第6話 はい陛下、提案があります (改訂)
渉が「ちょっと行ってくる」と、分身体を残し隣国へ向かってから早十日、戦場への勇者派遣が決まり、生徒達は硬い表情をしている。
頼みの異世界課からはなんの音沙汰もなく、このままだと戦場に出向くことになるのだ。生徒達の心構えは当然出来ていなかった。
生徒達が戦場にむけて出発する当日、勇者達の国王への謁見が始まろうとしている。
謁見の間、並ぶように入室した生徒達は中を見て驚いていた。
それもその筈、周りを見渡せば、その場に豪華な服を着た貴族一人も居なかった。皆武器を携え鎧を纏い硬い表情をしている。
その雰囲気から、これは勇者だけの謁見ではないと感じ取る。
どう見ても祖国の命運、人族の未来を掛けた戦場に出向く戦士達であった。そんな貴族達を見た生徒達の緊張は、さらに高まっていく。
「国王様がお出でになられる、みな静粛に」
呑まれそうな雰囲気の中、宰相の言葉にその場の貴族全員が姿勢を正す。
戦闘訓練ばかりしていた生徒達は、当然謁見の作法は知らない。横目で貴族達の行動を伺いながら、見様見真似で生徒達勇者も姿勢を正し待機する。
横手からゆっくりと歩き中央へ向かう国王。だが目の前に現れた国王の装束をみて生徒達は目を見張る。
銀の鎧に長剣を腰に携えた、完全武装での登場。
その場に居た全貴族が、うやうやしく片膝をつき国王に礼を取る。驚きを隠せない生徒達であったが、周りの行動を習い生徒達もまた片膝をつき頭を下げた。
「皆、よく集まってくれた。面を上げよ」
国王の声に反応し、皆顔を上げる。言葉には出さなかったが貴族達皆が一様に驚きを隠せなかった。
何故か?
そこには国王の左右を固めるよう、勇ましい表情で王子二人並んでいた。
王家の男児がすべて完全武装し、そこに居たからである。
「ふっ、見て感じ取ったようだな、此度の戦、人族の存亡が懸かった総力戦である!我のみならず王子二人も参戦する、異論は認めぬ!!!」
国王の言葉である、皆歯を食いしばり何かに堪えていた。
そんな中、ただ一人だけ王の言葉を遮るものが居たのだ。
宰相である。
謁見の場、王の言葉を遮るなど、本来なら死罪でもおかしくない。それでも宰相は国王の前に飛び出し、膝まづくと声を挙げた。
「ならば! ならば何故、私をお連れ下さらない!!!」
宰相の顔は怒りと悲しみに満ちていた。
敬う主君より「残れ」との命を受けたが故、一人だけ貴族服を身に纏い、この場に参加していたのである。
「ふ……ふははははは、許せ、とは言わぬ。だがな、この戦に勝った後を考えよ。我らはおそらく死ぬであろう。…だが、必ず勝利だけはもぎ取って見せる!勝った後、国を民を守る者が必要なのだよ。王子二人は連れて行く。が、王女は残ってもらう。であれば王家の血は絶えぬ!!我が子、そして此れから生まれてくるであろう我が孫が、生き残った人々を守ってくれると信じている!そんな我が子・孫を、民達を、貴様には守ってもらうぞ!生き残れ!これは勅命である!!!!!」
宰相はそんな王を見つめ、流れ出そうになる涙を堪える。今にも崩れ落ちそうな身体に力をいれる。
なんと残酷なことか。王を、我が王を衛り盾となって死ぬ。そんな名誉すら与えられない。国王はそれを許してはくれない。生きて国を守れと言う。
宰相にそう告げた国王は貴族達に顔を向ける。
「貴様たちにも告げよう、いや。すべての兵士達に告げよ!我にその命をよこせ!守るべき民のため、その命をくれ!許せとは言わぬ!この国、この世界の未来のためにその命を懸けよ!」
「「「「「「うぉぉぉぉぉぉおおおお!!!国王陛下万歳!!!」」」」」」
国王の呼びかけに貴族たちが答える。国王のカリスマであろう、貴族達は皆燃えている。
だが、生徒達は?
当然、訳も分からずただ茫然としている。
当たり前である。いきなり召喚され、わずか十日と少しで戦場に出ろと言われた。国王は命を懸けろと言っている。
生徒全員が困惑してるが、ここまで盛り上げっていると声も挟みにくい。戦いたくない。死にたくない。そんな想いが駆け巡っているのだ。全身が恐怖で震えているのだ。だが、現状でどうすればいいのか手段が思いつかない。
生徒達の内心を見透かしたように、国王は生徒達の前へ歩み出す。生徒一人一人に視線を配ると、その頭を腰から深々と下げた。
「異世界の若人達よ、すまぬ。本当にすまぬ!我らの世界に身勝手に呼び、戦場に出ろと。命を懸けろと。許してほしい!この老いぼれの命でよければくれてやっていい。だが、我の命ですら戦場には必要なのだ!そして我の願いを聞いてくれ!逃げて欲しい!できるだけ戦場から離れた場所へ逃げてくれ!!皆、勇者の力を当てにしているだろう。だが、だがな!我には耐えられぬのだ!!」
本来であれば有り得ない国王の謝罪。
国王はずっと葛藤していた。『勇者召喚』、果たしてそれが正解なのか。
異世界からの勇者を初めて目にした時、年端も行かぬ若者だと感じた、己が世界の都合で呼び出した、本当にそれでいいのか?
