第2話 水と泡……まあ似たようなもんだろ。
思い立ったが吉日というわけで、熱意が冷めないうちに行動を開始する。
泡の能力を鍛えてどこまで行けるのか。
1日や2日で結果が出るとは思っていない。
長い戦いになるだろう。
「えーっと、とりあえずネットで調べるか」
検索サイトで[能力 初心者 鍛え方]と検索する。
ちなみに[泡の能力]と調べても、全くもって何も出てこない。
こんな能力を俺以外には誰も持っていないのか、持っていたとしても鍛えようなどと考えないのだろう。
泡の能力で活躍している能力者も、1人として聞いたことがない。
「『水の能力を段階を踏んで鍛えよう!』……か。水と泡って何となく似てそうだし、これにしよう」
強引なこじつけでサイトを選び、読み始める。
中学、高校でも能力強化の授業はあった。
しかしあくまでも受けたい人が放課後に受ける特別授業といった形で、泡の能力に絶望していた俺は一度も受けたことがない。
だからちゃんと能力を鍛えるのは、正真正銘これが初めてだ。
「『まずは水の球を手の上に作りだし、浮かべてみましょう。どれだけ小さくても構いません』。なるほど。【
水の代わりに泡を浮かべる。
この泡、本当に脆い。軽く突けばパチンと弾けてしまう。
鍛えればこれでも戦えるようになるんだろうか。
……いやいや、せっかくやる気になったのにネガティブなことを考えるのはやめよう。
「『今、あなたは水を浮かべることに精神を集中していると思います。では、よそ見をしてみてください』」
サイトの言うままに、泡から目を離して部屋の壁を見る。
するとパチンと音がして泡が消え去った。
集中が他のところへ行ったことで、持続させることができなくなったのだ。
「『ダンジョンでは常に周りを警戒する必要があります。能力を使うことに全神経を傾けるのは、非常に危険です。まずは、よそ見をしても能力が維持できるように頑張ってみましょう』。よーし。【
泡を浮かべる。よそ見をする。泡が弾ける。
泡を浮かべる。よそ見をする。泡が弾ける。
泡を浮かべる。よそ見をする。泡が弾ける。
この流れを延々と繰り返していく。
そして時間にして2時間、繰り返すことおよそ100回目。
泡を浮かべる。よそ見をする。泡が弾け……ない。
「おおっ!」
壁を見てから手の上に視線を戻しても、そこには透明で弱々しい泡が浮かんでいる。
一度その泡を突いて消し、さらに流れをやってみる。
やはり泡は消えない。
無事に第一段階は突破できたようだ。
「よっしゃ! 次だ次!」
これまでの人生で見せたことのないやる気を連れて、俺は次なる能力開発の段階へと踏み出すのだった。
※ ※ ※ ※
三日坊主で終わるかという不安もあった能力強化だが、俺にしては珍しく一日も欠かさずに続けた。
それもひとえに、水の能力者用に作られた例のサイトのおかげだ。
少しずつ細かい段階を踏んでいくから、壁らしい壁にぶつからない。
自分の成長が実感できてやる気も出てくる。
あのサイトを作った人、超有能だ。
それにどうやら俺には、他の人と比べて“才能”があったらしい。
能力の世界においては、2つの才能があると言われている。
一つは能力自体の強さ。もう一つは、その能力を使いこなす才能。
俺にあったのは後者だ。
サイトに書かれている想定期間よりも圧倒的に速い時間で、各段階を突破した。
まずはよそ見をしても泡を浮かべられるように。
次はその泡を自在に動かせるように。
何度も何度も能力を使っているうちに、泡のサイズもアップしていった。
少し離れた場所に泡を出せるようになり、強度が増して簡単には壊れないようになり、狙ったものを泡で包めるようになり、自在にサイズが調整できるようになり……。
そうしてちょうど1年が経過。
俺は無事に浪人2年目へと突入した。
そりゃそうだ。能力の勉強しかしてないんだもの。
というより、俺は途中から大学に行く気をなくしていた。
ひょっとしたら探索者としてやっていけるんじゃ……? と思い始めたのだ。
これもまた、予備校の講師が聞いたらブチギレそうなことである。
とにもかくにも三度目の大学受験をする気はすっかり失い、事実上のフリーターとなった俺は、とうとう決断するのだった。
ダンジョンに行ってみよう、と。
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