球技大会 その二
午前の種目が終わったので私たちは現在お昼休憩を取っている。今日は紫音が私以外にも一花や雅の分も作ってきており、紫音のお弁当を囲む形で座っていた。
さっそく、私たちはお弁当を開けて中を見てみる。今日のお弁当はおにぎり、サンドイッチ、から揚げ、タコさんウインナー、卵焼きなど運動会の時のようなラインナップだった。
「すごいね紫音。まるで運動会みたい」
「球技大会だからね!運動会みたいなノリで作ってみたよ!一花や雅の口にも合うといいんだけど…」
「とても美味しそうだよ、紫音さん」
「えぇ。早く食べてみたいわね」
「それじゃあみんな、めしあがれ!」
「「「いただきます!」」」
私たちはそう言うと、各々食べたい物を手に取り食べ始める。
私はハムとチーズが挟まったサンドイッチを手に取った。
おにぎりは梅干しの可能性があり、紫音の梅干しはめっちゃ酸っぱいので、できれば避けたいところだ。
私は手に取ったサンドイッチをさっそく一口だべてみる。
「ん、美味しい」
「んぐっ?!」
すると、私がサンドイッチを食べている隣で何とも声にならない声が聞こえてき。
声のした方を見てみると、おにぎりを片手に酸っぱそうな顔をした一花がいた。
「一花、もしかしてそれ梅干し?」
ブンブンブン!
一花はあまりの酸っぱさでしゃべれないのか、ものすごい勢いで首を振っている。
「あれ、そんなに酸っぱい?前に白玖乃も凄く酸っぱそうにしてたけど」
「そんな事ないわよ?私は普通に食べれるし」
そう言いながら雅は、梅干しの入ったおにぎりを普通に食べていた。
私と一花はそんな雅を見て、驚きで何もいえなかった。
なんとか頑張っておにぎりを食べている一花の事はとりあえず放置して、私は次に苺のジャムらしきサンドイッチを手に取り食べてみる。
「はうっ?!」
私はそのあまりの酸っぱさに変な声が出てしまい、急いで飲み物を飲んだ。
「し、紫音。このサンドイッチってもしかして…」
「あ、それは梅干しだね!おふざけで作ってみたんだけど、まさか白玖乃が食べるとは…ふふ」
紫音はそう言うと、少し楽しそうに笑った。どうやら彼女の悪戯のようだ。そんな紫音も可愛くて好きだが、今は違う。梅干しのあまりの酸っぱさでそれどころではない。
ただ、一度口にした物を残すのは紫音に悪いため、何とか全部食べる事にする。
その後は梅干しの酸っぱさで苦しむこともなく、楽しくお昼を食べて過ごすことができた。
お昼を食べた後は午後の種目が始まる。私と紫音たちは参加する種目が違うため、ここでお別れとなる。
バスケと卓球は同時進行で行われるが、試合は最初に私の卓球があり、次に紫音たちのバスケがある。
私は紫音たちと別れた後、卓球が行われる場所へと来て試合説明を受けていた。
「では、試合について説明します。試合は準決勝までが3ゲームマッチ、準決勝、決勝は5ゲームマッチで行います。
また、得点は11点先取で1ゲームとなります。もちろんデュースもあるので、皆さん最後まで気を抜かずに頑張ってください。
それでは、各自トーナメント表を確認し、試合の準備を始めてください」
説明が終わると、他の出場者はトーナメント表を見に行く。
私も周りの子についていき、トーナメント表で自分の名前がどこにあるのかを確認してみる。
(何試合目かは事前に聞かされるけど、対戦相手が誰なのかは教えてもらえないんだよね。私の対戦相手は誰だろ)
できれば先輩はやめて欲しいと思いながら自分の試合が行われる三試合目を見てみる。
(うっわ。3年生だ。もうダメかもしれない)
残念ながら私の望みは叶わず、初戦の相手は3年生となってしまった。でも、前に帰るとき、紫音に一勝すると言ったので、ここで負けるわけにはいかない。
なので、何とか気合いを入れて頑張る事にした。
そして、一試合目と二試合目が終了し、ついに私の出番が来た。
私は少し緊張しながら卓球台のもとへ向かいラケットを持つ。
「やぁ、君が初戦の相手だね。先輩だからって遠慮はいらないよ。全力でかかってきな」
「は、はい。ありがとうございます」
どうやら初戦の先輩はいい人のようだ。おかげで少し緊張が解けた。
そして、お互いの準備が終わったのを審判が確認すると、試合が始まった。
まず、相手の先輩がサーブをする。私はそれを普通に返す。先輩も私が返した球を打ち返してくる。そうしてしばらくラリーが続き、先輩がスマッシュを打ってきた。
しかし、それを私は普通に返すと、卓球台の縁に当たってボールは床に落ち、私の得点となった。
その後も、先輩はスマッシュや変化球を打ってくるが、私はそれらを普通に返して得点となっていく。
そして、気づけば私は2ゲームを先取しており、試合は私の勝利で終わった。
