容赦なく蹴飛ばされた背中
「あの……私とつきあってください!!」
「付き合っちゃえばいいじゃない!!」
こんな話が聞こえちゃったら、叫んじゃっても仕方がないよね。
なんとなんとっ! ハルくんが告白されている!
私は今、3階の西側トイレからお外を見下ろしてる。
どうしてかって、昨日ここに探検に来て、なんか変だったのになんにも見つけられなかったから!
夜にドアが閉まるなら、昼でもドアは閉まるでしょう? ドアを開けたらなんかいる気がしない?
でも、今見たらトイレは開いてた。つまんなぁい。
あーあ、と思ってたら、トイレの窓から声が聞こえたの。
ひょいっと見下ろしてみたら、なんとハルくんが告白される真っ最中!
ううーん、私の記憶でも、ハルくんが誰かと付き合ってたことは、ないかな?
超珍しい!
ハルくんに春がきたぁー!
きゃぁ、なんか超楽しい。
足をパタパタさせてからトイレからもっかい見下ろすと、2人してこっちを見ていた。
あれ? つきあわないの?
「つきあいます!」
うんうん。そうだよねっ。
でも、あれあれ?
お返事はハルくんじゃないほうから来ちゃった。あなたはどうでもいいんだけど?
「ごめんなさい! お断りします!」
そう言ってハルくんは走り去った。
ぇぇ~つまんない。
◇
「藤友君! 断って! 今すぐに!」
アンリの声に一瞬頭が真っ白になったとき、切迫した東矢の声がイヤホンから聞こえた。
首筋全体にぞわりと怖気が広がる。
急いで断りの文句を叫んでその場を離れた。
……最悪だ、アンリに見つかった。それにアンリのあの声は相当面白がっている。
花子さん(仮)は俺の返事をどう受け取った? 俺はちゃんと断れたよな?
ともあれ俺は東矢を伴い、急いで校舎を離れる。アンリのいるあの場に留まれば、ろくなことにならないのが目に見えている。他に行くところと考え、仮に『学校の怪談』であるとすれば学校を離れたほうがよいだろうと思いいたり、寮に戻ることにした。
ちょうど夕食時で食堂や談話室は混んでいた。だから東矢の部屋に招かれた。ぱっと見は綺麗だが、なんとなく雑然とした部屋だ。椅子を勧められたが断って床に座る。他人の椅子は落ち着かない。東矢は散らかったベッドを片付けて腰かけた。
「東矢、あれは『トイレの花子さん』だと思うか?」
東矢はお茶を入れながら不可解そうに俺を見る。
「僕にはそうは見えなかったけど……何を話してたの?」
「うん? 話し声は聞こえなかったのか?」
「藤友君の声しか聞こえなかった。なんだかゴプゴプ言っていたように聞こえたけど。坂崎さんがつきあっちゃえって言ったら急に元気付いてヤバイと思った」
東矢とはそれほど距離は離れてなかったように思う。
ただし怪異の類は声が録音できないのもセオリーだし、スマホに音声が通らないのかもしれない。あるいは俺にしか聞こえない声だった、とか。ゴプゴプ言っていたということだから最後の可能性が最も高いだろうか。
「『つきあってください』と言われて断った、と認識してる。『つきあう』は憑依のほうかもしれないが」
「ああ。それであの返事だったんだ。うーん、どうだろう……断ったのはよかったとは思うんだけど、途中で坂崎さんが変なこと言ってたから。そういえば、坂崎さんはなんなの? わざとなの? 藤友君かなり危険だと思うんだけど」
東矢は眉を潜める。さて、なんと説明しものか。
「昼にも言ったが、アンリは今が面白ければいいんだ。結果とか危険性とか、そんなことはちっとも考えてないしわざとじゃない。だから東矢もアンリとの付き合い方には気を付けたほうがいい」
「……友達じゃないの?」
「どうだろうな。少なくとも俺にとって『友達』とは違うと思う。アンリはその辺の化け物より話が通じないと思っておくのが安全だ。なんにしろアンリにバレたのが痛い。アンリは多分全力で俺とくっつけようとする」
東矢はその評定にますます困惑を深めた。
どうしたらいいのか本当に頭が痛い……。
「それはちょっとさすがに……。ううん、じゃあ、藤友君は坂崎さんのほうを何とかして。僕はアレ、じゃなんだから『花子さん』のほうにあたってみる」
花子さんにあたる?
「花子さんにあたるって何をどうやって?」
「えっと……」
東矢はわかりやすく目を泳がせた。
「1回会ったから、場所はわかる……と思う」
霊能力者かなんかなのか? とりあえず嘘をついているようには思えない。断定しているということはおそらく何らかのアクセスの方法はあるのかもしれない。
現状を分析しよう。花子さんとアンリの2方向から襲われるよりは、駄目もとでも1つを受け持ってもらえるのはありがたい。アンリ対策だけでも頭が痛い。
「すまない、恩にきる。今度なんかおごるよ」
「いいよ、まあ何かの縁だし。あ、そういえばつきあってる人って坂崎さん?」
「違う。断る決まり文句だ。」
冗談じゃない。
考えるだけで恐ろしい。
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