第4話 行動方針 (改訂)
「救援って、なんか特殊能力持った人が来るんだっけ?」
孝が考え込む様子で、誰とはなく問いかける。
「そそ、なんか異界渡りとかって能力らしいけど、現状異世界へ移動できる人物が一人しか居ないみたいなの。今、どれくらいの召喚事件が発生してるかわからないけど、私たちが召喚された事実確認や、どこへ召喚されたのかの調査。異世界課の人が迎えに来る平均時間はだいたい一週間前後って話よ」
「あくまで平均だからな…実際どうなるかは予測できないな。事件が重なっていないことを祈ろう。それじゃ話を進めていくな。まず召喚後に宰相が話してくれた明日からの訓練内容等について考えておこう。議長というつもりはないが、現在のクラスリーダーである僕が司会をさせてもうよ」
隣で話を聞いていた舞美が答え、衛がそう言うと全員がうなずく。
「ありがとう。まず、明日の朝食後、昼食まではこの世界の簡単な説明、文化や通貨文字などいろいろだが、戦力を期待されているため本当にさわりだけみたいだ。重要なのは、その際説明される今後の僕たちの行動になる。戦闘訓練や魔法訓練などの能力訓練が明日の昼食以降早速開始される。それぞれの適正に合わせた訓練が実施されるとのことだ。でだ、ここで確認しておかなければならない『重要事項』がある」
重要事項、その言葉を聞いた誰かから中学時代に習ったアレか、などと呟きが聞こえたきたが、話が逸れても困るので衛は気にせず話を進める。
「まず、本当にこの世界は僕たちを必要としているか、だな。言葉通りの意味になるがこの世界が危機的状況であり、僕たちが戦わなければ滅んでしまうのか、それともそんな危機などなく、戦争・征服など国としての欲望のために召喚したのか。そして、本当にこの世界が危機的状況だとしても本当に日本へ帰りたいのか。これはある意味救いを求めてきた存在を無視し、見捨てることになるからかなり心が痛むだろう。逆に騙されたと判明した後でも、日本へ帰るくらいなら国と交渉しこの世界で生きていくのか。交渉等が決裂したとしても、この城から逃げてでも世界で生きていきたいか。この世界に残ると言うのであれば止めない、ただし今後すべて自己責任になる。要は日本へ帰る意思が有るかどうかだ。この二点について、これは非常に重要な事だから真剣に考え答えて欲しい」
一気に話をした衛。大きく息をして一呼吸置くと、皆の様子を伺う。
去年まで教わっていた授業内を思い出しているが、高校に入り授業課程より外れており、尚且つ自分が召喚対象何なるとは考えていなかった。周りに意見を求める様子が殆どだ。
「帰る一択かな、ネットも携帯も無い世界は無理だよな」
「娯楽なさそうだし無理、戻りたいわね」
「帰らない選択なんてあるの?」
「あぁ、家庭の事情とかイジメとか、いろいろあるみたい」
「なるほどね、日本で良いこと無いなら新天地でって感じか」
「うーん、私はやり直すとしても日本がいいかな、こっちじゃ何にも出来そうに無いし」
「んだね、解らない事だらけで一から勉強するのは嫌よね~」
生徒全員が各々意見を交わしていく、それを衛は口出しせず、しばらく黙って見守っている。
ざっと話を聞いている限りでは「今回は未帰還者は発生しないかな」などと考えていた。が、誰かの何気ない一言で状況が変わる。
「でも、本当に危機が迫っていて、救いが必要で、どうしようも無い状況だとしたら、みんなは見捨てられるの?」
「んな事言われても…じゃあ戦えって言われて、はいわかりました戦って来ます。なんて無理でしょ」
「そうだね、戦闘とか戦争とか怖いわ、命を奪ったりするんでしょ?」
「でも、戦う力はあるんだよね?男子はヒーローとかなったりしたくないの?」
「昔のオレTueeeeっだっけ?そんなのアニメや小説の世界だけだな、娯楽としてはありだけど、実際自分が出来るかと聞かれれば答えはNOだな」
簡単に話がまとまると思っていた日本への帰還。
道徳観念が強い日本人としては見捨てるという選択を採るのは難儀なようだ。これが騙されていたのならばあっさり見捨てられるんだが…。
話が進まなくなり言い合いが続く中、舞美が声を挙げる。
「ストップ!これじゃ埒が明かないわ。帰還についてはまた今度話そうよ、この国が、世界がどうなっているか確認してからでも遅くないでしょ?まず自分の目で確認しよう!一週間程度しか時間はないけど一週間でこの世界に愛着が出る人もいるかもだし、何なら私なんて勇者15なのよ!帰っていいですよ、はいわかりました。なんて簡単に人の命を見捨てられないわよ!!」
普段、周りに頼られている舞美としては、本当に頼られた場合無視して見捨てる選択は取れないだろう。だから心の中では悪い国で在って欲しいのだ。
そのまま黙り込んだ舞美から、みんなバツが悪そうに視線を逸らす。
「そうだね~、気分良く日本には帰りたいね~。うん、その調査僕がやろうかな~」
「え?お前の適正”運び屋”じゃないっけ?」
そう切り出した渉に対し、孝が問いかける。歩きながら軽く聞いてはいたのだが、詳しい内容を知らなかった。そんな孝にドヤ顔で答えて来る渉。
「うん、そうだよ~ただし万能の運び屋かな~聞いて驚け~能力は12だ~!」
「いや、運び屋の能力でどうやっていろいろ調査するんだよ?」
ジト目で孝が聞き返してくれば、待ってましたとばかりに渉が能力の説明をしてくる。
「疑問はごもっとも~、でもね用は使い方次第ってやつですよ~。まず使えそうな能力を話すから聞いてね~」
そう言いながら、使えそうな能力を説明していく渉。その能力内容はこうであった。
一つ目が隠密、ご存じ見つからないようになる能力。この能力だけで気配も魔力も臭いすら消せる。
二つ目は気配察知、周りの人や獣の気配が感じ取れる能力。
三つ目、魔力感知はそのままの意味。
四つ目、身体強化は危険な相手から逃げる為や、抵抗する為に必要なのだろう。体力も強化されるので、長距離移動も可能。
五つ目、アイテムボックスはみんなが知っている便利な収納。
「んでね、これがすごいんだよ~!六つ目、ドッペル人形君~お勧めの目玉商品~!なんとなんと作った人形に触れることでそっくりな人物が出来上がり~。遠隔操作も可能なんだよ~、これで僕が居なくても安心安全です~効果時間は魔力が続く限りだけど~、消費魔力はかなり低いみたいです~」
その話し方と態度に一瞬イラつきを覚えた孝だが、聞いてみれば成程と納得のいく能力。特に最後のドッペル君は自分の不在を誤魔化せる。
訓練中も、恐らく監視か何かは着くはず。そう考えて孝は渉に返事をする。
「運び屋なのになかなか凄いことになってるな、なんだか八重の適正隠密より使えそうな気がしているんだが…」
「そうね、私より調査向きってどうなのよ?」
飽きれる孝と、比較対象にされ運び屋の能力に納得いかない八重。渉に呆れた顔を見せる。
「そりゃ、運び屋だからね~何かを運ぶ時必要な能力なんじゃないの~?手荷物は邪魔になるし~、危険は避けたいし~運ぶ・逃げるは体力や身体能力が必要だし~、逃げ切れそうもないなら身替りを用意するってことだね~」
「まだ他にも能力あるんだろ…チート配達員やん」
「う~ん、でもね~能力表示が無かったから調査に自信が無いことも有るんだよね~。聴覚強化とか~危機感知とかね~。聴覚強化出来ないと盗み聞きは出来ないかもだし~まあ、身体強化能力上げることで代用可能かな~、後は危機感知は気配と魔力感知で応用するってとこかな~」
孝のチート発言に渉は笑いながら、それでも調査時に不足するだろう能力と、不安を付け加えた。
「そこは適正隠密が上なのかな?聴覚強化と視覚強化、暗視なんかもあるわね。ドッペル君に似た能力で空蝉って忍術があるんだけど、これは自分の周りに何体か分身を出すみたい。触れると消えてしまうから普段は使えないかな、能力が多いと便利だけど、やっぱり使い処が肝心よね」
「おおぅ、流石隠密~、ところで触覚強化とかないの~?エッチな意味で感d」
語尾をのばすどころかすべて言い終わる前に、豪快に振りかぶった右をグーで渉の頬に叩き込む八重、その顔は真っ赤であり、殴られるのは当然の結果である。
思春期女子舐めんな。
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