第31話  ユレック第二王子の思惑

 ヴォルイーニ王国の国王となるスタニスワフ王は、膨大な魔力を持たずに生まれた為、王国の結界術を継承することが出来なかった。


 その後に生まれた王子や王女たちも魔力不足は間違いないもので、先王は孫の代に期待をかけることにした。そうして生まれたのがユスティナ妃の息子イエジーであり、先王はイエジーをヴォルイーニ王国の王とするために、次代の王をスタニスワフに決めたのだった。


 スタニスワフ王はイエジー産んだユスティナを正妃としたものの、魔力の多い子を作るために、貴族の令嬢の中では一番大きな魔力を持つというマグダレーナを第二妃として娶っることとなった。


正妃ユスティナは王太子イエジーとカシア姫を産み、第二妃マグダレーナは第二王子であるユレックと妹ドミニカを産んだ。


その数年後、王は第三妃カロリーナを娶り、カロリーナはバルトシュ王子を産んだのだった。


 国王には五人の子供の他に、砂漠の踊り子姫に手を出した際に出来た子供が一人居るが、その息子については公式に認められていない。


 ヴォルイーニ王国は魔法大国と言われるだけあって国民のおよそ8割が魔力を持ち、貴族の中でも王家の血筋を持つ者は、より大きな魔力を持つとも言われている。


 過去には魔法大戦なるものもあったそうだが、周辺諸国での魔力持ちの出生率が軒並み下がっている状態のため、魔力を使わない武器開発が進められているのが現状でもある。


 太陽と月の神を信奉するカルディナ教を国教とする我が国では原則一夫一妻制を導入しているけれど、王家とそれに準ずる魔力持ちのみ、一夫多妻が認められている。


 ヴォルイーニ王国は魔力で防衛を築いている国のため、多大な魔力持ちを生み出す為に、魔力持ち同士の交配を長年続けていた。


 その為、王家は国内の魔力持ちの娘を多数娶る事が多く、王族が有力貴族へ下賜されることも多いため、王家の血を少しでも持つ者は『蒼の血混じり』と呼ばれている。


 大きな魔力を持てば巨大な魔法を展開する事が出来る。王国を包み込む王家の結界は最たるもので、この結界術を継承するために、王は最大の魔力値を示す貴族の娘を娶る事が義務付けられていた。


 正妃であるユスティナは侯爵家の娘であり、国王とは恋愛結婚となる。魔力量は年頃の貴族女性の中で5位に位置付けられていたのだが、結婚後すぐに生まれたイエジー殿下が多大な魔力持ちだった為、最初こそ正妃に対する非難の声は大きかったものの、殿下の存在と共に立ち消えとなった。


 第二妃となったマグダレーナは子爵家の娘であり、魔力量は貴族女性の中でも飛び抜けて多い第一位。イエジー誕生の三年後に娶られ、結婚後一年で王子を産み、その二年後に王女を産んだ。


 第二王子ユレックの母は貴族の中で飛び抜けた魔力量を誇っていたものの、その子供たちは貴族と比べても同等程度の魔力量しか持たない。王国を覆い尽くすほどの結界を施すなどとんでもない話だ。


 爵位も低い家から嫁いできた事もあり、第二妃とその子供たちは周囲から常に蔑まれ、王家の恥さらしとまで言われるようになった。


 第二妃の子供たちが役立たずな為、王は新たに妃を娶る事としたらしい。


 公爵家の娘であり、同年齢の貴族の中では1番の魔力量を持つカロリーナは嫁いだ時には15歳、王との年齢差は15歳。


 公爵は愛娘の輿入れを相当渋ったという事だけど、カロリーナ本人の強い希望によって王家へ嫁ぐことが決まった。


 カロリーナは嫁いだ次の年にバルトシュを出産、第一王子であるイエジー殿下とは10歳差となる第三王子の誕生だった。


 魔力量は第三王子としてはまずまずで、第二王子のユレックよりも遥かに魔力量は多い。


 膨大な魔力を誇るイエジーが祖父から結界術を譲り受けた年に生まれた王子だけれど、イエジー殿下に何かあった場合の代りとして充分に活躍できるだろうと判断された。


 バルトシュの誕生からますます第二妃は見向きもされなくなり、第二妃と子供たちは住居を本宮から一番離れた離宮へと移動させられた。


 王宮に仕える侍女やメイドが寄り付かなくなり、子爵家から借りてきた使用人の世話を受けるようになる。


 第二妃の生家であるストラス子爵家は隣国ルテニアとの貿易で成功をしており、金銭的には裕福だった為、王宮内で行われる数々の嫌がらせについては、それなりに対抗する事が出来ていたのだ。


 王と王妃は恋愛結婚で、二人は大きな愛で結ばれているのだそうで、膨大な魔力持ちを産めない母は、王と王妃の仲を割こうとしたものの全くうまくいかなかった、役立たずと呼ばれ、用無しとされ、離宮から一歩外に出れば嘲笑の的となった。


二人の子供をつくりながらも、王の庇護など一つもなく、声をかけられる事など一度もない。守ってくれるのはストラス子爵だけというような状況だった。


 第三妃であるカロリーナは若い体を駆使して王を籠絡しようと努力をしたそうなのだが、生まれた王子は一人だけ。生まれたばかりの頃には魔力持ちとして持て囃されたものの、王国の空に結界を施すイエジー殿下と比べると明らかに見劣りする。


 しかも運の悪いことに魔法の大家と呼ばれるスコリモフスキ家の後妻が、バルトシュが産まれた年に男子を出産。


 ヤン・スコリモフスキは保持する魔力量も膨大で、操る魔法は大人顔負けの威力を持つ。天才と呼び声高い彼の存在があったが為に、バルトシュの存在感は薄れていった。


 第二王子だけでなく第三王子も実は大した事がないんじゃないかと宮殿の中で噂されるようになり、第三妃カロリーナが癇癪を起こすことがやたらと増えた頃、王都に大魔法使いパヴェウの最後の弟子と呼ばれる男が現れた。


 王立の学園に就学後、王宮の建築資材課に勤務する事となったマルツェル・ヴァウェンサ。閑職に回されたのはカロリーナ妃の視界から遠ざけるためという噂もあるほどだ。


 隠したり、遠ざけたりしたとしても、王家の剣として魔獣討伐に出るマルツェルの事を知らない者は高位貴族に存在しない。


 膨大な魔力を持つ砂漠の姫と王の間に出来た子供であるマルツェルの存在により、第三王子の存在感はほぼ消滅した。


「殺してやる・・あいつら全員殺してやる・・・」


 カロリーナ妃は公爵家の姫君だっただけに、蝶よ花よと育てられ、我儘で高飛車、自己中心的なままの状態で王家に輿入れしてきた。


 本人としては年増の正妃を押しのけて王の寵愛を独り占めにしようと意気込んでいたのだろうが、そんな事にはなるわけもない。公爵家の威光を使っていても、周囲の侮蔑や嘲笑は当たり前のもの。


 第二妃はストレスで引きこもりになり、一年のほどは寝込むようになったものの、実家が裕福でなければ、飢えに苦しんだ末に死んでいたことだろう。


 王からの寵愛が深い正妃あたりは何の問題もなく生活できるのだろうが、第二妃、第三妃ともなると立場の弱さたるや相当にひどい。第二妃に至っては、予算を組んでもらってないのか、はたまた横領されているのか分からないが、実家以外の場所から一切の支援が断たれた状態となっている。


 カロリーナ妃が王家に恨みを持つのもよくわかるし、殺してやるとか言い出す気持ちもよく分かる。


 王様もどうせ放置するのなら、最初っから正妃一本に絞って側妃なんか娶るなよって思うね。


 第二王子のユレックは、王子としての教育すら子爵頼みとなっている。どうせ気にされる事もないのだから、家族揃って海外に逃亡してやろうか・・逃亡するなら祖父の一族も連れて行かなければならないだろう。どういう手段を取れば、この王宮から逃げ出すことが出来るのか。


そんな事ばかりをユレックが考えてると、

「ねえユレック、こんな国、滅ぼしちゃいましょうよ」

と、第三妃であるカロリーナが声をかけてきたのだった。

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