球技大会 その三
※今回はスポーツ要素強めです。よろしくお願いします。
球技大会一日目が終わったその日の夜。私の目の前にはすごく豪勢な料理が並べられていた。
「紫音。流石に張り切りすぎじゃない?」
「そんなことないよ!今日は白玖乃のおかげでソフトボールは決勝に行けたし、白玖乃も卓球個人で準決勝進出!こんなにおめでたい日はないよ!」
「それを言うなら紫音たちもでしょ。バスケ、無事に準決勝行けたじゃん」
実はあの後、私は初戦と同じような試合を続けていたら、いつの間にか準々決勝も勝っており、気づけば明日の準決勝に出る事になった。
実行委員の説明では、一日目に準決勝まで行うと聞いていたが、それは屋外種目のみで、屋内種目は準々決勝までを一日目、二日目に準決勝、決勝、3位決定戦が行われるらしい。
「明日もお互い頑張らないとね!」
「そうだね。ここまできたら総合優勝も目指したいね」
二人で明日のことを話しながら、紫音が私のために作ってくれた豪勢なご飯を食べていく。量は少し多かったが、それでも紫音の料理が美味しいのと、今日はたくさん動いたからか、全部食べ切ることができた。
その後は二人でお風呂に入り、明日に備えてすぐに眠りについた。
翌日の体育祭二日目。今日も天気は晴れで、絶好の体育祭日和だ。
今日も種目順は昨日と同じなので、午前はソフトボールの3位決定戦、その後に決勝戦が行われる。
決勝の相手は、昨年ソフトボールで優勝した3-Bだ。メンバーも去年と変わっておらず、2連覇を狙っているのだろう。
しばらくすると、グラウンドで行われていた3位決定戦が終わった。3位は3-Aで、昨日私たちと戦った時と同じように徹底的に守り、得点を入れるとそのまま逃げ切った形だ。
そして、少しの休憩を挟むと決勝戦が始まる。
今日のスタメンは昨日の初戦とほぼ同じで、紫音が4番ピッチャー、私が9番ライトに変わった。
今日は相手が先攻で試合が始まる。試合は他のクラスの人たちも気合が入っているのか、なんとアナウンスとサイレン付きだ。気持ちはもはや甲子園である。
そして、試合開始の時刻になるとサイレンがなり、いよいよ試合が始まる。
初回、紫音は抜群のコントロールと速球で相手打者を封じ、三者連続三振で順調のスタートを切る。
裏の攻撃、相手のピッチャーはそこまで速くはないが、コントロールが良いのか、上手く打たさせて内野ゴロや外野フライで打ち取ると、こちらも3人で抑えられた。
その後、打者が一巡する3回までは両クラスとも投手戦が続き、0-0で4回を迎える。4回表、相手クラスは打者が一巡して1番からだ。紫音がこれまで通り投げると、相手打者は初球から迷いなく振る。その打球は右中間を割ると、フェンスまで転がっていった。
私は急いでボールを取り内野に返球するが、打者は二塁まで進んでいた。
続く2番は送りバントでランナーを進塁させ、ワンアウトランナー三塁。ここで、打者は3番からのクリーンナップを迎える。
3番の子は数回素振りをしてから打席に入ると、集中した瞳で紫音のことをみる。
紫音も打ち取るため、気合を入れて投球モーションに入る。すると、三塁ランナーはまさかのスタートを切った。
そして、3番の子はすかさずバントの構えを取ると、バットにボールを当てて転がす。打球はサード側に転がり、紫音とサードの子が急いでボールを取りに行く。なんとか打者をアウトにはできたが、ランナーがホームに帰ってしまい先制点を取られた。
(やられた。まさか3番がここでスクイズするなんて。素振りまでしてブラフを掛けてくるとか想像も出来なかった)
そして、紫音はこの得点で動揺したのか、4番と5番に連続ヒットを打たれてしまった。ランナーは一二塁でバッターは6番。紫音は動揺のせいかさっきまでの勢いがない。私にできることが何か無いかと考えて、私はとにかく紫音に声をかける事にした。
「しおーーん!!!まだ大丈夫!絶対私たちが取り返すから!紫音は思い切って投げろーー!!!」
大きな声を出すのは慣れていないから喉が少し痛いが、それでも私は声をかけ続ける。すると、他の子達も紫音に向かって声をかけ始めた。
紫音はそんなみんなのことを見ると、さっきまでとは違い、自信に満ちた表情に変わる。
「みんなありがとー!!」
紫音はそう言うと、改めて打者の方を見る。そこには先ほどまでの動揺した姿はなく、絶対に勝つという気迫を感じさせる紫音がいた。
そして、6番打者をツーストライクまで追い込むと、相手打者が二塁ベース近くにゴロを打つ。
それをセカンドの一花が取り、ベース上にトスをする。そのボールをショートの雅がベースを踏みながら受け取り、そのままファーストに送球して4-6-3のダブルプレーとなる。
「さすが雅!完璧なタイミングだよ!」
「ふふ。紫音ちゃんや白玖乃ちゃんにばかり任せていられないものね。さぁ、ベンチに戻るわよ」
私がベンチに戻ると、最初に戻っていた紫音が雅と一花にお礼を言っていた。
「ありがとう二人とも!すごく助かった!」
「いいって。うちたちもこの試合、絶対勝ちたいしさ!」
「それに白玖乃、さっきは声かけてくれてありがとね。すごく嬉しかった」
「気にしないで。むしろあれくらいしかできなくてごめんね」
「そんな事ないよ。白玖乃のおかげで気持ちも切り替えられたし、すごく助かった」
紫音はそう言うと、私のことを見ながら微笑む。
そして、リーダーの子がみんなに改めて気合を入れて、私たちは優勝するために一致団結する。
