第五話 試験勉強する赤鬼②

異能の発動の仕方なんかわからない。

すると俺の脳内の監督が助言してくれる。

「鮮明なイメージだ!イメージしろ!」

俺は鮮明にイメージしてみることにした。

あの映像のような赤鬼に...筋骨隆々な鬼に...。


「...。」


何も起こらない。


気まずい沈黙。

どうすればいいんだろう。

助言してくれた脳内監督をシバきあげると俺の脳内の魔法使いが助言してくれる。「呪文じゃ!呪文なのじゃ!呪文で発動するのじゃ!」

俺は呪文を唱えてみることにした。


「“鬼化”!」


...。


何も起こらない。強いていうならものすごく恥ずかしい。


「あ、“赤鬼化”!」 


俺は脳内魔法使いをシバきあげる。

すると増井さんが気まずそうな顔でアドバイスをしてきた。


「体の内側を意識して、血を全身に巡るようなイメージを持て。そうすれば大体の異能は発動できる。」


返答の代わりに、俺は目を閉じる。そして大きく深呼吸。


内側。内側。血を全身に...


「...。」


ち、血を全身に...。


「...。」


あれ?

発動しねえじゃねえか、異能。

あぶねえな、増井さんをシバきあげそうになっちまった。

俺のすぐそばにはキラキラした目で異能の発動を待ち侘びている増井さんがいる。発動しないのを咎めているようにも見えた。なんでこいつはこんな期待に満ちた目をしてるんだ。アドバイスは的外れ。鍵を1キロ先に投げる。なんだこいつは。俺のから怒りが沸々と込み上げてきた。

なんだか無性にイライラする。

二日間も拘束しやがって...!

ずっと全身痛えしよぉ...!

10kgの手錠ってなんだよ!

二週間後に試験だと⁉︎


「くそがああああああ!」


その瞬間。


視界が白い光に包まれた。


ー・ー・ー


百目鬼伊織とどめきいおり、15歳。一昨日に捕まったばかりの異能犯罪者。危険度はC。市町村壊滅レベルの異能だ。初犯で危険度Cというのだから、かなりの脅威である。カントリーマアムで警備員を買収したという噂も聞き、かなりの極悪人が来ると増井は予想していた。

しかし来たのは普通の少年。拍子抜けしなかった、といえば嘘になる。


手錠を外して、ついにと思った。

東京都N市を1人で壊滅させたほどの異能。

詳細は知らされていない。

興味が湧かないわけがなかった。


しかし、いつまで経っても異能は発動しない。何か条件があるのか?

発動条件は見つけるのが大変だ。

何度も試さなければならない。

「百目鬼、一度休憩を」と声をかけようとした瞬間、百目鬼は高らかに叫んだ。


「くそがあああああああ!」


それと同時に百目鬼の体が眩く光った。体の至る所から赤色の筋繊維が飛び出して彼の体に巻き付く。見るみる体が大きくなる。服は弾け飛び、頭からは角が飛び出た。腰にはいつの間にか虎の毛皮が巻きいていた。


赤い肌。3mほどの背丈。筋骨隆々の体。


「赤鬼...!」


コレが百目鬼伊織の異能か!


ー・ー・ー


ん?

眩い光が晴れて、違和感を覚える。

視界が高い。

振り返ると、増井さんが俺を見上げていた。

まさかと思い、自分の体を見る。


「!」


真っ赤である。腹筋は割れてるし、腰には虎の毛皮。赤鬼である。


「やー、おっさんの映像はほんとだったんだな。」


正直大規模なドッキリだと思ってたわ。「元厨二病の高校生を密室に閉じ込めて少年誌の設定語って見た」的なやつだと思ってたわ。

背の高い大人を見下す、ということも含めてなんだかすごく気分がいい。


「増井、ちょっと動いていいよな?」

「あ、ああ...。」


なんだかすごく楽しい。走り回ってみようか、それともジャンプしてみようか!

考えながら足を踏み切ってみる。


ドォォォォォッッッ!!


気付くと周りは綿菓子のような雲に囲まれていた。突如現れた俺を避けながら鳥が過ぎ去る。俺の横のスレスレを大きな鉄の塊―――旅客機だろうか?―――が通過した。

待て待て待て待て。

...状況を整理しよう。誰かの異能で幻影を見せられている?違うだろう。地上で最後にした行動はこと。足を踏み込んだ衝撃で空までジャンプした...?

規格外すぎるぞ、俺の異能。

人類初生身で旅客機並みの高さに跳躍した人としてギネスに登録してもらおうかな。

俺の体が上昇をやめ、ぴたりと周りの風景がとまる。そして鳥や雲が急激に上に上がる。いや、違う。俺が落ちている。

人類初パラシュートなしで降下した人としてギネスに...。

...。


...。


パラシュート?

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