入学式
その日は、いつもより早い時間に起こされた。
「白玖乃!早く起きてご飯食べるよ!今日は入学式なんだから、早く行かないと!」
「…んー、起きます。起きてます。…おやすみ」
「今起きてるって言ったのにおやすみってなに?!いいから早く起きなって!」
紫音はそう言うと、私から布団を剥ぎ取る。このやり取りからも分かるように、この数日間で私たちはだいぶ仲良くなった。
なんなら、紫音がお母さんみたいになった。
でも、お母さんって言うと怒られるから言わない。
布団を剥ぎ取られたため、仕方なく私はベッドから降りた。
いつも食事をしているテーブルには、今日も美味しそうな朝食が並んでいる。今日のメニューは、ほうれん草、ベーコン、キノコが入ったスクランブルエッグに、コーンスープ、あとはバターロールのパンだった。
私はそれらを美味しくいただき、紫音と一緒に食器を洗った後、制服に着替える。
すると、隣で一緒に着替えてた紫音から、聞きなれない言葉が聞こえて来た。
「やっぱり、新しい制服は少しいずいなぁ」
「…ねぇ、紫音」
「んー?どうしたの、白玖乃」
「いずいってなに?」
「…また訛っちゃったか。いずい。いずいかぁ。説明が難しいかも」
「ん?そんなに難しいの?」
「いずいって、色んな意味で使われるから説明が難しいんだよね。例えば、目にゴミが入った時も使うし、服や靴が合わない時も使うから、意味が広義的すぎるんだよね」
「ずいぶん便利な言葉なんだね」
「まぁ、違和感とかあれば、とりあえずいずいっていえば通じるね。
意味はしっくり来ないとか、そんな意味だと思ってくれればいいと思う」
「わかった」
新しい言葉の意味について教えてもらいながら準備をしていたら、いつの間にか全ての準備が終わっており、あとは入学式のため、学校に向かうだけだった。
そして、部屋を出ると予定していた時間になったため、アパートの入り口に向かい、茜さんに鍵を渡しに行く。
「あら。おはよう、二人とも。制服、とても似合ってるわよ」
「おはようございます、茜さん。褒めていただいてありがとうございます」
紫音が最初に挨拶をして、制服姿を褒められた事にもお礼を言った。
「おはようございます。新しい制服なのでまだ慣れないですが、ありがとうございます。
あと、鍵をお願いします」
「はい。確かに受け取ったわ。二人とも気をつけていってくるのよ」
「「はい、行ってきます!」」
私と紫音は、鍵を茜さんに預けて挨拶を済ませると、学校に向かうためアパートを出た。
アパートを出てから20分ほど歩くと、私たちが入学する学校がある。
校門前では、入学者の受付をしているらしく、私と紫音もその受付に向かう。
受付を済ませた後は、受付で渡されたクラス分けの紙を見て、自分たちのクラスを探す。
「あ、あった。私は1-Bだって。紫音は見つかった?」
「私も1-Bだったよ!教室でもよろしくね!」
「よかった。紫音と離れるのは寂しかったからね。これからもよろしく」
クラスを確認したところ、お互い同じクラスだったので、私たちは自分たちのクラスへと向かった。
入学式は、一度クラスごとに別れてから、その後会場に向かうらしい。
その方が、あとあと指示を出すのが楽なのだろう。
私たちは、黒板に貼られた紙を見て自分たちの席を探し、見つけた後はその席に向かう。私の席は一番窓側の前から4番目で、紫音の席は窓側から数えて3列目の5番目だった。
ちなみに、一学年は60人ほどで、一クラス30人である。そして、座席は横6列、縦5列という席配置となっている。
私と紫音の席は少し離れてしまったが、席替えなどの機会があれば近くなることもあるだろう。
それに、アパートに帰れば一緒にいられるわけなので、そこまで気にする必要もない。
椅子に座ってしばらく待っていると、教室の扉を開けながら、担任の先生らしき人が入ってきた。
背中まで伸ばされた黒髪に、きっちりとスーツを着こなす20代半ばほどの女性で、少し真面目そうだなというのが第一印象だ。
「皆さん、はじめまして。今日からこのクラスを担当いたします、
桜井先生は短く挨拶を済ませると、次に入学式についての説明を始めた。
「入学式についてですが、まず、この説明が終わりましたら体育館の方に移動していただきます。
座席については、クラスごとに分かれており、自分のクラス内の座席であれば、席順は自由になります。体育館に移動する際はまとまって移動しますので、一緒に座りたい方がいれば、その間に近くにいるようにしてください。
