第3話  妹の悪巧み

 義理の姉の婚約者を奪い取り、家から追い出すことに成功したエヴァ・パスカ。彼女の母であるダグマーラは、学園在学中から父となるユゼフ・パスカの恋人だったという。


 本来であれば、学園を卒業と同時にユゼフと結婚する予定だったのだが、ユゼフの結婚相手は、他国への留学から帰ってきたばかりの、大魔法使いパヴェウの孫であるジャネタが一族の意思として選ばれることとなったのだ。


 先代当主は魔道具の開発で男爵位を叙爵するほどの優秀な人であり、アグエニスカの母と意気投合した末に、結婚するのにちょうど良い年頃の息子との結婚を決めてしまったのだった。


 相手は大魔法使いの孫娘であり、周りからは相当羨ましがられたとしても、好きでもない女性との結婚は、ユゼフにとって不服以外の何ものでもなかったのだろう。結婚後、ユゼフはダグマーラとの関係を復活させ、その後、ダグマーラはエヴァをお腹に宿す事となったのだった。


 エヴァが生まれた年は流行病が王都でも蔓延し、パスカ家の先代当主とアグニエスカの母を相次いで亡くす事となり、そこで身重のダグマーラが後妻としてパスカ家に入る事になったのだった。


 ダグマーラにとって、アグニエスカは憎い恋敵が産んだ娘であり、アグニエスカの母が留学から帰って来なければ、ユゼフと結婚していたのはダグマーラだったわけで、


「まあ!やっぱりあんな女の娘だっていうのだから、ろくな事はしないとは思ったけど!妻子ある上司と不倫?しかもそれを告発?恥ずかしいったらないじゃない!」


 キャーッと言いながらダグマーラが大騒ぎをすると、食卓についていたユゼフが眉を顰めながらエヴァに問いかける。


「エヴァや、その話は何処から聞いて来たんだい?」


「学園でもお友達だったクリスティナから聞いたのよ。王宮からお姉様の調査が入ったみたいで、それで職場に行く事になったクリスティナから話を聞いたのよ」


 と、エヴァが答えると、ユゼフは自分の頭を抱えて悔やむように言い出した。

「やっぱりお前たちの言う通りになどせずに、アグニエスカの籍はパスカ家に残しておけば良かった」


「はあ?お父様、何を言ってるの?お姉様をパスカ家から出すと言い出したのはそもそもお父様ではありませんか?」

「私から言い出すはずがないだろう?あれはスコリモフスキ家の血を引くんだぞ?」


 またスコリモフスキ家ですって!そんなに大魔法使いの血筋が大事だって言いたいのかしら?

 エヴァは呆れ果てた様子で大きく肩をすくめたのだった。


「ですが今はもう平民でしょう?」

「それじゃあ、なんでその平民の調査を王宮が行うのだ?お前とサイモン君の婚約を認めたのも、アグニエスカをこの家から出した事も、全てが間違いだったんだ」


 ユゼフは悲嘆にくれた様子でため息を吐き出すと、

「お前たち、くれぐれもスコリモフスキ家の人間を怒らせるような噂を撒いたりするなよ?」

 と言って食事室から出て行ってしまった。


「なあにあれ!信じられる?」

「お父様は頭がおかしくなっちゃったのかしら?」

「今更、スコリモフスキ家がなんだっていうのかしら?我が家と何の関わりもないじゃないの!」


「本当にそれよ!お母様!お姉様ももう居ないのだし、パスカ家について他人にとやかく言われる筋合いはございませんわ!」

「本当にそうよね!」


 ダグマーラは気を取り直すようにしてナプキンをテーブルの上に置くと、

「今度のお茶会での話題が出来て良かったですわ!」

 と言いながら、弾むように立ち上がる。 


 エヴァはそんな母を見送りながら、花開くような笑みを浮かべる。

 近々、お友達とのお茶会があるから、そこでの話題の一つとしよう。きっとみんな面白がって、楽しむのに違いないもの!

 でも、とりあえず、お友達の前に、婚約者であるサイモン様に報告をいたしましょう。


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