第六話 試験勉強する赤鬼③
まずい!
着地のこと!!考えてなかった!!!
すごい速度で落ち続けている俺。俺と地面までの距離は約1km(多分)。え?俺死んだ?
とりあえず猫みたいに膝を曲げて着地すれば......膝?
首を曲げて足を見ると、ぷらーんと風に揺られて上下していた。風に揺られるマフラーみたいに。
足が折れたのか?ジャンプの衝撃で?
どんどん落ちるスピードが上がっている(ように感じる)。
まずい。足は使えない。受け身を取る?どうやって?旅客機の高さから背中で落ちて死なないのか?
試験終了1分前に裏の問題を見つけてしまった気分。
地面はもうすぐそこだ。
ー・ー・ー
「こりゃ、規格外だな。」
増井は意図せずして真上に飛んでいった
「異能師にはあの程度の火力、朝飯前じゃないスか?」
「攻撃しようと意思を持ったら自然と威力は高まる。だが、ありゃ無意識だ。」
「...そろそろ落ちてきますね。」
「ああ。着地できるのか心配だが、大怪我しても直木がいれば大丈夫だろ。」
ー・ー・ー
脳内で豆電球が爆発する。
思いついた!流石天才の俺!
随分と脳筋な作戦だけど、これしかない。
俺は大きく深呼吸して、すごい速度で近づいてくる地面に向かってタイミングを取る。
1、2の....3ッ!!
地面から3mを切ったくらいのところで拳を叩きつけた。吹っ飛ぶ小石。巻き起こる砂嵐。
すると落下のスピードが落ちる。
受け身を取るために背中を下に向けて、比較的低速で俺は地面に戻ってきた。落下の衝撃で一瞬目が眩んで、異能が解ける。
俺には東京都N市を爆弾並の威力で壊す力がある。ジャンプで軽く飛行機並の高度まで飛べるほどの力が。
その
落下のダメージを相殺して着地できるかもしれない。
土壇場で思いついてよかった。やはり俺は天才。
俺が地面に倒れ込んだまま起き上がれずにいると、直木さんが近づいてくる。
「両足と右腕、ぐちゃぐちゃっスよ。」
そのまま僕の手足に手をかざすと、痛い部分が暖かい光に包まれ、激痛が走った。
「
普通暖かい光に包まれて治るパターンだろっっ!
「我慢っス。私の異能は相手に怪我したときと同じ痛みを与えることでその怪我を治せるんス。」
「ん゛っ!」
異能の副作用か!くそっ!
さっきは鬼状態で痛みを感じなかったけど、手足にビリビリと激痛が走る。
「N市の時とは違って意識を持って異能を使ったからまだマシっスね。自分の異能に体がついて来れてないっス。まずは力を押さえて使ってみましょう。―――はい、治療終わりっス。」
話が終わる頃には痛みも消えて傷はすっかり治っていた。
ぜぇ、ぜぇと息が漏れる。42.195kmを全力疾走したような疲れ方だ。
今のでわかったのは二つ。異能の威力がやばくて、体に反動がかかること。これはまだ―――、まだ俺には扱えない。
「さっきは突然叫んでたけどどうしたんだ?」
そして。
「怒りです。」
きょとんとしている増田さんに俺は続けていう。
「怒りが、俺の異能の発動条件なんです。」
俺の異能は怒ることで発動する。要はマー●ルコミックスのハ●クのようなもんだ。違うのは体表の色ぐらいだろう。
「感覚を忘れないうちにもう一回やってみます。」
怒り。100均で買ったイヤホンがすぐ壊れたときのこと。テスト範囲を間違えて勉強していたときのこと。サ●エさんのジャンケンに10週連続で負けたこと。そして―――両親のこと。
沸々と怒りが込み上げてくる。
行ける、変身だ!
プスッ。
情けない音が響く。異能は発動していない。
「あれ?」
確かに怒りを感じた。異能の発動もイメージしたし、なんならさっきと同じように発動した感覚があった。
なんでだ?
俺の脳内で湧いた疑問に重ねるように増田さんが答える。
「異能が発動しない状況は3つある。」
「1つ目は、クールタイムが必要な場合。2つ目は、異能によって妨害されている場合。」
そこで急に増田さんは言葉を切る。
「さっき異能を使ったときどう思った?」
「え?あ、まだ―――俺じゃ制御しきれないって。」
俺の答えに満足げに頷く増田さん。
「それが3つ目、異能と実力がかけ離れていることを認識した時だ。」
「かけ離れている...。」
「百目鬼、お前はさっきの異能を発動して解除したとき、こう思ったんだろ?『自分にはまだ早い。』『まだこの能力は使えない』」
「はい。」
「その気持ちが、お前の異能の発動を邪魔している。異能っていうのは精神の状態に大きく影響を受けるんだ。例えば失恋したり親しい人を亡くしたやつは、しばらく異能を使えなくなったりする。」
精神から影響を―――。
「ま、クールタイムが必要って可能性もあるが...。お前が
「力を抑えて発動するってことですね。」
「ああ。―――時間も遅いしここまでだ。マンションに帰ろう。」
車に乗り込む。
こうして俺の多忙すぎる1/25は幕を閉じたのだった。
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