球技大会 その四
午前のソフトボールを優勝で終えた私たちは、現在お昼休憩を挟んでいた。
昨日と同じように紫音が作ってくれたお昼を私と紫音、一花と雅で食べている。
紫音と雅は普通に食べているが、私と一花は昨日の梅干しの件があるためか、恐る恐る食事をとる。
幸いにも、今日は梅干しを使った料理がなかったため、最初から最後まで美味しくいただくことができた。
お昼を食べ終えて休んでいる間、私はいつも以上に紫音のことを意識してしまい、何度か彼女のことを見てしまうが、紫音が特に気づくようなことはなかった。
そして、お昼休みが終わると午後の種目が始まる。午後は私と紫音たちで種目が異なるため、私は卓球の試合が行われる場所に向かう。
「では、昨日も説明いたしましたが、改めて本日の試合について説明します。
本日は、準決勝、3位決定戦、決勝を行います。この三戦につきましては、5ゲームマッチの11点先取で行いますので、みなさん頑張ってください」
説明が終わると、担当の人は一礼して去っていった。私は今日の対戦相手が誰なのかを確認するため、トーナメント表を確認しに向かう。
「げっ。今日も3年生が相手かぁ。しかも一試合目だし。気が重い」
そう思いながらも、卓球台の前に行って相手選手と見合う。
「お、来たね。鉄壁」
「絶壁じゃないです。ちゃんとあります」
「…いや、絶壁じゃなくて鉄壁ね?確かに言葉は似てるけど全然違うから。急に胸を批判したりしないよ」
どうやら私の聞き間違いのようだ。突然ディスられたので、後で紫音に泣きつこうかと思ったが間違いでよかった。
「では、鉄壁ってなんですか?」
「昨日の試合で、君の守りがあまりにも堅すぎて、まるで相手が壁打ちをしているようだってことでこんなあだ名が付いたみたいだよ?知らなかったの?」
「…知りませんでした。何だか厨二みたいで恥ずかしいんですが」
「まぁ、もうどうしようもないかなぁ。卓球に参加してた子たちの間では結構広まってるし。今から消して回るのは無理かもね」
私は先輩の話を聞いて、もはや絶望しかない。私はこれから卓球をする際、鉄壁と呼ばれるようだ。
(恥ずかしくてしんどい)
「さて、お喋りはこの辺で。そろそろゲームをしようか」
(あ、何か聞いたことのあるフレーズ)
先輩がそう言ったのを確認した審判は、ゲーム開始の合図をだし、私の準決勝が始まった。
「いやー、まさに鉄壁だね。どんなに打ち込んでも全て返される。ほんとに壁当てをしてる気分だったよ」
先輩はそう言いながらも楽しそうに笑うと、私の方に手を差し出してくる。
私はそれを握手だと理解し、私も先輩の方に手を伸ばして握手した。
「次の決勝も頑張りな。楽しみにしているよ」
「ありがとうございます。頑張ります」
先輩は私の返事を聞き届けると、笑顔で去って行った。なので私も体育館の隅の方に向かい、次の試合に備える。
決勝は間に3位決定戦を挟んだ後行われる為、あまり休憩時間がない。
なので、紫音たちのバスケの試合を見に行けないのでとても残念だが、私は私で頑張らないといけないので、気合を入れる。それに--
(優勝したら、紫音は褒めてくれるかな)
午前のソフトボールの後、突然芽生えたこの感情が何なのかは分からないが、私はこれまで以上に彼女のことを気にしてしまう。
(とりあえずは、せっかくここまで勝てたんだし、もう少し頑張ろう)
そうして、体育館の隅の方でしばらく待っていると、3位決定戦が終わった。勝ったのは先ほど私と戦った先輩で、最終ゲームまでやり、何とか勝利したようだ。
決勝の相手は2年生の先輩で、どうやら去年優勝した先輩に勝ったらしい。
「よろしくね、鉄壁」
「先輩までそんな風に呼ぶんですか」
「仕方ないと思うわよ?あんな守りを見せられてはね?それに、ここにいるみんなが貴女をそう呼んでいるし」
「恥ずか死しそうです」
「あはは!まぁ、これも一つの思い出だと思って諦めなさい」
「頑張ります…」
『それでは決勝を始めるので、両選手は準備をして下さい』
私と先輩が話していると、審判が声をかけてきたので、お互いに握手をした後に準備をする。
始まった決勝戦。序盤はこれまで通り戦うことができたが、先輩からの左右の揺さぶりや緩急により、思った以上に動かされる。
それにより、私の体力はどんどん削られていき、しっかりと打ち返すことができなくなっていった。
それでも何とか私も粘り、迎えた最終ゲーム。先輩はこれまで以上に私を揺さぶってきて、最後はついて行くことができずに11-4で負けてしまった。
「いい試合だったわ。貴女にもう少し体力があれば、どうなっていたか分からないわね」
「はぁ、はぁ。あり、がとう…ござい…ます」
「来年も楽しみにしているわね」
先輩はそう言うと、応援に来ていたクラスメイトのもとへ戻って行った。
私もすぐに紫音たちの試合を見に行きたかったが、こんなに疲れたのは久しぶりなので、少し休んでから行く事にした。
少し休むと、だいぶ呼吸も落ち着いてきたので、私はバスケが行われている会場に来た。
