第3話 で、どうする? (改訂)

 国王陛下のありがたーいお言葉の後、立食会はつつがなく行われた。


 王と王妃は即退室していき、残った王子と王女を交えての立食会。

 流石王室というべきか、とても見目麗しい王子王女達がニコリとしながら話し掛けてくれば、所詮庶民の一団である生徒達がうまく話せるわけがなく、遠巻きに見ているだけである。


 そうなると会話の中心は衛と勇者15マミになってくる。


 どう見てもクラスの中心人物と、計り知れない力を持つ勇者15マミを手懐k…と懇意を持とうとしている。

 衛と舞美は5人の王子王女と、その場に居合わせた貴族すべてを相手に話をしている。


 そんな2人のおかげで、他の生徒達は特に話掛けられる事も無く、おいしく食事を摂る事だ出来ていた。




 王族や貴族との立食会のも終盤、そろそろ終わりの雰囲気が感じられる頃、宰相が衛に声を掛けてきた。


「どうですかな、我が国の料理は」


「はい、大変おいしいですね」


「それは良かった」


にこりと微笑む宰相が、立食会前に衛が騎士に問い合わせた内容について答えた。


「先ほど騎士から伺った。皆で相談したい故、場所を取れないかとのことだが、

食後この場をそのままお使い下さい。あまり私たちに聞かれたくないこともあるでしょう。騎士やメイドも含め、退室させ通路に待機させておきますゆえ、思う存分話し合ってください」


「ご配慮、ありがとうございます」


「いいえ、私たちが身勝手に呼んだのは事実、出来ればご納得いただいた上で協力していただきたいのです」


「現状戻れないと理解しています。皆の意志と意見をまとめ、全員で協力出来るよう、私からも話し掛けてみます」


「そうですか、それは有難い。よろしくお願いします」


 そう言い残し、宰相はその場を離れていった。


 王子の話では、今回の召喚は突然決まったとの事だ。


 自国の貴族達のほとんどが、今回の召喚について知らないらしい。それでも失礼が無いよう王城に努める貴族を中心に、この歓迎会は行われている言っていた。

 時期を見て他の貴族達を王城に招き、勇者の皆さまを紹介したい。王子達はそんな事も言っていた。


 衛は「面倒臭い」と口に出しそうになるが、それも失礼かと思いながらこの後のことを考えていた。






〇●〇●〇●〇●〇






 食後、部屋から生徒以外が退室していく。宰相の話通り気を遣ってくれたのだろう。現在この広間には生徒達以外誰も居ない。


 生徒達は先ほどの食事の話や、王子や王女の話、貴族たちの行動など、思い思いの会話をしている。


 パンパンと手を叩く音が響く。


 皆会話を中断し、音が鳴った方向へと向く。そこには衛が居り、みんなを見つめている。注目が集まったことで衛が会話を進め始める。


「さて、みんなどんなかな?」


衛の第一声はコレであった。


「あ~ちょっと待って、の最終確認するから。八重ちゃんどう?」


「うん、問題なさそう。斎藤君を中心に半径5mでいいんだよね?」


「そそ、範囲外は詐欺師の能力で偽装会話が流れるはずだから、盗聴とか気にせず話せるっしょ。全く会話が聞こえないって怪しまれるより効果的っしょ?人数が多いから少し狭くなるんだけど、これでも能力を把握してからこっち、食事中も効果範囲を広げるためにがんばったんだ、狭いのは勘弁してくれってな。この能力を生かせば思う存分話ができるしょ」


 八重の返事を聞きながら、なんとも軽薄な口調で返事をする。自分の能力を早速活かしている生徒。スポーツ刈、マッチョの帰宅部である斎藤一さいとう はじめ。授かった能力は詐欺師8である。見た目真面目なスポーツマンだが、趣味は筋トレとアニメ鑑賞、本当に詐欺である。


 どうやらうまく能力が発現しているらしい。どんな違いが現れるのか、真面目な話を衛にお願いし、範囲の中と外に跨るように八重が立ち、聞こえた内容の相違を2人は検証している。

 器用な事をしている八重だが、彼女の能力の一つだ。


 食事中、周りに気づかれないよう友人に相談していた一。

 防音結界で聞こえなくする事も考えられたが、自分たちの行動を疑われるよりは、一の提案した偽装の方が効果的であるのでは?そんな意見が多数であった。


 

 検証確認後、会話続行の合図が2人から出された。


「もういいの?あ、そうだ須藤さんさっきはありがとね~おかげで安心して食事取れたわ~」


 語尾の長い渉が、沙織に対してお礼を言ってくる。


「いえいえ~、どうしたしまして~なんてね」


 渉の話し方を真似しながら沙織が答えてきた。

 そんな二人を見て、みんなが笑っている。笑っているんだが…なぜこの状況で笑っていられるのだろう。

 衛の対応もそうであった。実に落ち着いていた。一や八重も自分の能力を生かし行動している。


 召喚当初から生徒全員が落ち着いている。


 勇者と呼ばれ、浮かれる様子が他の生徒達からも感じられない。

 泣き叫び暴れまわる生徒も居なければ、適性や能力をひけらかす生徒も居なかった。




 この状況なのに何故なのか?




 召喚された生徒達、県下で有数な進学校生徒ではある。

 進学校だから、頭が良いから、突然の異世界召喚でも問題なく対応できる。

 



 何も知らない若者では、そんな事はできない。

 



 生徒達全員が宰相の台詞からある程度裏を読み、さまざまな状況を考えて行動を始める?

 



 現実的ではない(いや、無理でしょそれ)。




 だが、今目の前にいる生徒達は当然のように召喚時点から動き出した。

 それは現代の日本人にとっては当たり前の考え、この状況にどう対処対応するか、知っていたからである。




●〇●〇●〇




 、現代日本におけるの教育課程で『異世界科』は必須教科である。どうしてこんな状況になったのか、それは



 『日本人が狙われたようにやたら召喚される』



 という事実からである。


 それは高齢化社会の日本にとって重大な事件だ。

 若者の召喚や、集団召喚は拉致以外の何者でもない。しかもそれが十代半ばを中心に攫われいてる現状は、この時代の日本において深刻な問題となっているのだ。




 召喚され大国日本である。




 召喚した側は、召喚された者の意見を尊重し日本に帰してくれる?そんなことは無い。

 召喚先で問題が解決すれば日本へ帰してくれるのか?それも無い。


 一度攫われたが最後戻ってこない現状に気が付いたのは、日本国のやんごとなき人物に日本国の神からお告げがあったからである。




「そんなバカな事があってたまるか!」


 とは当時の総理大臣の言葉であり、その後、毎夜枕元に怒りをあらわにする神が現れ、毎日のように小さな不幸に見舞われる。


 国会にてその旨発言するも、


「総理…辞職なさってはいかがでしょうか?」


などと言われる始末。それが普通の反応である。


 ところが、衆参両議院すべての政治家に同じことが起きる。それ処か県議会・市議会議員にまで同じ事が起こる。

 そんな事がありえるのか?神の力で可能なのか?そんな議論まで出てきたが、一人の政治家の発言で黙り込むこととなる。


「忘れてませんか?我が国には八百万やおろずの神がいるんです。対応可能ではないでしょうか?……」


 手のひらドリルである。慌てて対応しようとする議員達だが、過去に例が無い、どうやって召喚されているのかも理解できない。想像すらできない事に対応方法など思いつかないのだ。さっぱり解らないのである。


 いや、それはもうてんやわんやの大騒ぎである。




 簡単に時系列で説明するとこうなる。


 2015年代から行方不明者が増えてはいた。(家出と判断される)


 2072年には、多くの若者が行くへ不明となり、ちょっとこれどうなってるの?と社会問題になる。(他国の拉致を疑う)


 2101年、「ちょっと攫われすぎじゃないかしら」と、やんごとなき人物にお告げが下る。(政府は信用しなかった。神、枕元に立つ!)


 2108年、法案確立後も対応に悩んでいた政府に行幸。研究・検証の結果、次元の歪を観測できるようになる。(政府より研究者達表彰される)


 2130年、一向に解決されない召喚、切れた神より再びお告げが下る。(内閣総辞職)


 2133年、SNSにて異世界帰還者を発見。(まっぱで路上に突然現れた人物を警察にて確保)


 2133年から2134年に掛け、根掘り葉掘りと事情聴取を重ね『異世界対応マニュアル』を作成。(その後、重要参考人消える)


 2137年、召喚対象が15歳から18歳が多いことが判明、教育課程に含めるか政府が悩む。攫われてからどうやっても対応できない現状でどうすればいいのか…。(政府、消えた参考人に代わり小説家や漫画家に相談する)


 同年、神の力にて特殊な人材が誕生、派遣される。(政府大喜び)


 2138年、日本政府直属機関 ”異世界課” を立ち上げる。(政府、形から入る)


 同年中学1年生よりの3年間、異世界について履修することを定め、召喚された場合、どのように対応すべきかを学ぶ ”異世界科” を必須教科とする。(議員達政治家の小さな不幸無くなる)



 ※なお、教科書を作る際参考にしたのは、異世界よりの帰還者の証言及び、過去に流行した異世界召喚および転移転生物語。そして小説家や漫画家の意見であった。

 (研究者談)



 

●〇●〇●〇




 そして、今、ここに召喚されし者たちがいる。教育の成果が生んだ者達だ。


「いや~マジ召喚あるんだって感じだわ~」


「それなw」


「いや草はやすなし~w」


渉と孝がにこやかに会話している。


「では、これからどうするか、どうすべきか話し合って行こう。授業や訓練は受けていたが、今回は実践だ。何処から手を付けるべきか、正直一人では決められない」


衛が困ったように皆に声を掛ける。すると、


「あ、その前に、青木君対応お疲れさま。なんだか全部押し付けたみたいで申し訳なくなってたわ」


「そうそう、いくら教科書や訓練マニュアルに『集団召喚時の対応は、なるべく代表を設け行う』なんて項目があったとしても、それってどうなのかなぁとは思っていたんよね」


女子生徒2二人がそう声を掛けると、


「いや、みんな良くあの場では悲鳴を上げたり、泣き叫んだり、反論したりしないでくれた。感謝するよ」


 と、衛が微笑みながら答えると、皆が頷きを返した。

 知識や訓練とは違うのだ。今回の行動はそれぞれの力だと、衛は感じている。そんな行動をしてくれた1人に礼を言う。


「後、中山さん。さりげなく食事の確認を須藤さんにしてくれたのは、非常に助かったよ。改めて礼を言うよ」


「依織ちゃんが衛生士で異物看破持っているって聞いてたからねぇ、教科書にも気をつけろって書いてあったし、私あれ読んだ時結構ショックだったのよね」


「だよね、なにか怪しい薬混ぜられていたら、なんて考えるとゾっとするよね。ご飯くらい美味しく食べたいし、いい能力貰ったわ」


 そんな2人の遣り取り共感したみんなが騒ぎ出す、食事の話題でそのまま脱線しそうになったので、本題に戻す為、衛が真剣な顔つきになりこう言ってくる。




「決めることは沢山ある。異世界課よりのまでの行動方針を相談しようか」






 

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