第5話 訓練と調査と偵察と (改訂)

「いやマジきついんですけど」


 先日、何が起こるか解らない、どんなと事態になっても対応できるように。と、皆で訓練参加を決めていた。

 受けると決め参加はしたものの、訓練内容の厳しさから息を切らしながらそう嘆いているのは、剣士や格闘家などの肉体派生徒達。


 より効率的に身体能力を上げる為、自身の能力を発動しながらの訓練は、運動部の連中ですら根を上げていた。

 部活の筋トレの方がマシ、という言葉もちらほら聞こえて来る。


「いや、真面目にやりすぎると元の世界戻った時、ギャップがきついって習ったんだが」


 肉体派の面々に対し、そう答える衛だが訓練は非常に真面目に行っていた。その理由の一つが舞美である。


 その訓練姿勢を見ていると、彼女の悩みが見て取れる。見てるこっちが苦しくなる。痛々しいのだ。

 

 それも当然である。


 調査結果次第では、彼女はこの世界に一人残ってでも人々を救いたい気持ちがあった。それが勇者であり、能力を15得た者の務めであるとも考えているだ。

 真面目の頭に『ど』が付く舞美は、使命を果たそうとしてしまう。一人で思い詰めてしまうのだ。


 そんな彼女を見つめながら、衛もまた舞美の考えを優先すると決めている。彼女が残るなら、自分も残るという決断だ。

 理由は簡単。惚れた女性をこの世界で一人にさせたく無いからという、不純ではあるが真っ直ぐな気持ちからである。男子高校生は単純で出来ている。


「ところで、アレって本当にばれてないのかな……」


 肉体派でも魔法派でもない一、詐欺などどうやって鍛えればいいのわからない。偽装の時は何となくであったが、能力向上に成功している。だが、本格的に鍛えるとなるとどうすればいいのか判っていなかった。

 いざという時に動けるよう、仕方無く肉体派に混ざって訓練していた一だが、一息つきながらソレを指差した。


 差した親指の先では渉が黙々と剣を振っていた。


 そう黙々と、無言で、寡黙に、汗すら流さず、一心不乱に剣を振り続けている。指導教官の騎士は、渉の素振りを確認し、うんうんと納得する様にうなずいていた。


「イインジャナイカナ、マジメニクンレンダイジ」


 一の問いに、八重が棒読みで空返事、もちろん明後日の方向を見ながらである。


「そうかぁ?まあオレみたいに訓練方法が解らないよりいいのかな…詐欺師どうすりゃいいんだろう」


 他の生徒達が憐れむように、一に目を向ける。

 召喚当初、その能力を如何なく発揮して注目を集めた一だが、今では違う意味で注目を浴びている。


(((((いや、詐欺師なんだから話術でしょ!偽装は魔術でしょ!!)))))


 肉体派の面々はそれを理解していても口に出さなかった、それは、肉体派訓練がきついという理由、手を抜き気味ではあっても体力づくりのランニング、振った事もない剣を持っての素振り、すべて能力の発動をしながらであった。


 つらいのである。仲間が欲しいのである。(異世界での)旅は道連れである。






〇●〇●〇●〇●〇






(こちら渉、こちら渉、必須品である紙の箱が無いため、現在樽の中より監視中、酒臭いであります~)


 楽しそうである。いや本当に。


 2000年代からこの時代にまで続く人気ゲームを真似、連絡手段も無いのにそんな事を呟く渉。(※ちなみにこのゲームの主人公は3代目である)


 情報収集といえば酒場。渉の安直な考えではあるが、間違いでもない。城内に酒場が無い事を除けばである。


 そこで思いついたのが騎士宿舎の食堂。

 夜勤明けの騎士が酒を飲み、口が軽くなることを祈りつつ二日目、そろそろ盗み聞きにも飽きてきており、これ間違ってるのではと感じ始めた頃、騎士たちの会話で気になる台詞ワードが出てきた。


