第4話 帰還

一筋の光が見えてから、私はその光にすがるように歩み始めた。


この光の向こうに、生きがいのある人生が待っているかもしれない。


どこに続いているか分からない。ただ、孤独と共に生きる私にとって、まさに希望の光だった。


少し目をそらせば見失ってしまうほどの光の道。気を抜けば、再び孤独と過ごすことになる。


懸命に歩みつつ、冷静さは忘れないようにした。


必死に歩みを進めていると、思いのほか早く明るい道が開けてきた。


険しい道が待ち受けていると思っていたからか、少しだけ拍子抜けした。


グッと力が入り続けた体から緊張がとけ、意識して深呼吸した。


冷たい雰囲気さえ漂う酸素を胸いっぱいに吸い込み、辺りを見渡す。


そこには、友人たちが生きる元の世界が待っていた。


私が今まで生きてきた普通の世界。大きな空に太陽が登り、私を明るく照らしている。


どこか見覚えのある場所。そう、ここは私の出身高校だった。


実家から30分ほど電車に揺られ、普通電車しか停車しない小さな駅から歩くと辿り着く。


周囲に大型商業施設などはなく、住宅地をぬけ、日陰のない河川敷を20分ほど歩くと母校に辿り着く。


まさに今、私は母校の校門の前に立っていた。


楽しい思い出ばかり詰まった母校。中学時代、勉強が苦手で苦しんだ過去から解放してくれた母校。


周りの友達は皆明るく、ワイワイとした雰囲気で授業が進む。体育祭、文化祭はクラス全員が真剣に取り組み、かけがえのない思い出となった場所だ。


校門からは、薄汚い校舎とグラウンドの一部が見えている。


校舎からは生徒と思しき声が聞こえ、私が通学していた時と変わらないワイワイした雰囲気を感じ取れた。


なにも取り柄がなかった私を、温かく迎え入れてくれた校門。様々な思い出が頭の中を駆け巡り、じんわりと涙が溢れてくる。


ようやく戻ってこられた。皆が一生懸命生きる世界に戻ってこられた。人生で一番楽しかった思い出が詰まる校門に再び巡り会えたことは、神様が仕向けた激励のメッセージとしか思えなかった。


皆が働く社会にはまだ戻れていないが、生きている世界には戻ってきた。私も皆と同じ舞台で再び生きていける。


今は1人で校門の前で立っているが、そこに孤独はいなかった。


ここからさらに厳しい現実が待っているだろうと思うが、自分らしく生きていこうと決心した。腐らず、皆と同じ世界に生きている。


この事実だけで、私の胸はいっぱいになった。


少しの時間、体験した幻想。あれが現実のものなのか、夢なのか分からない。


ただ、この校門を越えた先に、再び明るい人生がスタートしている気がした。根拠はないが、心が欲していた。


私は勢いよく校門を通り、明るい声がする校舎へと駆けだした。




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幻想 氣嶌竜 @yasugons

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