第41話 告白
「私ね、やっぱりマルツェルの事が好きなんだなって思てるの」
裁判で、何度も、何度も、元上司であるモーガンさんに恋慕を抱いていたんだろうとか、しつこく付き纏っていたんだろうとか、忘れられない恋心を抱いていたんだろうとか言われて気が付いたんだけど、私がずっと気になっていたのは彼の事で・・
「新聞社を辞めた日なんだけど、私、その日の朝にマルツェルの家に行ったのね。夜勤だっていうのは知っていたし、朝ごはんだけでも作ってあげようと思って行ったんだけど、マルツェルは職場から帰っているみたいで、それで寝室に顔を出したの。ごめん、勝手に寝室に行くなんてことしちゃって」
「なんで?アグニエスカは僕の家の何処に行ったって問題ないよ?」
彼の驚く顔を見ながら、ため息をつきたくなる。ああ、マルツェルったらなんて悪い男なのかしら。
「だめだよ、女の人を連れ込むんだったらきちんと報告してくれないと」
「女の人って秘書のピンスケルさんの事?」
「お付き合いしているんでしょ?結婚も考えているとか、私、全然知らなくて」
「え?どういうこと?」
マルツェルは意味がわからないといった様子で目を見開いた。
「確かに、魔法省の幹部は自分の秘書と結婚する人が多いけど、僕とピンスケルさんはそんな関係じゃないよ」
「結婚は考えてないけど、体の関係はあるってこと?幼馴染として言わせてもらうけど、あまりにも不誠実じゃないのかな?」
「体の関係ってなに?」
マルツェルは心底理解出来ないといった様子で言い出した。
「僕は魔法省に移動になって、幹部職は生活がおざなりになり過ぎて過労死する事が多いからっていう理由で、秘書をあてがわれる事になったんだけど、彼女はかなり距離を持って接してくれるというか、節度ある付き合いをしてくれるから、だったらまあいいかと」
「ねえ、節度ある付き合いってなに?」
「え?」
「私ね、あの時、寝室で、マルツェルとクリスティナさんが一緒に居るところを見たの。その時、クリスティナさんは裸だったんだけど、それってそういう行為があったからこそ、そういう事になっているんだよね?」
「は?はだか?」
マルツェルは顔を真っ青にすると、私の肩を両手で掴んだ。
「クリスティナ・ピンスケルは僕の寝室にいたの?食堂とか、応接室とか、そういう場所じゃなくて、僕の寝室に?」
「そうよ!裸で一緒のベッドに寝ていたじゃない!」
「嘘だろ!マジか!信じられない!」
マルツェルは側から見ても分かるほど小刻みに震えながら、吐き捨てるように言い出した。
「気持ち悪い!知らない女がベッドの中に!しかも裸でいただなんて!なんで僕は気が付かなかったんだ!」
マルツェルは一体、何に驚いているのだろうと惚けていると、彼は必死になって言い出した。
「アグニエスカ、考えてみて!知らない間に、アグニエスカのベッドに大して知らない職場の同僚が裸で入り込んでいたらって考えてみて!気分悪くなるでしょ?」
「でも、クリスティナさんは美人だし、グラマラスだし」
「アグニエスカのベッドに、全裸の金髪男が入ってきたらどう思うわけ?」
「恐怖だね」
どんなイケメンだったとしても、全裸?恐怖だわ。
「マジかーーー、そうかーーー、他にもあの女はなんなのっていう話があったら教えてくれない?僕、本当に気が付いていない事があるのかも」
「だったら、マルツェルはナタリアと付き合っていたんでしょ?」
「は?誰?どこのナタリア?」
「ナタリア・ネグリ、ポズナンの町長の娘の」
「ああー、クソだなあいつ」
マルツェルは裁判で意気揚々と話すナタリアの姿を思い出した様子で、顔をくちゃくちゃに顰めて見せた。
「恩を完全に仇で返された。本気でムカつく、死ねばいいのに」
「でも、そのナタリアと付き合っていたんでしょ?」
「なんでそうなるの?」
「だって、良く一緒に居るのを見たもん、ポズナンに帰ってきた時も、私の事を好きだとか言いながら、ナタリアとデートしていたでしょ?」
「はあ?」
マルツェルの顔は真っ青から土気色にまで変色した。
「ナタリアは昔っからアグニエスカの学校での様子とか、僕の知らないアグニエスカの事を色々と教えてくれたんだよ。あの時も、ポズナンに戻ってきたアグニエスカが空前のモテ期に入っているって事は聞いていたから、どんな奴が粉をかけてきていたのかって事を教えてもらっていただけで」
「でも、付き合っていたんでしょ?」
「なんで?僕にはアグニエスカだけだって!なんで信じてくれないの?」
マルツェルは髪の毛をぐちゃぐちゃにかき回しながら、呻くように言い出した。
「今までそりゃ、ケーキを奢ったり、お菓子をお土産で買ってあげたりしたけど、全てはアグニエスカの情報を得るためだよ?僕にはアグニエスカしか見えてないもん、5歳の時に会った時から、アグニエスカは僕のお嫁さんに決定しているんだよ?」
お嫁さんなんて初めて聞いたし、そもそもマルツェルが5歳の時なら私は3歳の時って事になるじゃない。
「じゃあ、マルツェルは私だけが好きなの?」
「好きだよ!そう言っているでしょ!」
「冗談なのかと思ってた」
「なんで冗談だと思うのかな」
「だって、王宮の中ではマルツェルと秘書のクリスティーナさんがいかにお似合いかって事が話題になっていたし、マルツェルがクリスティーナさんを抱きあげて移動した時なんて、女性事務官の人たちがキャアキャア騒いでいたんだよ?」
「あれは彼女が貧血で倒れたから、ただの人命救助に過ぎないよ」
「二人がいかにお似合いか、クリスティーナさんの献身ぶりは相当なもので、マルツェルの心はあっという間に彼女に傾いて行ったって事を聞いて、そうなんだろうなあって思ったし」
「僕だって、散々、アグニエスカが前の上司に惚れ込んでいて、忘れられないとか何とか聞いたよ?だって、僕の家を出て行ったのも新聞社を辞めた日だったし、僕なんか全く太刀打ちできないくらい、アグニエスカは上司の事が好きなんだなって」
「それ本当にやめてくれない!」
クッソ腹立つーーーーーー!
「あの上司はね、私にも粉かけてきたけど、いろんな所に粉かけて歩いているから被害を受ける女子社員が山のように出ているような状況だったの!どうせ辞めるんだったら、あのクソ野郎に正義の鉄拳を落としてやろうと思って告発したの!そこに愛なんかカケラほどもないんだからね!そもそも!私が好きなのはマルツェルで!」
「アグニエスカ!」
マルツェルは私を抱きしめると、顔中にキスを落としながら、
「結婚しよう!ね!今すぐに!ね!」
と、言い出した。
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