第32話 第二王子ユレックの策謀
ヴォルイーニ王国の第三妃として娶られる事になったカロリーナは、王との間には王子一人を産んでいる。
妃として十分に貢献しているカロリーナは常に、周囲からの蔑みを含んだ嘲笑や煮え切らない王の態度に憤怒のような怒りを感じていた。
こんな国、滅ぼしちゃいましょうよ!なんて事をお父様に言うわけにはいかないけれど、私は、本当の本当に滅ぼしちゃいたい!まずは邪魔な第一王子のイエジーを排除して、その後はこの国をめちゃくちゃにしてやるの!
「それでね!おばあ様から聞いていたネックレスの逸話を思い出したのよ!古代皇国の遺跡から発掘されたらしいんだけど、古代語との併用で相手に呪いをかけられるらしいのよ!貴方、これを使ってイエジーを呪ってくれない?」
カロリーナ以上に辛い目に遭っているマグダレーナ第二妃の息子となる、第二王子のユレックを捕まえて訴えかけると、ユレックはおかしそうに笑いながら、
「嘘でしょ?あなたが俺に話しかけてくるだなんて!」
と、言い出した。
確かにカロリーナは第二妃であるマグダレーナを馬鹿にしていた、蔑み、嘲笑していたと言っても間違いではない。王宮の者たちが第二妃とその子供たちを居ない者のように扱うから、同じように扱っていたのだ。
それでも、ユレックは興味津々といった様子でカロリーナが差し出したネックレスを眺めながら言い出した。
「この海より深い紺碧の蒼が渦を巻く魔石って古代龍のものを加工した物でしょ?こんなネックレス、良く持ち出せたよね?」
18歳のユレック王子は金茶の瞳をカロリーナに向けた。母親に似て銀髪だけれど、端正な顔立ちは陛下に良く似ているのだ。
「これで殿下を呪うって、魔力量の多い貴女がやればいいじゃない?」
「この魔石は魔力量とは関係なく言葉だけで呪いを発動できるのよ」
カロリーナはエヘンと咳払いをしながら言いだした。
「私よりも貴方の方が殿下に恨みがあるでしょう?呪いをかけちゃいたいと思っているのなら使ってもいいわ!」
「超バカじゃないこの人!ウケる!」
あはっははっはとユレックは笑うと言い出した。
「この国を滅ぼしたいんなら、そんなやり方じゃ駄目でしょう?」
18歳となったユレックは公務も始めているらしく、
「タダ飯を食うな、役立たずであっても少しでも働いて返せってよく言われるんだけど、俺の洋服から飯代から教育費から全部、ストラス子爵であるおじいちゃんが出しているんだけどね?どういうこと?って思っちゃうよね?」
と言って、色々な事が不満だし不愉快だし、頭にきているらしい。
「そんなストラス家に支援いただいている俺だから、今度ルテニアで行われる親善パーティーには俺が出席するようにと言われているんだけど、俺じゃなくイエジー殿下を向かわせるようにできるかな?このネックレスはルテニアのイレーナ姫に使わせるよ、後の事は任せておいて」
「ええー〜?貴方に任せて本当に大丈夫なのお?」
「俺に案があるから大丈夫だよ」
「案って、それ、本当に大丈夫なの?」
「だから、俺がルテニアの親善パーティーに行かないようにそっちで手配してね」
ユレックはそう言うと、カロリーナに向かってウィンクを飛ばしたのだった。
カロリーナの息子のバルトシュは、今までユレックと顔を合わせた事もなかったけれど、仲良しという設定を取り入れて、ユレックも連れておじいちゃまの家(公爵家)へ遊びに行くという事でカロリーナはゴリ押しする事にした。
カロリーナの父である公爵は完全なる娘バカで孫バカなため、
「イエジー殿下も婚約者がいないまま過ごすわけにもいかないでしょう?隣国のパーティーには運命の相手がいるかもしれないですし、少し足を伸ばして息抜きなさったらいかがですか?」
と、会議で進言をして応援してくれた。