4回裏、この回は私たちも1番の雅からだが、相手も点数を取ったことで勢いに乗ったのか、先ほどよりも守備が硬い。
雅は内野ゴロでアウトになるが、一花がセンター前ヒットで出塁。3番の子も粘ったが、最後は空振りに終わった。
4番の紫音も良い当たりはしたが、あとひと伸びが足りず外野フライで終わる。
その後もなんとか相手の猛攻を凌ぎつつ、こちらも出塁するが得点につながらない。1-0で迎えた最終回。打者は9番の私からだ。
(紫音のために、なんとしても出塁しないと)
私は気合を入れて打席に向かい、バットを構える。
初球はボールで二球目が外角のストライク。1-1で投げられた3球目。ストライクゾーンだったので私はバットを振るが、サードへのゴロになってしまう。
私はアウトにならないため必死に走る。すると、打球が石か何かに当たりイレギュラーしたようで、その結果サードはエラーをしてしまい、私は何とか出塁することができた。
続く1番の雅がライト前ヒットを打ち、ランナー一二塁。ここで、2番の一花が送りバントをしてランナー二三塁となる。
3番の子も良い当たりはしたが、内野ゴロで得点には繋がらなかった。
そして、ツーアウトランナー二三塁という最後のチャンスで、4番の紫音に打席が回る。
紫音はかなり集中しているのか、いつもの明るい雰囲気はない。紫音のあまりの気迫に、相手のピッチャーは少しだけ怯むが、そんな彼女に野手やベンチ、彼女たちに負けたクラス全員が声をかけて応援する。
しかし、それは私たちのクラスも同じことで、ベンチから一花たちが声をかけ、私たちのクラスと戦った2-Aや3-Aの先輩たちも紫音に声をかけてくれる。
(紫音。大丈夫、みんなが応援してくれてるし、私は信じてるから)
私も紫音のことを心の中で応援し、いつでもホームベースに帰れるよう準備する。
そして、紫音と相手ピッチャーの戦いが始まる。
一球目。外角ギリギリのストライク
二球目。外角高めが外れてボール
三球目。真ん中高めを紫音がバットに当ててファール
四球目。内角際どいところが外れてボール
そして、2-2で迎えた五球目。もう一度内角際どいところに投げられたその球を、紫音は迷いなく振り抜き打ち返す。
バットに当たった瞬間、私はあんなに走る準備をしていたのに走ることができなかった。それは二塁にいる雅も同じで、彼女もベース上で止まってる。
私たちが走らなかったのは、紫音が打った瞬間に分かったからだ。それは--
(入る…)
打球はぐんぐんと伸びていき、レフトの頭を越え、フェンスを越える。そして、打球はフェンスの向こうへと消えていき見えなくなった。
さっきまで応援の声が響いていたグラウンドは静かになり、誰一人言葉を発することができない。しかし、そんな静寂を破ったのはアナウンスだった。
『ホ、ホームランです!逆転3ランホームランです!これにより!今年のソフトボール優勝クラスは1年B組に決まりました!』
そうアナウンスが言うと、さっきまで静まり返っていたグラウンドに歓声が上がる。私と雅は最初にホームベースを踏み、ホーム近くに集まった一花たちに迎えられる。そして、最後にゆっくりとダイヤモンドを回っている紫音を私たちは待つ。
(紫音。かっこ良すぎるよ)
私は紫音を待っている間、興奮のせいか胸が高鳴り、彼女を見ていると顔が熱くなる。
そして、紫音がホームベースを踏むと、みんなは勢いよく彼女のもとに駆け寄り、それぞれ思い思いに声をかける。
しかし、私は何故か恥ずかしくなり、後ろの方に隠れてしまった。
「紫音さん!さすがだよ!あそこでホームランとかかっこ良すぎる!」
「ほんとね!打った瞬間入るって分かったから、私走ることも忘れてしまったわ!」
雅も珍しく興奮しているのか、声を弾ませながら紫音に話しかける。
「みんながチャンスを作ってくれたからだよ!本当にありがとう!」
紫音はそう言うと、みんなが見惚れてしまうような笑顔を見せてくれる。
そして、紫音は私のことを見つけると近づいてきて、私のお尻あたりに腕を回して抱き上げる。
私は突然のことに驚いてしまい、バランスを崩しそうになるが、彼女の肩に手を置くことで何とか落ち着いた。
いつもは私が彼女を見上げる側だが、今は抱き上げられているため私の方が彼女を見下ろす形だ。そして、紫音とこうして触れ合うのは初めてじゃないのに、何故か今日は胸がドキドキする。
「ありがとう白玖乃。白玖乃が最後まで諦めないで出塁してくれたから、私も頑張ることができたよ!」
「た、たまたまだよ。運よく打球がイレギュラーしてくれたから…」
「それでも、私のために最後まで走ってくれたのは分かったよ。ほんと、ありがとね」
紫音はそう言うと、私のことを見上げながら微笑んでくれる。いつも見ている彼女の笑顔なのに、今は胸の高鳴りのせいで直視できず視線を逸らす。
そして紫音は私のことを降ろすと、他の子たちにも声をかけに行った。私はそんな彼女を自然と目で追ってしまい、目が離せない。
(私、どうしちゃったんだろ…)
私はクラスメイトと楽しそうに話す彼女を見ながら、自身の中に新しく芽生えた感情が何なのかを考えるのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
よければ同時連載しているこちらの作品もお願いします。
『人気者の彼女を私に依存させる話』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます