何故か深夜の学校探検
そろそろ学校に集合の時時刻になった。
正直なところ気が進まない。進まないというのも少し違って、なんだかピンと来ないというのが正直なところかも。学校の友達からの誘いと考えると嬉しいけれど、そもそも友達なのかもわからない、昨日始めて話した二人と肝試しに行く。
どういう反応をすべきなのか、皆目検討がつかないぞ。それに色々おかしい。
僕は学校の寮に住んでいる。そして寮の玄関前に管理人室がある。外に出るには管理人室前を通らないといけない。そしてこの時間の外出は必ず止められるはず。だから行けなくても仕方がない、よね。
そんな事を思いながらそろそろと玄関に向かうと、今日に限って何故か管理人さんが席を外していた。いつもいるのになんで?
ー大丈夫だ、なんとかなる。
昨日の藤友君の言葉を思い出す。あの二人はいない事を知ってたの?
行かない言い訳がなくなっちゃったと困惑しながら、僕はそっと扉を開けて夜に歩き出す。ぴゅうと涼しい風が吹いた。
寮は学校のすぐ隣。歩道に沿って5分くらい。
幅3メートルほどのレンガ敷の歩道の両脇には5メートルおきくらいにグランドライトが設置され、ぽつりぽつりと白い光が夜を浮かび上がらせる。
一人ですすむ道はどこか寂しい。近づくにつれてだんだん大きくなる夜の校舎の大きな影は、昼間と随分印象が異なった。昼とは違う場所につながっているようで、不気味でおどろおどろしく見えた。
約束の校舎入り口に着く。当然のように二人は待ちかまえていた。
藤友君は少し長めの濃い赤のTシャツに濃紺のマウンテンパーカー、それから黒っぽいデニムパンツにローカットスニーカー。坂崎さんは薄いピンクのワイドパーカーに白のスキニージーンズ、藍色のショートブーツ。二人は普通に出かける用の私服で、ジャージ上下で来た僕は少し浮いているような。
「本当に行くの?」
「行くよー?」
ろくに話したこともないのに?
なんだか違和感、というか場違い感が酷い。こういうのって仲がいい友達と行くものではないだろうか。そう思えば、坂崎さんは楽しそうだけど藤友君はどこかつまらなそうに見えた。
「行くぞ」
藤友君はそう短く呟き、職員室に近い通用口に向かう。そして入り口の近くの古びた室外機の下をごそごそとまさぐり小さな鍵を取り出して手早く通用口を開ける。
「どうして知ってるの? 二人も先月引っ越してきたばかりだよね?」
「アンリが見つけた」
「前にも入ったの?」
「初めてだよっ。ドキドキするね」
色々噛み合っていない。何で鍵の場所を知ってるのさ?
居心地悪いと思いながらも、早く入れと手招きする藤友君の脇を急いで通り抜ける。通用口はパタリと閉じられ真っ暗闇でおどおどしていると、藤友君が慣れた様子でペンライトで廊下を小さく照らした。
夜の校舎の廊下はしんと静まり返っている。新谷坂高校の建物は古い。コンクリートの灰色の壁や天井がライトの灯に照らされ深い凹凸の陰を刻む。普段感じることのない威圧感を滲ませる。こうなっては二人がいることが少しだけ心強い。そもそも一人じゃ来はしないけど。
「アンリ、どこから行く?」
藤友君の声はやっぱりつまらなさそうだ。
「トイレでしょ?」
「どこのトイレから行く? 一階から回るか?」
「うーん、そっか。東矢くんはどこからがいい?」
突然振られても困る。
学校にはトイレが複数ある。東の端と西の端に各階。正直どこでもいいんだけど。
「近い東階段から登って、反対側から降りてきたらいいんじゃないかな」
「オッケー、そうしよっ」
藤友君の後ろに坂崎さんが続き、その後僕が追いかける。そして何かが追いかけてくる。最後のは気のせいだろうけど。
そうして気が付いた。二人が堂々としていることに。というかものすごく手慣れてる。いつもこんな風にどこかに忍び込んだりしているのかな。窓がカタカタと揺れ、思わず振り向くとその奥には闇が降り積もっていた。
最初の東階段隣の1階トイレは通用口のすぐ近くにあり、女子トイレに坂崎さん嬉々として飛び込んだ。
「東矢、悪いが男子トイレを見て来てくれないか」
「藤友君は?」
「ここで見張ってる。誰かいないとアンリが勝手にどこかに行きかねない」
予備のペンライトを持たされ、夜のトイレを手早く見回る。冷たいタイルが光を反射し、正直怖い。各個室をパタパタと開けて入り口に戻れば、坂崎さんが男子トイレも見たいと言い張り、他に人がいないから、ということで坂崎さんも中を確認することになった。そして2階に移動する。
「どうせ全部見るなら同じだろ。ここのトイレもお前が両方見てこい」
「えー? だって肝試しだよ?」
「あの、僕もここで待ってます」
「変なの。まいっか」
坂崎さんは少し首を傾げ、トイレに入っていった。こんな経緯で、以降は男女ともに全て坂崎さんが点検することに決まった。
「あの、僕がここにいる意味があるのかな。何で誘われたのかよくわからないんだけど」
「……理由はアンリに聞け」
取り付く島がない……。けれども藤友君は僕を改めてじっとみて、ふぅとため息を付いた。
「勝手に予定を決めたのは悪かったと思ってる。ただ、アンリは話を聞かないからな。嫌だと言えばいつまでも騒ぎ続けるんだよ。キリがないから、絡まれたら早めに諦めた方がいい」
印象通り、やっぱり話を聞かない人なのか……。
そうするとさっさと話をまとめてくれた藤友君に感謝をするべきなのかな。
「藤友君は幽霊とか興味あるの?」
「ない。お前は幽霊って信じるのか?」
つまらなそうな問い返し。
藤友君は信じないんだな。けれどもさっきから、眉間に僅かにしわを寄せながら廊下をキョロキョロと見回して、やけに警戒しているように見える。よく考えれば校舎に入ってからずっとそんな感じだ。怖がってるふうにも全然見えないけれど。
「僕はまぁ、信じてるかな」
「そっか。俺は幽霊は見えないしな」
僕は多分、幽霊が見える。幽霊かどうかはわからないけど、今もふわふわと形にならない気配が漂っているのを感じる。
これは新谷坂山の封印を解いてから、つまりほんの先月末から感じるようになったもので、それが何だかは未だによくわからない。
けれどもきっぱりと全否定する藤友君の話し方には、かえって好感がもてた。気遣って信じるといわれるより、案外気持ちがいいものだ。
「僕もはっきりとは見たことないよ。何かがいるような気配を感じることは最近よくあるんだけど。坂崎さんは好きなの? 幽霊」
「アンリは……幽霊というよりは面白いものとか変なものが好きなんだよ。そういえばお前、今日急に絡まれただろ。何かあったのか?」
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