第3話 ありがたみ

孤独とひたすら隣り合わせで生きる日々。太陽がまぶしく、家から外に出る気にならない。


インドア派というのも影響している。ただ、以前に比べて気分は酷く沈んでいる。


太陽の日差しを浴びる明るい場所には、かつての同級生や友人たちがいる。


彼らは自分の足でしっかりと立ち、社会というシステムの中で懸命に生きている。


我慢を強いられ、理不尽に耐えている。SNSで愚痴を吐くことはあっても、また太陽が登れば社会に飛び出していく。


私はなにをしているのか。引け目のようなものを感じる。


日中、どこかへ出かけるといっても、行動範囲は広くない。


車で10分の本屋に通い、新しい本が入荷されていないかチェックする。


様々な本が並ぶ中、前向きな言葉を題名とした本が目に付く。


うらやましい、私も明るくなりたい。


そう願っても、なにか事態が急展開するわけではない。


親の目もあって、転職活動は始めた。けれど、まるで内定はもらえない。


いつもメールにはお決まりのお祈り文が書いてある。


たった3ヶ月で仕事を辞めたやつに、社会はそこまで優しくなさそうだった。


若さなのか、そこに根性がないのこともプラスされたのか。勢いよく仕事を辞めたことに後悔はなかったが、次の仕事が見つからない。


決して体力がある方ではない。むしろ、人並みより体力はない方だ。


幼少期の頃はすぐに熱を出し、高校生の頃まではほぼ毎年インフルエンザになっていた。予防接種を欠かさず打ってきたが、毎年私の免疫をすり抜けてインフルエンザがやってくる。


体力を使う仕事はあったが、私ができるわけない。半日持てば良い方で、太陽の日差しにさらされ続ければ、速効ダウンである。


室内で行う仕事を探しても、いつも書類で落選。自分が悪いとはいえ、ここまで厳しいとは思わなかった。


甘い。世間にそう見られても致し方ない。


でも、私はここから大きなことを学んだ気がする。


仕事のありがたさ。


仕事は与えられて当たり前じゃない。


初めて大切なことに気付けた気がした。


今まで、当たり前にあると思ってた仕事は、当たり前にあるわけではない。


ふと、心の中で湧き上がった感情に、自分自身驚きを隠せない。


急に優等生になった気分。恥ずかしさ、自らの愚かさ。様々な感情が少しずつ心に触れていく。


この感情が、社会に戻れる切符かもしれない。


根拠もない考えが、細い光の道となって私の前に現れた。





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