスターはバカみたいに強い。
今の俺が挑んだら、俺自身が泡のように弾け飛ぶことだろう。
大抵のダンジョンは、すでに誰かが一度は最下層まで到達している。
もちろん、ダンジョンには定期的にモンスターが湧くし、それらを倒した後に稀にドロップする晶石という鉱石は貴重な資源であるため、攻略済みだろうと挑む者は後を絶えないのだが。
ただ世界には、まだ誰も攻略したことのない超極大ダンジョンが5つある。
一つはエジプト、ギザの三大ピラミッドのすぐそばに。
一つはブラジル、広大なアマゾンの森林のなかに。
一つはアメリカ、南西部モハーヴェ砂漠の中央に。
一つは南極、極寒の氷の大地に。
そしてもう一つは日本、東京湾の海底に。
これらは世界五大ダンジョンといわれ、《
まあ俺にはまだ気の早い話で、まずは小ダンジョンから始めないといけないんだけどな。
小ダンジョンは最も数が多く、至るところに存在している。
ちょうど俺の近所、歩いて10分くらいのところにもあったはずだ。
身近にモンスターの住処があるなんて、よく考えればおっかない話だよ。
ダンジョン内の環境と地上の環境は微妙に異なるらしく、モンスターたちはダンジョンからは出てこられないらしいが。
「行ってきます」
誰がいるわけでもない独り暮らしの部屋に向かって言い、鍵を閉めて歩き始める。
探索者として一流になれば、圧倒的な収入が約束される。
ましてや《
お金よりも夢やロマン的なものの方が、俺をダンジョンへと導いていることは間違いないけど。
10分ほど歩いて、小ダンジョンへと到着した。
このダンジョンに住んでいるのは、何種類かのスライムのみだ。
最弱モンスターだけが住むダンジョン。まさに超初心者の俺にぴったりである。
「こんにちは」
「ん? ああ、らっしゃい」
ダンジョンの入口にある窓口に、60代くらいの男性が座っている。
元々こうした窓口には、役所の職員など公務員が常駐することになっていた。
ただダンジョン数の増加に伴い、最近ではリタイアしたシルバー世代の手を借りているという。
ここは危険度の非常に低いダンジョンだし、この人も正規の職員ではないのだろう。
何せどこか投げやりで、全くもって覇気がない。
「ダンジョン入りたいの?」
「はい。いいですか?」
「んじゃこれに名前と年齢、連絡先を入力して」
差し出された端末に言われた情報を入力する。
それを確認すると、受付の男性はダンジョンの入口を指差した。
「どうぞ。スライム相手に危ねーこともねーと思うけど、まあ気を付けてな」
「ありがとうございます」
一応お礼を言って、ダンジョンの中へ入る。
小ダンジョンの中でも小規模なだけあって、道幅は人が3人も並べばぎゅうぎゅうになる程度だ。
ダンジョンがここへできた後から取り付けられたと思わしきライトのおかげで、薄暗いものの問題なく進んで行ける。
「ん?」
ふと、ぽちょんぽちょんという音が弾むようなリズムで聞こえてきた。
俺は足を止め、ダンジョンの先に目を凝らす。
するとそこに、赤い色をしたゼリー状の生物が現われた。
サイズはバスケットボールくらい。スライムだ。
赤色ってことは炎スライムか。
「さてと……」
いよいよ、1年間の成果を試す時だ。
最弱で使い物にならないと考え、見切りをつけていた泡の能力。
鬼のように特訓した結果はどうだ……?
炎スライムは、時おり体をプルプルと震わせながら、こちらをうかがっている。
攻撃してこないなら、こっちから行かせてもらおう。
「【
炎スライムに向けて右手をかざし、静かに呟いた。
泡はゼリー状の体を取り囲むように生み出される。
自らの手元ではなく、離れた場所、それも狙った場所に泡を作り出す。
これも訓練してできるようになったことだ。
「浮上」
俺の意志に従って、泡がスライムの体を持ち上げ浮かび上がる。
よし、スライムの重みに耐えられる強い泡になってるな。
「収縮」
続けて右手をぎゅっと握り締める。
すると泡が収縮を開始した。
炎スライムの体を締め付けるように、どんどんと縮んでいく。
頼むぞ……途中で弾けるなよ……っ!
心の中で念じながら、炎スライムを締め付けていく。
泡の中にゼリーがパンパンになり、そういう駄菓子みたいだ。
そして不意に、パチンと音がした。
弾けたのは、泡ではなく炎スライムの方。
1年前、御堂有栖の配信で見た巨大ムカデのように、砂となって消えていく。
「やった……」
たかがスライム。されどスライム。
泡でも戦えることの紛れもない証明だ。
「やったぞぉ!」
俺は誰が見るわけでもない渾身のガッツポーズを決めた。
泡の強度が上がってきた時に思いついた、圧縮して潰しきるという戦い方。
ここまで上手くいくとは思わなかったけど、何より倒せたことが心の底から嬉しかった。
――ピーピピピピー。
「ん……?」
突如として、笛のような音が響く。
しかし周りには誰もいない。
きょろきょろ辺りを見回していると、続けて透き通った女性の声がした。
どうやらここに誰かいるわけではなく、何かが俺の脳内へ直接語りかけているみたいだ。
声がこう言う。
――おめでとう。【
……【
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