次に、入学式中のことについてですが、皆さんが何かをするということはございませんのでご安心ください。
なにか分からないことがありましたら、入学式が始まるまでは対応いたしますので、お気軽に声を掛けてください。
では、ちょうどいい時間なので移動しようと思いますが、現時点で何かご質問はありますか?……無いようなので、移動したいと思いますので、皆さん廊下にお願いします」
桜井先生の説明が終わり、私は廊下に出た。せっかくなら、紫音と一緒に座りたいと思い、彼女のことを探していると、後ろから声を掛けられた。
「白玖乃!」
後ろを振り向くと、私の方に駆け寄ってくる紫音がいた。
「白玖乃、一緒に体育館行かない?」
「いいよ。私もそのつもりで紫音のこと探してたし」
「ならよかった。じゃあ、行こうか」
紫音はそう言うと、私の隣に並んで歩きだす。最近では、一緒に出掛ける際はよく手を繋いで買い物などをしていたが、さすがに今いるのは学校のため、手を繋いだりはしない。
「入学式が終わったら、今日は帰っていいんだっけ?」
「そうだよ。細かい説明とかは明日されるらしいから、入学式が終わった後は一度教室に戻って、たぶん軽く自己紹介とかして解散だと思うよ」
「なるほど。わかった」
紫音と入学式後の話をしながら歩いていると、どうやらいつの間にか体育館に到着していたようで、周りにいた子たちが体育館に入っていった。
私たちもその子たちに続いて体育館に入り、桜井先生の指示で1-Bと割り振られた場所に向かい、適当に席を選んで椅子に座った。
しばらくの間、紫音と話しながら待っていると、司会担当の先生が開始の挨拶をし、入学式が始まった。
それから一時間半ほどで入学式は終わった。桜井先生は私たちがする事はないと言っていたが、本当にただ座っているだけで入学式は終了した。
そして、私たちは教室へと戻り、自分たちの席に座ると、最後に桜井先生が教室に入ってきて黒板の前に立った。
「皆さん、入学式お疲れ様でした。
また、改めてご入学おめでとうございます。今後の予定についてですが、そちらは明日、改めてご説明いたします。
本日は、一人ずつ自己紹介をして頂き、終わりましたら解散となります。では、窓際の列の一番前の方から後ろに行く形でお願いします」
桜井先生は説明が終わると、自己紹介の順番を指定してきた。
窓際の列が最初なので、私の順番は4番目だ。
前の3人が終わったので、私は立ち上がり、自己紹介をする。
「橘白玖乃です。アパートに住んでます。朝が弱いタイプなので、遅刻しないように頑張ります。よろしくお願いします」
私はそう言って座ると、桜井先生はなんとも言えない表情をしていた。
そりゃあ、教師として、遅刻する可能性を宣言する生徒になんて返したらいいのか分からないだろう。
それからしばらくすると、紫音が自己紹介をする番になった。
「鬼灯紫音です。アパートで白玖乃と一緒に暮らしてます。白玖乃の事は私が起こしますので安心してください。よろしくお願いします」
紫音がそう言うと、「本当によろしくお願いします」と桜井先生が返事をしており、その言葉にはただの挨拶以外の意味もあるような気がした。
その後も自己紹介は順調に進んでいき、クラス全員の挨拶が終わると桜井先生が締めくくる。
「皆さんありがとうございました。これから三年間よろしくお願いします。以上で本日の予定は終了となります。
また明日、遅刻しないように気をつけて登校してください」
桜井先生はそう言うと、教室を出ていった。クラスのみんなも帰り支度を済ませ、少しずつ帰っていく。私も帰るために紫音のもとに向かい声をかけた。
「紫音、私たちも帰ろ」
「そうだね」
紫音が席を立つと、私たち二人は並んで教室を後にし、学校を出て帰路に着いた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
新作始めました。
今回は人気者の彼女を自分に依存させる、共依存百合です。
愛は重いですが、ストーリーはあまり重くないので気軽に読めると思います。多分。
「人気者の彼女を私に依存させる話」まだまだ拙いですが、こちらもよければ是非読んでください。
よろしくお願いします。
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