22歳になるイエジー殿下は16歳の時に婚約者を亡くしてから新しい婚約者を持つ事もなく過ごしているのだけに、流石にそろそろ伴侶を探してくれと言って周りが煩くなっているらしい。
殿下の為に年頃で魔力持ちの貴族の令嬢が結婚もせずに待機している状態なので、そこから早く選んでもらいたいし、女性に興味を持つきっかけとなるのであれば、他国の令嬢や姫であっても問題ない。
国王は複数の妻を持つので、一人くらい変わり種がいたとしても問題ないという考えで居るようだった。
早い所、女性に興味を持って行動して欲しいという国王陛下の後押しもあって、イエジー殿下は隣国の親善パーティーに出かける事となったのだけれど、殿下は隣国の姫君であるイレーナ姫から呪いをかけられた状態で帰って来ることになった。
頭の先から爪先まで真っ黒という酷い有様で、呪いの所為で王国を覆う結界術にも綻びができるようになってしまったのだ。
久しぶりに国王にカロリーナは呼び出されることになったのだが、
「バルトシュを王位継承第二位とする、身辺には気をつけるようにせよ」
と、言われることになった。
今まで王位継承第一位がイエジー、第二位がユレックだったところを、第三王子であるバルトシュが第二位に昇格することになったのだ。
「いいんじゃないですか」
自分が第三位に追いやられても、ユレックは全く気にする素振りもなく、
「だけど、そこで安心せずに、スコリモフスキ家は排除するようにした方がいいんじゃないですかねえ」
と、言い出した。
「国王は魔力量だけで判断される方という事でしょう?だったら、正妃の娘であるカシア姫を女王にしてスコリモフスキ家の嫡男であるヤン・スコリモフスキを王配にして、膨大な魔力持ち二人に国を任せようと考えるかもしれませんしね」
うそ、そんな事はかけらも考えてもいなかったわ!
「そそそ・・そうよね!そういう考えもあるわけよね!」
「ヴォルイーニ王国を滅ぼそうって考えはもうないのでしょう?」
ユレックがちろりっという感じでカロリーナを見る。
国を破滅させる〜って騒いでいた自覚は確かにあるわよ。
カロリーナは口を尖らせながら言い出した。
「息子が王様になれば私は国母になるって事だものね、滅びたら困るかも」
「だったらスコリモフスキ家は邪魔でしょ?」
そうかもしれない!王家を除いた国内最大級の魔力持ちはなんといってもスコリモフスキ家に他ならないのですもの!
「でも、どうやって排除するわけ?スコリモフスキ家は本来、公爵位となってもおかしくない功績を築いているのでしょ?お父様もスコリモフスキ家だけは不可侵だって言っていたのだけど」
「いやいや、俺たちがあの家に直接何かをするわけじゃないですよ」
「じゃあどうするの?」
金茶の瞳をキラキラさせながら、ユレックはにこりと笑った。
「殿下の結界魔法が中途半端になったおかげで、隣国ルテニアは我が国に宣戦布告を行い、国境線には兵士が山のように集まり始めています。このルテニア軍に膨大な魔力持ちであるスコリモフスキをぶつければいいんですよ」
「ぶつけて負けちゃったらどうするの?うちの国が滅びちゃわない?」
「いやいや、負けないですよ。我が国の魔法使いが総出で迎え撃てば、負ける事はないというのが大方の意見でもありますし」
「それじゃ、もし戦争に勝っちゃったら、スコリモフスキ家が英雄になっちゃうんじゃないの?」
「そうはさせません」
ユレックはカロリーナの耳元で囁いた。
「戦争の混乱の中で敵の銃弾に倒れるなんて、よくある事じゃないですか」
あら、この子、やっぱり陛下に似て、かなり格好いいわよね。
話している内容は物騒なのに、カロリーナはそんな事を考えてしまった。
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