実は、私はそこそこに動体視力が良いので、スマッシュなど速いものは見えるのだ。ただ、それに対して体の動きが追いつかないため、バドミントンなどでは返すことができない。
ただ、卓球の場合は手の届く範囲なら何とか腕を動かせるため、打ち返すことができる。その代わり、スマッシュなどを打つ余裕は無いので打ち返すことしか出来ないが。
あとは、相手が疲れるか、奇跡で得点になるのを待てば良いだけなのだ。
「はぁ、はぁ。いやぁー完敗だよ。君すごいね。次も頑張りなよ?」
試合が終わると、対戦相手だった先輩が声をかけてくれた。
「はい。ありがとうございます。次も頑張ります」
「うんうん。期待しているよ」
先輩はそう言いながら、私の頭を軽く撫でると、どこかへ行ってしまった。
一人になった私は、今何時かと時計を確認してみる。すると、紫音たちのバスケがもう始まっている時間だったので、私は急いで試合会場に向かった。
試合会場に着くと、観客の生徒が多くてなかなか中に入らなかった。
そして、たまに聞こえてくる女子生徒の歓声が凄い。
試合がどうなっているのか気になった私は、間を縫って何とか前の方まで行く。
試合はすでに2ゲーム目で、半分を迎えていた。得点は38-17で紫音たちが勝っていた。
そして、改めて試合を見てみる。今はちょうど一花がボールを持っており、ドリブルをしていた。正面には先輩らしき人が一人ついており、抜かれないように守っている。
すると、横からフリーで雅が抜けてきたので、一花はすかさずパスをする。雅はそのままドリブルで相手選手を抜いて行くと、二人の選手が止めに来た。
さすがに二人相手だと、そのままの勢いで行けないのか、雅は一度足を止める。
そんな雅に紫音が声をかけたので、雅はすぐにパスを回した。
ボールを受け取った紫音は、周りの状況を瞬時に確認すると、相手選手を綺麗に避けながらゴールまで向かい、そのまま綺麗にレイアップでシュートを決める。
その瞬間、周りにいた女子生徒から悲鳴が上がる。
(なるほど、さっきのも紫音たちへのものだったんだ)
そんな事を考えながらコートを眺めていると、近くにいた女子生徒から声が聞こえた。
「ねぇ!さっきシュート決めた子かっこよくない?」
「わかる!あのボールを持った時の真剣な顔とか凄く良いよね!」
どうやら紫音はとても人気のようだ。そんな彼女たちの話し声を聞き、私は何故か少しだけモヤっとした気持ちになるが、今は気にしない事にする。
その後も、紫音たちは順調に得点を重ねていき、無事に初戦は勝つことができた。
私は紫音たちに声をかけるため、彼女たちのところへ向かう。
すると、紫音たちはさっきまで試合を見ていた子たちに囲まれており、中にはさっき紫音をかっこいいと言っていた子たちもいた。
そして、今はちょうどその子たちと紫音が話していて、何となくそれを見ているのが辛かった私は、彼女たちに声をかけずに体育館を出る事にした。
「白玖乃ー!」
体育館を出て歩いていると、後ろから紫音の声がしたので振り向く。
「白玖乃!試合見に来てくれたんだね!ありがとう!」
「勝ててよかったね。紫音もすごくかっこよかった」
「えへへ、白玖乃に言われると照れるね」
紫音はそう言うと、本当に嬉しそうに笑う。でも、さっきまで他の子と話していた事を思い出し、そんな彼女の笑顔が見ていられなかった。
だから、無意識に言いたくない事を言ってしまう。
「でもよかったなの?応援してくれてた子たちが声かけに来てくれたのに、私のところに来て」
本当はこんな事言いたくはなかった。でも、無意識に言ってしまったのだから、どうすることもできない。
「んー、確かに応援してくれたのは嬉しいけど、私の一番は白玖乃だからね。白玖乃が寂しそうに体育館を出ていくのを見たら、白玖乃の事を優先するよ!」
私は紫音のその言葉が嬉しくて、思わず彼女に抱きついてしまった。
紫音はそれに驚いたのか、慌てて声をかけてくる。
「は、白玖乃?!なした、急に!わー、今汗かいてっから、離れてけろ!」
「ん、気にしない。それに良い匂いだから大丈夫」
「わーは大丈夫でねーから!離れてけろー!」
紫音にはそう言われるが、汗をかいていても彼女は良い匂いなので、私は彼女のことを離さずに抱きしめ続ける。
そして、いつの間にかさっきまでの胸のモヤモヤも無くなっていて、今ではとても満たされた気持ちになっていた。
(これなら、次の試合も頑張れそう)
そんな事を考えながら、未だ離れるように言って言ってくる紫音を逆に強く抱きしめ、しばらくの間離すことはなかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
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