しかし、観客が多すぎてなかなか試合を見ることができない。
私は頑張って背伸びをしたりジャンプをして見ようとするが、よく見えなかった。
どうしたものかと悩んでいると、後ろから同じクラスの子に声をかけられる。
「あれ?橘さん、こんなところでどうしたの?」
「バスケの試合を見に来たんだけど、人が多すぎて見えないんだ」
「そうだったんだ。同じクラスのメンバーが試合をしている時は、応援しやすいようにって別の入り口が用意されてるから、そこから見に行かない?私たちも今向かってたところだし」
「そんなところあるんだ。なら一緒にお願い」
私はそう言うと、クラスの子たちと一緒に移動する。入り口から中に入ると、さっきまで見えなかったのが嘘のように試合を見ることができた。
現在は紫音たちが準決勝の試合を行なっており、29-24で紫音たちが勝っていた。
残り時間も僅かで、恐らくこのまま行けば紫音たちの勝利で終わるだろう。
数分後。試合終了のブザーがなり、紫音たちは何とか逃げ切る形で勝利し、決勝戦に進むことができた。
私たちは紫音たちのもとへ向かい声をかける。
「みんなお疲れ様」
「あ、白玖乃!お疲れ!卓球はどうだった?」
「決勝までは行けたけど、最後に負けちゃった」
「白玖乃は凄いね!今日もご飯頑張って作らないと!」
「てことは、白玖乃は準優勝か!これはうちたちも頑張らないとね!」
「そうね。私たちも次が決勝だし、気合い入れていかないと」
私が準優勝だったことを伝えると、紫音や一花、雅たちが褒めてくれた。
それが嬉しくて、私は自然と笑顔になる。
「みんなも決勝、頑張ってね」
私がそう言うと、みんなは頷いて休憩に入った。
3位決定戦が行われて休憩が終了後、私たちはさっきと同じ場所に戻って紫音たちのことを応援していた。
バスケの試合は前半10分、後半10分で行われる。
現在は前半戦が行われており、12-8で紫音たちが負けている。
紫音たちも頑張って攻めるが、相手クラスの人たちも凄く上手で、なかなか思うように攻められないでいた。
そして、そのまま前半戦は終了となり、インターバルに入る。
紫音たちを見てみると、積極的に攻めているためか、いつも以上に疲れているようだった。
私は心配になったが、今ここで声をかけに行って、集中力を途切れさせるわけにもいかないと思いその場にとどまる。
インターバルが終了すると、すぐに後半戦が始まった。
紫音たちは最初から積極的に攻めるが、相手の守りが堅くてなかなか思うように攻められない。
逆に相手クラスはカウンター狙いなのか、守りを基本に、ボールを取るとすぐに得点を狙いにくる。
後半戦も半分を迎えた頃、紫音たちの動きが目に見えて悪くなってきた。
おそらく、積極的に攻めすぎたことで疲れが出てきたのだろう。
それでも彼女たちは諦めず最後まで頑張ったが、やはり疲れのせいか最後まで攻めきれず、25-18で負けてしまった。
試合が終わると、私はすぐに紫音たちに駆け寄る。
「あ、白玖乃!応援に来てくれたのに負けちゃってごめんね」
紫音はいつもの明るい雰囲気で私に声をかけてくるが、彼女が我慢して辛そうなのはすぐにわかった。
「ごめんみんな。少し紫音を借りるね」
「わかったわ。後のことは私たちがやっておくから、お願いね」
私はみんなから許可を得ると、すぐに紫音の手を引いて人気のないところに連れて行く。
「どうしたの白玖乃?こんなところに連れてきて…」
私の行動を疑問に感じたのか、紫音はそんな事を尋ねてきた。
それに対して私は何も言わず、優しく彼女を抱きしめる。
「お疲れ様、紫音。もう我慢しなくていいよ。今は私しかいないから、無理して笑わないで」
私の言葉を聞いた紫音は、私のことを抱きし返しながら肩あたり顔を埋め、少しずつ泣き始めた。
「負けちゃったよ、白玖乃。みんなあんなに頑張ったのに、負けちゃった…」
「うん。みんな頑張ったね。だから準優勝出来たんだよ。確かに優勝できなかったのは悔しかもしれないけど、準優勝でも凄いことなんだから、自信を持って」
紫音はその後もしばらくの間泣き続け、私はそんな彼女が落ち着くまで背中を撫で続けた。
そして、紫音が落ち着いた頃にみんなのもとへと戻り、紫音はいつも通りの笑顔でみんなに感謝の言葉を伝えていた。
球技大会の種目も全て終わり、閉会式が行われる。
閉会式では順位発表と個人の優秀賞、最優秀賞が発表される。
私たちのクラスは惜しくも総合2位で準優勝だったが、初めての球技大会で準優勝なら上出来だろう。
そして、紫音は個人で優秀賞を貰い、高校初めての球技大会は良い結果で終わることができた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
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『人気者の彼女を私に依存させる話』
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