「なあ、勇者様たちって本当に協力してくれるのかな?」

「協力してくれると信じてる」

「そっかー、うーん……」

「なんだ、どうかしたのか?」

「いや、俺たちは国の為、人族の未来の為だから当然戦う、戦うんだがな…、勇者様達を見ただろう?」

「もちろん!二日という短期間で素晴らしく能力が向上しておられた!」

「だがな、女性を戦場に連れ出すのはどうかと思ってしまうのだよ」

「それは…それは仕方ない事だろう!かの聖女様も魔物の反乱時には戦場にあった!戦う力があるのだから勇者様だって戦ってくれる!」

「でもなー、うーん、勇者15の舞美様なんだが」

「舞美様がどうかしたのか?」

「その、なんだ…」

「何だ?歯切れが悪いな」

「まあ何だ、とても可愛らしいと思はないか?」

「…えっ?」

「可愛らしいだけでなく、凛とした美しさもある、正直戦場なぞ行かず俺と結婚して欲しい」

「……何言ってんだお前」


 渉は感じ取った!撤収である。はい撤収撤収。






〇●〇●〇●〇●〇






「今日で三日目、勇者達はどんな様子か?」


「はっ!陛下、順調に訓練を重ねており、能力向上も著しいと報告を受けております」


「そうか、それは良い報告だな…」


 国王が執務室にて書類に目を通しながら、宰相に勇者の現状を確認していた。


「かの国状況はどうなっている?」


「現状、負け戦ばかりです。このままですと連合軍壊滅の報告を聞く事になりましょう」


「では、勇者達を戦場に送るにはどの程度の日数が必要か?」


「そうですね、流石勇者というべきなのか、この世界の住人より遥かに成長が早く感じられます。後十日もあれば戦場にて活躍できるかと」


「…そんなに早くか?」


「はい、すでに敵の雑兵であれば対応可能でしょう。また、実戦を経験する事でさらなる能力向上も同時に図れるかと」


「で、あれば良いが…こういっては何だが、もう少し時間を掛けても良いと我は思うぞ」


「時間を掛ける余裕がございません。現状では早急な勇者の実戦投入が必要なのです。それと話は変わりますが教皇猊下からの言付けです」


「何だ?」


「教皇猊下より、教会側は次の戦闘にて、聖騎士団すべてを前線へ派遣をするとの言付けを賜っております。魔に落ちた友柄の救済、民衆の盾になれるのであればこの上ない。とのことです。また、今回の教会の動きにより各同盟国も勢いが増しており、次の戦闘では全軍を以て奴らを迎え撃つ所存です」


「そうか教会側も前線に出る、か…。今までは民衆を護るため後方に待機してくれた。そんな彼らも前線に出るのであれば、余程危機的な状況なのだろう。戦線を少しでも上げたい、そんなところか。…では、全面戦争も間近、ということか」


「おっしゃるとおりかと」


「…そうか、下がってよい」


 国王は執務室の窓から遠くを見つめていた。人族すべての力を集結した全面戦争の時は近い。それによりどれほど多くの犠牲を払うのか…だが勝たねばならない。


「異世界からの若者達まで命を掛けねばならぬ…か、なんと業の深い」


 国王の表情を伺い知ることは出来なかった。



〇●〇●〇●〇●〇



(いやいやこれってどうなんだろうね~、てか、どっちなんだろうね~)


 渉は訓練場目指している、を駆使しながら考える。


(話の内容的には裏がなさそうなんだよね~、みんなへの報告どうしようかな~あぁ、特に舞美さん~。なんて伝えればいいのかな~でもな~一方面からの情報は不確かでしかないからな~弱ったな~だれか相談できる人いないかな~)


 大混乱である。


(舞美さんの性格上絶対残るって言いそうだよね~、いやほんと~~~~に困ったな~……、う~ん仕方ない、仕方ないか~、う~ん取り合えず孝と衛君にはそのまま報告するとして、今後の僕の対応だよね~。あ~なんだか面倒になってきたぞ~でも命懸かってるからな~やっぱりのかな~)


 渉はある程度考えをまとめ、何かを決心した頃訓練場に辿り着く。

 入口で周りを見渡し自分の分身と孝・衛の位置を確認すると、指導官に見つからないように分身に接近、入れ替わり即座に孝に声を掛ける。


「いや~お疲れ~、戻ったよ~」


「おう、どうだった?」


「それがさ~、あ、衛君にも聞いて欲しいから、休憩する振りして移動しようか」


 二人は会話をしながら衛と合流、渉はつい先ほどの聞いた内容について話す。衛の表情は硬く、孝も真剣に悩んでいる様子だ。


「渉の話を聞く限りでは本当にピンチっぽいが、衛はどう感じた?」


「危機的状況、と言い切れそうではある。僕たちが居ない状況での会話だから信憑性も高い。僕達勇者への対応も裏がないように感じる。だが加賀美の言うように一方向の情報だけでは決められない。簡単に命は懸けれない」


「だよね~やっぱ相手が確認出来ないと~戦うにしても踏ん切りがつかないかな~、それに~今の話だけすると舞美さんがね~どう出るかだよね~」


「「あぁー…」」


 所詮は高校生、命の懸かった決断はできない。未だ異世界課からの接触もない。八方ふさがりであった。


「でさ~、モノは相談なんだけど~」


「何だ?」


「ちょいと戦場と~かの国って場所まで様子見て来ていいかな~?自分の目で確認したいな~なんて考えてるんだよね~」


「「はぁ!?」」


 渉の台詞に二人は絶句した。






 渉、とんでも発言。行くなら生きて帰ってこいよ~。あ、死んでも情報だけは持ち帰れ。








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