第一一話 超脳筋受験生、赤鬼

「よし。こんなもんかね。」


俺は赤鬼化を解いて呟く。いかんせん小鬼形態ゴブリンモードは体力の消費が激しく、発動したりしなかったりを繰り返す方が楽なんだ。

俺たちの周囲には凍ったスライムたちの破片が散らばっていた。


「ソーダシャーベットパーティだ。いいねぇ。」

「行きましょう。時間がないわ。」


あの放送から20分。着実に残り時間は減っていた。


ー・ー・ー


どうやらスライムは仲間がいることに集まる傾向があるらしい。凍ったスライムの破片を物陰に投げては発生するスライムを凍らせて砕く。そんな単調な作業を繰り返し相当な数のスライムを狩ったあと俺たちは自分の異能について教え合うことにした。単調な作業に飽きてきた、ということもあるけど、単純な好奇心である。


「私の能力は『氷結アイス』。物を凍らせる能力よ。空気中の水分を凍らせて氷塊を作ったり雪を降らせたりできるわ。」

「ええと、名前は決まってないけど―――『鬼化』。鬼に変身する能力。イメージ次第でいろんな形態になれる―――らしい。」

「へえ。便利なのね。」

「そっくりそのまま返すよ。」


数体のスライムを砕きながら俺たちは会話する。異能を知る前の俺が見れば異様な光景だろうな。

湧いたスライムを倒し切ったあと、氷室さんは時計をチラリと見る。


「あと15分。そろそろ脱出について考えなきゃならないわ。」

「脱出って言ったって...。」


俺は真上の土の天井を見上げる。

今まで結構な距離を移動してきたけど、真上が見える場所はなかった。けど体感では敷地外には出てないはずだ。しかし彼女の凍らせる力と俺の馬鹿力でどうやって地上に出れば...。あと15分しかない...。ちくしょう。


「あぁもうめんどくせえ!全部ぶち抜けば地上に出れるだろ!」

「脳筋すぎる...!」


「めんどくさい」。その感情の昂りが少しだけ彼を強化する。彼自身も気づかないほどの強化だが、確かに彼のパワーは上がった。

異能発現から二週間。目まぐるしい成長速度。人は彼をと呼ぶ―――。


...あるいはとも。



ー・ー・ー



発動しようとは思わなかったけど、「めんどくさい」という気持ちが俺の能力を勝手に発動させてしまったようだ。意識的に怒りを抑えないと大変なことになりそうだな。


「真冬、円錐型のヘルメット作れるか?氷でだ。」

「作れるけど。まさかあなた―――。」


氷室さんの顔色が悪くなるのを無視してドリル状のヘルメットを氷で作ってもらい、頭につける。非常に冷たいが運動後の頭にはいっそご褒美である。氷室さんをお姫様抱っこし氷塊で彼女の真上を覆ってもらう。真冬が恥ずかしさに悶えていることを伊織は知らない。


「準備OK。舌噛み切るなよ?」

「何回目―――っ!」


彼女の言葉は途切れた。すごいスピードで上昇するのを感じ取り忠告通り舌を噛み切らないように口を閉じたからだ。

俺は力全てを足にこめてジャンプした。飛行機までジャンプする力の何分の1かの出力。鋭利な氷のドリルは土を貫いた。

ズボッ!


「脱出...成功...!」


一回じゃ地上へ抜けきれないと思ったけど、簡単に到達することができた。こういうことを想定してスカスカの土を使っていたのかもしれない。それにしても。


「全身土まみれだ。着替えてえ。」


汗、土、氷だらけである。国立最難関を受けるにふさわしい格好とは言えないだろう。

幸い真冬さんは氷で覆われていたため汚れていない。よかったよかった。

学校に向かおうと立ち上がると、真冬さんが唐突に俺に頭を下げた。


「百目鬼くんがいなかったら私、あやかしにやられてたと思う。地下から脱出もできなかったはずだわ。だから、その...」


真冬さんの言葉を俺は右手で遮った。


「続きはさ、受かったあと教室で聞かせてよ。」


真冬さんは俯き、言葉を詰まらせて笑った。


「何よ、それ...。」

「んじゃ!頑張ろうな!」


雲の切れ目から差し込む光が、彼女の白い髪を美しく照らしていた。



ー・ー・ー



「ああ...死にたい.......。」


一週間後。総務省異能管理庁所有のマンションの一室にて。百目鬼伊織は後悔に身を悶えていた。


「なんだよ...『受かったあと教室で』って......キモすぎだろ...。」


結局あのあと泥だらけの服のまま試験を受けることとなった。全ての問題が「あ!進研ゼミでやったところだ!」的な感じだったから筆記は問題ないはずだけど...。あぁ、女子相手に何を格好つけてんだ俺は...死にたい....。


コンコン、とノックが響く。


「郵便ですよ。天願学園からです。」


・・・。


アァァーーーーーーッッ♂!!!

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