第七話 試験勉強する赤鬼④

昨日の翌日。

つまり今日。


非常に優等生な俺は朝の8時からあの空き地に来ていた。最近は強大な妖や異能犯罪者はいないようで、(もしくは増井さんたちが暇なのか)増井さんや直木さんは今日も修行に付き合ってくれるようだ。

試験まで残り13日。1日だって無駄にすることはできない。

昨日、増井さんから言われたことを思い出す。

「力を抑える。」

それが俺は異能を使いこなす第一歩になのだろう。


「力を抑えるにはイメージが大事っス。振ったコーラを吹きこぼれないように開けるようなイメージでやってみるとやりやすいっス。」


やはりイメージ、か。

昨日異能を発動したときイメージが意味なかったことが記憶に新しいが、発動とコントロールでは違うのか。

昨日赤鬼になったときは、だった。

それを抑える。ゆっくり蛇口を閉めるように。

脳内で蛇口のイメージを何度も繰り返しながら、同時に居眠り中に顔に落書きしてきたK君を思い出して怒りを呼び起こす。

...来た!


「...ぐっ!」


昨日の赤鬼化よりゆっくりと体が変化する。

体から立ち昇る湯気が晴れると、昨日とは違った感覚に襲われる。

まず視界が高くない。おそらく身長は伸びておらず腕や足にやや筋肉がついただけだろうか。やはり皮膚は赤く染まり腰には虎の毛皮。角も昨日より短く、洋服は弾け飛ばずに残っていた。

力を抑えるだけでこんだけ違うのか。


「なんだか様子が変わったな。」


増井さんが感心したように見ている。


「変身系の異能は体の使い方によっていろんな形態に変化するからな。発動系の俺らにはちょっと羨ましいぜ。」

「そうっスね。」

「俺もイメージ次第でいろんな形態になれるってことですか」

「そうだな。」


マジか。じゃあ赤いネズミとかになって女子校に潜入とかもできるかもしれない。やってみようか。今すぐ試して見たいのは山々だけど、俺には時間がない。


この前みたいに真上に飛ばないように慎重に足を動かす。もうパラシュート無しのスカイダイビングなんてしたくないしね。


...大丈夫みたいだ。


試しに走り回ってみることにした。

足を一歩前に出し、強く踏み切る。

あれ、動かない、と思った瞬間、足からぶちっと言う音が聞こえた。途端に走る激痛。


「痛っ!」


力の調整をミスった。強すぎたんだ。痛みと悔しさに、俺は唇を噛んだ。直木さんが駆け寄ってきて異能りょうやくはくちににがしを使う。再び襲う痛みに耐えながら俺は考える。

これあれだ。ストップウォッチピッタリ1秒で止めるゲームみたいな感じだ。強すぎても弱すぎてもダメなんだ。


今度は気持ち弱めに発動してみよう。

もう一回異能を発動する。

俺はプシュゥという音と蒸気と共に変身する。


「なっ!?」


腕を見る。ガリガリだ。もやし。

あまりに弱い力を意識しすぎたせいだ。


「昨日の形態に名前をつけろ。名前で覚えて唱えて発動すれば力加減を抑えやすい。」

「名前て。」

「よく少年漫画で必殺技を唱えるシーンがあるだろ。あれは技の感覚を忘れないようにするためだ。」

「絶対違うだろ!」


大真面目に語る増井さんに思わずツッコむ。まずいな、俺はボケ担当なのに。修行で疲れてきたせいか真面目キャラになってきてやがる。一発芸かましとくか。


「ん...?あのバー、何やっ?」


無事凍る空気。俺は氷結系の異能じゃないんだけど。



ー・ー・ー



「力を抑えたモード、名付けて小鬼形態ゴブリンモードです!」


水道ギリギリ締め形態ウォーターセーブモード

コーラこぼさず形態シェイクコーラモード

ストップウォッチピッタリ1秒形態ジャストワンタイムモード

などの名案が却下され(ダサいとプロの異能師になったころに恥を知るぞと言われた)ようやく捻り出した小鬼形態ゴブリンモード

10回やって成功したのは3回ほどだった。


俺は頭を抱える。一日二日でできるものではないとわかってはいたけど、できないのはかな

りきつい。野球なら3割は名打者なんだけど。


何が難しいかって、全力で異能を発動したときの力を100%とすると、小鬼形態ゴブリンモードは5%くらいだ。少しでも5%を超えると怪我をするし、3%くらいの弱い力を意識すると変身が解除されてしまう。4%から6%くらいの力を意識しないといけない。許される誤差は3%ほどである。


間に合うか...?間に合うのか百目鬼伊織とどめきいおり...?

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