ついてない日

「見つけ出せ!!見つけ出して殺すんだ!!」


 哲也てつやは、ドッドッドッとなる心臓と整わない息をなんとか物騒な彼らに聞こえられないように持ち直しながら、物陰の裏から声がする方を見ては、チッと舌打ちをする。


「日本だぞここ!?

 イタリアでも、香港でもないんだぞ!?」

「イタリアンマフィアとか、香港マフィアといいたいのか?

 マフィアもヤクザも極道も名称違うだけで、8割程度は同じものじゃないか?」

「違う!!」


 他人から見えないことを良いことに詰まれた木箱に座り、足を組み頬杖をつきながらカゲは黄色い目で物陰に隠れている哲也てつやを見下ろす。

 何処から仕入れてきたのか甚だ疑問で仕方ない銃を片手に、哲也てつやを探す彼等に気づかれない程度の声の大きさで哲也てつやはカゲに反論する。


「なんかこう……違うんだよ!!」

「……はあ」


 あまり感情の変わらないカゲであるが、珍しく何いってんだこいつといった顔で哲也てつやの事を見ている。

 ここは、東宮あずまみや江戸えど区の小さな港。

 千木ちき県と隣接する、この小さくて平凡なはずの夜の港は、怒号と騒音に包まれていた。


「そもそも、簡単なお使いじゃなかったのか!?」

「……さぁ?想定してなかったかも知れんぞ?」

「明らかに不自然な間!!」


 カゲは、少し考えるフリをしてから目元を細めて笑う。

 ことの始まりは、昨日の晩に掛かってきた1通の電話であった。


「事前調査ですか?」

『そうだ。

 今から送るが、その周辺に対して啓示が下りた。

 まだ、詳しいことは分からないらしいが事前調査として軽く調べてきて欲しい』

「おお、噂に聞く啓示」

『その啓示だ。

 まあ、そこまで大事にはならないだろう気楽に行ってくると良い』


 はかりは、そういうと領収書かレシートを忘れるなよーと付け加えて電話を切った。

 啓示というのは、永全ながたけ知里ちさと隊長が契約しているロイデアの能力だ。

 哲也てつやは、まだ会ったことないので詳細は知らないがどうにも未来予知のようなものが出来るらしく、組織内ではその予想された内容を『啓示』と呼んでいる。


「直接指名来たのは初めてだな……今までも啓示自体は何回かあったらしいけど」

「偶然なのか、あっちが意図的に避けているのか……まあ、どっちでも取れるがな」

「カゲ」


 組織専用の通話アプリに送られてきた地図を哲也てつやが見ていると、カゲがふわりと前に現れた。

 ガゲいつでも大体側に居るらしいが、ずっと周波を維持するのが面倒という理由で現れたり消えたりするので、だいぶ慣れたが未だに少し哲也てつやは驚く。

 外では、大抵維持しているのだが家だと狭いし家電製品が故障しても面倒という理由も追加されるので、通称低燃費モードでいることが多い。


「避けているって……知り合い?」

「いや、それはない」

「……ならなんで避けられているんだ?

 というか、お前は隊長のロイデア分かるのか」

「……確証はないが、確信はあるってところだな。

 まあ、私も好き好んで会いたい訳ではないので何も進言しないが……組織にずっといればその内会うタイミングもあるだろう、あまり気にするな」


 カゲはそれだけいうと、また瞬きの間にその場から消えてしまった、また低燃費モードに移行したらしい。


 改めて、送られてきた地図を見る。

 江戸えど区のどちらかといえば千木ちき県よりの地域に赤いペンで丸が描かれている。

 正直、あまりこっち方面は最近行った記憶がないので曖昧だが大きな公園があったり水族園とかもあった気がする。


「……何があるんだろうか」

「詳しいことは分からないのだろう?

 なら、少なくとも明日明後日の啓示ではないだろう、はかりが言っていたように会社の金で遊べるとか気楽に考えとけ」


 低燃費モードでも話すことぐらいは造作も無いらしく、どこからともなくカゲの声が聞こえる。


 啓示は、近い出来事であればあるほど精密で正確さも上がる。

 最初の説明の時に、「台風の進路予想図のようなものだ」とはかりが説明していたように詳細が分からないというのは、まだ先のことという意味なのだ。


「それもそうだな、おやすみカゲ。

 明日は、水族園に行こうな」

「行きたければ行くといい、私はただ着いていくだけだ」


 あいも変わらず、そっけないカゲに哲也てつやは苦笑しながらパチンと部屋の電気を消した。



「現実逃避は終わったか?」

「終わったよ!!」


 昼間は良かった。

 水族園は楽しかったし、飯も港の近くとあって新鮮で美味しかった。

 が、こんな事になったのは日が沈みかけていた夕方頃であった。

 小規模なロイデアが出現した……のはいい、まだ。

 ロイデアが出現すると、特務機関が出動してくるのでカゲと哲也てつやは2人?で陰から様子を伺っていた。

 勿論影なるヒーロー、特務機関ヒーローがピンチの時にさっそうと現れるダークヒーローは秘密結社ダークの信条に含まれるからだ。

 表通りの騒ぎに気を取られていると、聞き慣れない乾いた音を背後で聞こえた。


「ん?」


 カゲは目線だけをその方にチラッと向けてから、興味を失せたように再び閉じた。

 哲也てつやというと。


「あ?なんで餓鬼がこんな所に居るんだぁ?」


 黒光りする物体の先から、硝煙をゆらゆらと纏いながら見るからに堅気ではない男とバッチリ目があった。

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