そんな国王の決断は『戦場から逃げろ』である。元の世界へと戻せない今、それが最適であると。
生徒達は黙って国王を見つめる。貴族達にもその光景は衝撃的であった。
沈黙が痛い。
「あの~、そろそろ話してもいいですかね~」
語尾を延ばす間の抜けた話し方、雰囲気ぶち壊しである。
渉、君は帰りなさい。
〇●〇●〇●〇●〇
「あの~、そろそろ話してもいいですかね~」
国王の決意、感動的な雰囲気、衝撃的な場面。そんな知らんわとばかりに立ち上がり挙手する渉。
何時の間に分身体と入れ替わっていたのか、そんな台詞を渉がのたまう。
「きっっっ!!!貴様!!!!! いったいどういうつもりだ!!!!」
宰相怒りの発狂も当然である。
「あ~すみません~では少し正しますので、少々お待ちください」
そう言った渉の姿が一瞬ブレると、そこには自衛隊服を身に纏い、敬礼し姿勢を正した渉が居た。
「失礼しました!自分は、日本国直属、異世界課所属、特殊任務隊長 加賀美渉であります。主な任務は召喚された者たちの安全確保、並びに帰還補助等、その他様々な任務活動をしております。異世界においては独自判断を戴いてます。日本国の全権委任代理者でもあります。我が国の皇族、政府より依頼された特殊な使者だと思っていただければ結構です」
変な語尾どこ行った?
呆気にとられる生徒達とこの世界の面々。
「尚、此度の集団召喚事件について日本国よりの要求・意見書を預かっております。お話してもよろしいでしょうか」
「…続けたまえ」
少し白けた様子を醸し出し、国王がそう述べる。
「ありがとうございます!まず、生徒についてですが、要求は一つ。速やかに本国への帰還を要請。戦争などもっての他。と事です」
「それは、ある意味助かる。できればすぐにでも元の世界へと戻してやってくれ」
「ありがとうございます。承りました。帰還については自分が行いますゆえ、皆さまが何かする事はございません。以上が要求になります。続いて意見ですがよろしいでしょうか?」
国王がうなずくのを確認し発言する。
「続いて意見になります。貴国並びにそちらの世界の調査を行いました。結果、この世界が危機的状況てある事を確認。日本国としては人道及び人心を重んじる為、この世界に対し救援する用意があり、戦力が必要であれば出動する準備があります。尚、慈善事業ではない為、人件費や消耗品代金、損害に対しては賠償、この場合支払いはこの世界の通貨ではなく金を要求します。全生徒の帰還確認後、速やかに戦場にて敵戦力を殲滅することを約束いたします。現状時間が無い為、今この場で回答を求めます、返答はいかに?」
沈黙である。
ニヤニヤと何とも形容しがたい表情に変わる渉。表情が変わった事で国王や周りの貴族が訝しむ。
「皆様は、当然我が国の戦力が解らないでしょう。ですが、間も無くお分かりいただけるかと、結果が参ります」
全員頭に?が浮かぶ、すると謁見の間の扉が激しく叩かれる。扉を開け確認してみれば、息を切らした伝令係が飛び込んでくる。
慌てるように入ってきた伝令係を先ほどの表情のまま見つめる渉。
「報告!可及ゆえ無礼をお許しください」
「何があった?」
「はっ、かの国にて発生した魔族のほとんどが殲滅された、とのことです。これにより戦線は人族に大きく傾くでしょう。生き残った魔族と、狂暴化した魔物さえなんとか出来れば、奪われた地域を多少は取り戻せる、との連合軍団長の見解です。ですが、すでにこちらの戦力も消耗が激しい。少数とはいえ生き残っている魔族は強力、魔物も未だ数が多い為、同盟国と教会の援軍が到着しても、取り戻せる人族の領域は半分に満たないのではないか、との事です」
「………」
国王並びに貴族たち、言葉を失う。渉が言っていた力とは、おそらくあの強力な魔族達を殲滅した力であろう。
少しの黙考の後、渉に対し国王はこう述べた。
「日本国への救援を依頼する」
にっこり微笑む渉。
「お任せください、我が国の自衛隊。怪獣退治が得意なのです」
それ昭和時代の怪獣映画…。
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