第42話 家が燃えている
ジガ・キエブラは元々、魔獣討伐隊大隊の副隊長として働いていたのだが、王国の剣と言われるマルツェル・ヴァウェンサが魔法省に移動するのと同時に、彼の副官業務に就くことになったのだった。
古今東西、魔獣を倒す場合には、隊を率いてのアプローチが多く、個人で討伐などという事が行われていたのは遥か昔のことになる。
遥か太古の昔であれば、個人戦でなんとかなる程の魔力量を持つ魔法使いもそれは多かったという。しかし、今の世の中ではそんな事が可能となるのは、あの『スコリモフスキ家』のみとなるだろう。
王の血を引きながら公には認められていないマルツェル・ヴァウェンサは元々は、建築資材科に勤めていた。魔法省とは関わりない形で王宮に支えていたのだった。王族として、万が一にも注目される事がないように、閑職にまわされていたのだった。
そうこうするうちに、東の森の地下深くに眠りについていた古竜が復活し、それがきっかけとなってスタンピードが発生。魔獣の暴走を収束させるために、マルツェルは正式に魔法省への移動が決定となったのだった。
隊を率いる経験は少ないマルツェルだとしても、十分すぎる戦力を持つ為、十二分に活用することが出来る。ジガ・キエブラは副官となって隠された王の子でもあるマルツェルに仕える事となったのだった。
ジガが副官となってから間もなくして、マルツェルの秘書としてクリスティナ・ピンスケルさんが派遣される事となった。
女性事務官として他部署で働いていたクリスティーナは、魔力量の多さを期待されて魔法省へ移動となったのだ。
「ジガ、僕はやっぱり無理だよ、まともに彼女の顔を見ることがもう出来ないと思う」
血塗れのマレック・モーガンを抱えたマルツェルは、もう一度、自身の拳を男の顔面に叩きつけながら、
「僕は魔法じゃなくて物理だったら人に対しても攻撃出来るんだよ。もしもこれと同じことをピンスケルさんにやったらまずいだろ?僕が直接対面したら血の雨が降ることになると思うんだけど」
マルツェルは何度も、何度も、鼻の骨が折れて、前歯が全て折れたとしても、マレック・モーガンに拳を叩きつける事をやめようとしなかった。
マレック・モーガン、王都に店舗を構える靴屋の息子に生まれる。
学校の成績は良く、奨学金を使って高等専門学校に入学。その後、新聞社に勤める事になる。取材をしたマイコム商会の次女ハリナと結婚し、5歳の娘が一人いる、現在28歳。
取材などそつなくこなすも、女性関係のトラブルが多いため内勤となる。柔和な容姿から警戒心を持たれる事が少なく、自尊心が高い女性や心に傷を持った女性の懐に入るのが上手い。
今回、スコリモフスキ家を陥れることに成功したら、第二王子より多額の報奨金を貰う約束をしている。
「だって彼女、裸で僕のベッドに入り込んでいたっていうんだよ?無理だよ、気持ち悪いよ、理解できないよ」
魔法省の幹部はもれなく若い女性秘書が付くという事がお約束となっている。過去に幹部の過労死が続いた為、長生きさせる為に生活のサポートを行わせるというのが建前上の理由。
本当の理由は、もしも魔力暴走をしてしまいそうになった場合、男女の交わりをもって魔力の放出、拡散をさせるための道具として、女性が身近に置かれるようになったのだ。
魔法使いの数も減ってきている中、王国としては高位の魔力を持つ者同士を交配させて、魔力持ちの子供を授かる事を望んでいる。
魔力暴走を阻止するために関係を持った二人が、高い魔力を持っていれば、その子供に十分な期待をかける事が出来るわけだ。
実際、研究一筋、魔法開発一筋で縁遠くなっている魔法バカが秘書と結婚する事も多いため、魔法省の秘書科は『高位な身分の方の花嫁候補』とも呼ばれていたりする。
少し前であれば、クリスティナが裸でベッドに入ってきたと聞いたとしても、
「魔力暴走を事前に阻止するために、献身的に身を捧げようとしたのだな」
程度にしか思わなかっただろうけれど、今のこの現状では、彼女の持つ悪意を感じずにはいられない。
「まあ、良いですよ。貴方も今まで頑張って彼女に付き合ってきたのですからね。最後の方は私の方で面倒を見てもバチは当たらないでしょう」
「ジガ、ありがとう!」
マルツェルは、拳を血塗れにしながら嬉しそうに笑うと、
「結婚の準備もしなくちゃなんないし、婚約指輪も買いに行かなくちゃならないし!とにかく忙しいから、僕はもう退勤するよ!」
と言って、モーガンの体を投げ捨てた。
「結婚って言ったって、今すぐ出来るわけではないのに?」
「今すぐ出来なくても準備は出来るでしょう?」
報われぬ想いがようやっと実った上司は、スキップしながら帰って行ってしまった。
後ろでは赤々と炎を噴き出しながら家が燃えている。
アグニエスカ嬢の元上司は、偽証罪を連発してスコリモフスキ家を陥れる事に成功した。そのマレック・モーガンの家が燃えている。
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