料理
部屋に戻った私たちは、買ってきた食器や調理器具を置き一息つく。そして、しばらく休んだ後、先ほどの茜さんについての話を紫音がしてきた。
「茜さん、美人さんだけど、もしかして残念美人なのかな」
「そうかもしれないね。まだ確定ではないけど、雰囲気的にはそんな感じがした」
私と紫音の中で、茜さんという人物像が少し変わったが、それでも良い人なのは間違いないので、あまり気にする必要はないだろう。
「さて、一度買ってきた食器類や調理器具を洗って、今日の晩御飯の準備でもしますか」
紫音はそう言いながら立ち上がると、一度伸びをしてからキッチンに向かった。材料は帰りに近くのスーパーで買ってきたが、今日はシチューとサラダを作るらしい。
紫音が作った料理を食べるのは初めてなので、とても楽しみである。
「紫音、私も何か手伝うよ」
「ありがとう白玖乃。なら、ご飯作る前に、一度食器とか洗うから、白玖乃は私が洗ったやつを拭いてくれる?」
「任せて」
料理はできない私だが、物を拭くことはできるので、私もキッチンに向かい、紫音の横に並んだ。
その後、紫音が洗った物を私が拭くという作業が終わった後は、紫音が調理を始めるというので、私は紫音が作るのを近くで眺めていることにした。
(紫音、手際良いなぁ。実家にいたときによくやっていたって言ってたし、これは食べるのが楽しみ)
しばらく眺めていたが、私にできそうなことは特になかったため、ベットの方に向かって行き寝転がる。
そしてスマホを取り出し、紫音にバレない様にさりげなく写真を撮った。
(やっぱ美人だぁ、紫音。料理作ってる姿もさまになってるし、これからの生活が楽しみだ)
そんなことを考えながらスマホをいじっていたが、少しずつうとうとしてきて、気付いたら寝てしまった。
「白玖乃!」
「…んぁ?」
「ご飯できたから早く起きて。冷める前に食べよ」
どうやら、私が寝ている間にご飯ができたようで、紫音に揺すられて目を覚ました。
すると、とても美味しそうな匂いがするのでテーブルを見てみると、シチューやサラダがテーブルの上に並べられており、あとは私と紫音が食べるだけの状態だった。
私は体を起こすと、テーブルまで近づいて床に座る。
いつかクッションとか買うべきかもしれない。お尻が少し痛い。
「さぁ、冷めないうちに食べよ、白玖乃」
「そうだね。…では、いただきます」
私はそういうと、スプーンでシチューを掬い、一口食べる。
瞬間、あまりの美味しさに動きが止まってしまった。肉や野菜は溶けすぎず硬すぎないちょうどいい硬さで、シチュー自体も味が少し濃いめのためか、具材にも味が染みていて美味しかった。
「どうかな?」
紫音は、私の感想が気になるのか、自分はまだ食べずにいた。
なので私は、素直な感想を彼女に伝える。
「とても美味しいよ。いつも食べるのより少し味は濃いけど、私はこっちの方が好きだな」
「よかったぁ。こっちと地元だと味の濃さとか違うって聞いたことあったから、白玖乃の口に合うか心配だったんだ」
「そうだったんだね。とても美味しいから安心していいよ。なんなら、お代わりしたいかな」
「あ、それなら、ちゃんとあるからたくさん食べていいよ」
「それはよかった。なら、ありがだくいただくね」
そう言って私が食べ始めると、今度は紫音も自身で作った料理を食べ始めた。
まだシチューしか食べていないから分からないが、今回の料理がとても美味しかったので、今後の料理もとても楽しみである。
ちなみに、シチューは2回お代わりしてしまいました。とても美味しかったです。
しばらくしてご飯を食べ終わった私たちは、また二人でキッチンに並び使った食器などを洗う。
その後は交代でお風呂に入り、昨日と同じく二人でベットに入ると、私たちはすぐに眠りについた。
翌朝、今日は目が覚めて息苦しいということはなく、むしろ隣に紫音がいなかったため、少しの寂しさから一日が始まった。
紫音を探してみると、彼女はキッチンにおり、どうやら朝食の準備をしているようだった。
私はベットから降りて、彼女のもとへと向かって、挨拶をする。
「おはよ、紫音。今日は起きるの早いね」
「おはよう、白玖乃。朝食を作ろうと思っててね。もうすぐできるから、少し待ってて。…あ、ごめん。やっぱこれなげてきてくれる?」
紫音はそう言いながら、私にゴミ袋を渡して来た。
(…なげるってなんだろ。床に投げつければいいのかな)
私は寝起きのためか、頭があまり働いておらず、言われた通りにゴミ袋を床に投げてみた。
ポイ
ガサッ
ゴミ袋が床に落ちる音に気付いたのか、紫音が私の方を見て来た。
私もなんとなく紫音を見返してみる。
「……」
「………」
しばらく見つめ合った後、紫音が最初に口を開き尋ねて来る。
「…ねぇ、白玖乃?なんでゴミ袋を床に投げたのかな?」
「いや、紫音が投げてって言ったから投げたんだけど」
「いや、なげてって言ったけど、ここで投げなくてもいいでしょ?」
なぜか、微妙に噛み合わない私たちの会話。
(もしかしなげてって、方言?)
「ごめん、紫音。なげてって、物を投げるの投げる?」
「何言ってるの?なげるは捨てるで…しょ…あ」
どうやら紫音は、自身が自然と方言を言ってしまったことに気付いたようだ。
「ごめん、白玖乃。ゴミをなげてはゴミを捨ててなんだ。そりゃ、何もわからずにゴミ袋渡されて投げてなんて言われたら、そうなるよね。ほんとごめん!」
「いや、大丈夫だよ。私もちゃんと確認してから行動すればよかった。寝起きだったとはいえ、さすがにゴミ袋を床に投げるはなかったね」
「これからは気をつけるね。申し訳ないけど、そのゴミ、捨てて来てもらっていい?」
「別に言葉を直さなくてもいいよ。私が理解すればいいんだし。方言で話す紫音も好きだから、あまり気を遣わないでね」
私はそう言うと、床に投げ捨てられたゴミ袋を改めて拾い、ゴミ捨て場へと向かった。
私がゴミを捨てて部屋に戻ると、テーブルの上には朝食が並べられていた。
今日の朝食は焼いた食パンと目玉焼き、あとは野菜が皿に盛り付けられており、いかにもな朝食がテーブルに置かれていた。
「ゴミ捨ててありがとうね、白玖乃」
「いいよ、朝食作ってもらったわけだし。これくらいはしないとね」
私がそう言った後は、二人ともテーブルの前に座り、朝食を食べ始める。
そして、今日の予定について確認していく。
「紫音。今日は生活してみて足りないと思った物を買いに行こう」
「いいけど、具体的には?」
「床に座る時のクッションや炊飯器などです」
「確かに。直接床に座るのは少しお尻が痛いね」
「そうゆうこと。なので、朝食を食べて少し休んだら、買い物に行こう」
「わかった」
こうして、今日の予定も決まったので、朝食をしっかりと食べてお腹を満たし、私たちは出かける準備に取り掛かったのであった。
そんなこんなで、必要な物を購入したり、買った物の配置や紫音の料理を堪能して過ごしていると、あっという間に入学式の日となった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます