第7話 一段落 (改訂)

 東京某所、広い部屋にソファーだけが置かれている。ぱっと見病院の待合室のように見えるが、座っている者達はその場にそぐわない。


 ざっと30人、陸上自衛隊員達であった。彼らは緊張を顔に浮かべ無言で座っている。

 

「作戦開始30分前だ、全員配置に着け」


 そんな声が響き、素早く立ち上がると足早に待機室を後に別の部屋への向かう。「がんばれよ」、「お互いにな」と、軽く言葉を交わした彼ら。これから戦場に出る事になる。


 実戦である。


 10人単位で並び、それそれが指定された部屋へと入っていく。

 入った部屋の正面には巨大なモニター。そして、ゲームセンターで見かけるような乗り込み型の筐体が複数存在していた。


「配置につき次第起動、起動後その場にて待機」


 それぞれシートに座り起動スイッチを押す、全面パネルが光り景色が映りこむ、暗かった筐体の中が一気に明るくなる。


 起動確認の声が至る所から聞こえて来る。1人の隊員がそれぞれ筐体を周り、システムの最終確認を行っていた。


「第一部隊、配置につきました!システムの起動、接続も無事完了、オールグリーン!」


 最後の1人を確認すると、正面モニターの前に居る部隊長に大きく声を掛け、部隊長の元まで戻って来た。


「では、最終確認だよく聞け!今回の我々の活動は、試験活動でもある。初の試みで有るため何が起こるかわかん!モニター手前のには触れるなよ。どんな原理か理解できないかもしれぬが、その鏡は重要なものだ。触れるな!また、今回の攻撃対象はあくまで魔物であり魔獣である!が出てきた場合は速やかに報告せよ!以上だ!何か質問はあるか!?」


「「「「「「「「「「ありません!」」」」」」」」」」


「よろしい!では部隊長一言お願いします!」


 部隊長は姿勢を正し、隊員全員に向かい叱咤しったする。


「ではそのまま聞くように、本任務は異世界においての魔獣殲滅任務である。画面向こうは異世界だ。戦闘訓練で使うシュミレーションではない。こちとは違う世界ではあるが現実である。リアルなゲームでなど決して無い!我々が魔獣を打ちを漏らすことにより、人の命が失われる。心してかかれ!殲滅せよ!!」


「「「「「「「「「任務了解、これより殲滅します!!!」」」」」」」」


「作戦開始!」


 大画面が分割され、各隊員それぞれが見ている画面が映し出される。

 画面が動き出し、10分ほどで画面に巨大な生き物が映し出された。映像越しであってもと感じ取れるのだ。

 その様子を部隊長の横で見ていた、補佐官はその巨体を見て息をのむ。


「これが異世界…ですか」


 本当に、思わずといった感じではあったが、部隊長がそれに答えていた。


「そうだな、自然豊かで我々の世界となんら遜色はないな。ふむ、あれが魔獣か…ファンタジーだな」


画面に映る巨大な魔獣、そんな魔獣が砲弾で吹き飛んでいた。


「それにしても、すごい技術ですね」


「ふっ、これが技術では無いのだよ。加賀美特務の力の一つだそうだ。現代の戦闘では、人がわざわざ機体に乗り込む必要は無くなった。戦場の外から遠隔操作して戦争をするだけだ。本来なら異世界など通信が届くことは無いのだが、彼の力で繋いでいるらしい。どんな力なのか詳細は解らん」


 画面の向こうでは隊列を成す部隊が一斉に砲撃している。隅に移りこんだのは戦闘ヘリ。

 今回派遣された部隊は戦車20、戦闘ヘリ10、その戦車や戦闘ヘリですら渉が異世界に運んだ。


 今回の試験行動も渉の提案である。今後どのような出来事が起こるか解らない。そんな時、自衛隊も動けるよう働きかけたのである。


「一つ質問よろしいでしょうか?」


「何かね」


「今回の殲滅対象からが外された理由が気になりました」


 なるほど、確かに気になるかもしれない。そんな彼の質問に画面を見たまま部隊長が答える。


「彼の気遣いだよ」


「気遣いですか?」


「魔族と呼ばれる存在はかなり手強い、と彼は言っていたが、それでも我々で倒せない事は無いだろう。人道支援とはいえ、我々だって好きで命を奪う訳ではない。それが人の形をしていれば尚更だ。魔族…人殺しをを推奨したい訳では無い、故に彼が一手に引き受けた。それだけの事だよ」


「そうですか…」


 部隊長はその時の渉を思い出す。自分なら何の問題も無いと言った渉。彼の表情からはその心の内までは解らなかった。

 部隊長は複雑な心境を誤魔化す為、話を切り替える。


「それにしても、この画面だけ見ていると本当にゲームだよ、これでは命を奪うことがなんとも軽く見えてしまうな」


「神の力、ですか…末恐ろしいですね」


「神、か…。どうなんだろうな。一つだけ言えることが有るとすれば、今の日本には彼が絶対に必要だという事ぐらいだ。彼がこの先も我々の味方であることを祈るよ」





〇●〇●〇●〇●〇





 一方の異世界では、その破壊力を目の当たりにした国王や貴族、教会の者達や騎士兵士に至るまで呆然としている。


 戦闘開始前に渉は彼らにこう言った。


「邪魔になるので後方で待機しててください」


 そんな言葉に騎士達は大いに憤慨した。前線に出て戦うことが騎士の誇りだからだ。渉はニヤニヤとした表情を浮かべ、騎士達に面白そうにこう言った。


「そんなカビの生えたは、掃除して捨ててください」


 複数の騎士に追いかけ回されたのは言うまでもない。




 騎士達は今目に飛び込んで光景を見て呆然したままだ。後方待機と言われた意味が解る。あの場にいては巻き込まれて簡単に死んでしまう。

 

 轟音を立て進む鉄の塊、何故鉄の塊が動くのか?その筒から放たれている何かで魔物が吹き飛ぶ。


 空を浮かんでいるアレも意味が解らないでいた。何故空に浮かんでいる?アレから何かが放たれれば同じように魔物達が吹き飛んでいる。


「アレが何なのか理解できかねますな。解るのはその破壊力だけです」


 空を見上げそう独り言のように語り掛けてくる軍団長。


「欲しいかね?」


 そう問いかけた国王に、しばし考えたうえで軍団長は答える。


「いりません。アレは災いの元となるでしょう」


「我もそう感じている、あ奴もこの戦闘が終われば早々に撤収すると言っていた」


「攻め込まれることは無い。そう言い切れるのですか?」


「なんでも国の法律で決まっているそうだ。「専守防衛」と言っていたか、侵略は御法度とかなんとか、自国を護る戦いはしても侵略はしないという法律らしい。それと人命救助が兵士の役割とも言っておった」


「随分と酔狂な国と法律ですね…。その彼は今何処に?」


 そんな渉だが今この場には居なかった。ここで何かしらの指揮を執ると考えていた連合軍団長は、その事について国王に尋ねる。


「さてな、何処へ行ったのやら…。を正してくる、あ奴はそう言ってトんでいったぞ」


「あの戦場を駆け抜けているのですか?」


「いいや、まさしく空を飛んで行きおった」


 軍団長の間の抜けた顔はとても面白かったそうだ。




 


〇●〇●〇●〇●〇






「あぁーやっと解放されたー、疲れたー、体ダルイー」


 そんなことを言いながら、孝は後ろを振り向いた。

 振り向いた先に居たのは、一緒に召喚された面々。今日は召喚事件に対する事情聴取のため、県庁まで来ていた。


 県庁舎の一角を借り、異世界課職員達による集団事情聴取が行われたのだ。


「結構鍛えちゃったから辛いわね、本当にこの体のダルさ何とかならないかしら…」


「はは、そう言うなよ無事帰ってこれたんだ、良かったじゃないか」


 舞美が同じように愚痴っていると、衛が爽やかに答えている。


「もうほんとダメかと思ったけど、加賀美君のおかげかなぁ。あ、君じゃなくてかな。一応職員さんから加賀美く、さんの事情は聞いたけど、日本の神様ってすごいんだね」


「あぁ~、俺たちの高校5月か6月頃に集団召喚が発生するって話だったな。で、前もって学校に潜入だっけ?」


 八重と一の会話を聞いていたみんなが思い思い話始める


「あ~、最初は教師で来る予定だったんだっけ?」

「そうそう、ただ見た目がどう見ても教師じゃないから生徒になったって話よ」

「笑える、確かにあれじゃ二十歳はたち超えてますは無理っしょ」

「あのしゃべり方も、今どきの高校生が解らなかったからコレでいいだろうって感じでやってたみたいよ」

「いや、コレじゃ無い感しかなかったわ」

「教師じゃなくて良かったんじゃない?結構学校休んでたし、不良高校生?w」

「まあ、今考えると仕事でしょうね」

「神の予言?お告げ?まあ加賀美さんが居てくれて助かったな」

「召喚当日に学校休まなくて良かったわね」

「いやーどうなのよ、異世界で一緒に居たの最初だけでしょ」

「そうそう、ちょっと偵察行ってくるって言ったっきり放置されたじゃん」

「後は最後に美味しいところ持ってった」

「それなw」

「帰ってこれたことに関しては感謝してるけど、放置された期間は重罪ですわ」

「俺たちこうして帰ってきたから、もう高校には来ないのかな?」

「生徒のフリは必要ないから仕事に戻るっぽいよー」

「それじゃもう会えなのかね~」

「その語尾草だわw」

「仕事してるんだから高校生は無理っしょ」

「で、実際何歳か聞いたりした?」

「守秘義務らしい」

「マジか~」

「あ、でも最低でも40は超えてるはずよ」

「「「「「「「「「えっ!?」」」」」」」」」


 爆弾を放り込んだ沙織にみんな注目した。


「なんでそんなこと言えるんだ?」


 不思議そうに孝が沙織に問いかけると。


「これは、私のあくまで推測なんだけどいいかな?」


 そんな沙織の言葉に皆が頷く。


「じゃあ聞いてくれる?まず、異世界課誕生が2138年、今から15年前ね。この時点で15歳以上は確定でしょ。特殊能力者ありきで出来た課なんだから。で、私が気になっているのは加賀美さんの能力ね。どう考えてもこの世界のものではない。それなら神様が授けてくれたって言われそうだけど、それだけじゃない気がするのよ。そこで私が気になったのが”2133年”に起こった事件よ」


「2133年にそんな目立った事件あったっけ?」


 舞美が右手を口元に持っていき、考え込んでいる。みんなも自分が生まれた、もしくは生まれる前の出来事。解らないから教えて欲しいと言ってくる。


「2133年起こった事件……それは…………」


 わざとらしく言葉を溜めた沙織がみんなに言い放つ、衝撃のその事件とは!?


「『異世界帰還者まっぱで大地に立つ!』よ!!」


「あった…、あったわそんな事件!異世界召喚が社会問題になっていて、そんな中、都庁の真ん前に光を伴なって現れた変た…人物」


 沙織の台詞に納得がいったのか、舞美がぽんと手を打つ。


「そう、今でこそ廃れてしまった話だけど、当時はものすごい反響だったのよ。地面が光りだした瞬間から、何事かとおもって携帯で撮影してた人も沢山いたの。光が強かったせいで画像からは解りにくいけど、現場にいた人達の話では魔方陣だったそうよ。その魔方陣から突然現れた人物、それが異世界帰還者と言われているわ。投稿された動画は危険なが映っていたから、早急に対応されて削除されていったけど、モザ…う"う"ん、修正された動画も結構出回ってるのよ。今でも検索すれば出てくるんじゃないかしら」


「そうね、一時期随分盛り上がったってお母さんから聞いた事があるわ」


 沙織は自分の推理に興奮気味、両手を握り拳にし話しているが、聞いていたみんなの反応はいまいち。舞美だけが答えていた。


「そして、これが本題よ!この帰還者こそが加賀美さんじゃないかと私は睨んでいるの!!」


 沙織の発言、みんなもそう考えると辻褄があう、ような気がしてきた。


「で?なんで40越えなんよ」


 空気を読まない一が聞いてくる。だが沙織は興奮しながらこう言った。


「その動画、現れた人物がこう言ったのよ!『ふ、ふはははははは!20年の時を超え私は帰ってきた、日本に帰ってきたのだあぁぁぁぁぁあああああ!!!』ってね!でねでね、こう計算したのよ!15歳くらいが召喚されやすい、20年ぶりに帰ってきた、帰還から20年、合計は最低でも55歳よー!!!!」


 ビル街に木霊する「55歳よー」。推定年齢55歳の同級生にみんな唖然とするのである。





 

 



 

 










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