第45話 権力志向のゲスイ奴ら
佐伯君は上機嫌で『国づくり』の話を始めた。
俺たちにも加わって欲しいと言う。
「ミッツさんが副王で、リクさん、マリンさん、柴山さんは、幹部待遇にしますよ。もちろん、他のメンバーも歓迎します!」
「……グループのメンバーに相談してみるよ」
俺は気のない返事を佐伯君に投げた。
佐伯君の表情がみるみる変化する。
機嫌の悪い声が返ってきた。
「メンバーに相談なんかしないで、ミッツさんが決めれば良いじゃないですか!」
「ウチは合議制だ。俺一人で勝手に決めるわけにはいかないよ」
俺が一人で突っ走ることはある。
でも、基本は合議制……。
リク、マリンさん、柴山さんに相談して、行動を決めている。
拠点に残っていたグループメンバーも同じように相談して行動を決めていたそうだ。
俺のグループは二十代、三十代の社会人が中心で、二百名を超える。
誰かの号令で『右向け右!』ってわけにはいかない。
「合議制……。それって意思決定が遅くなりませんか? 僕のグループは、リーダーである僕に判断を一任されていますよ」
「トップダウンの方が良い場合もあると思う。だけど、俺たちのグループでトップダウンをやると問題が生じる」
「問題とは?」
「俺がバカなことだ」
俺は適当に理由をでっち上げた。
佐伯君は神妙な面持ちでうなずく。
「なるほど。納得しました」
いや、納得するなよ! 佐伯君!
俺は高校生から見てもバカに見えるのだろうか。
何気に傷ついたぞ。
「ミッツ! こちらに人が来るニャ!」
猫獣人ココさんが立ち上がり、警戒態勢を取る。
俺たちも立ち上がり辺りを警戒すると、俺たち目指して二十人ほどのグループが歩いてきた。
「やあやあ、みなさんおそろいで! ちょっとお話をしましょう!」
うさんくさい笑顔を貼付けたスーツ姿のおっさんとおばちゃんの一団だ。
会談に割り込まれた佐伯君たちはムッとして、敵意をむき出しにした。
だが、おっさんとおばちゃんたちは、佐伯君たちの敵意をまったく気にせず俺に話しかけてきた。
「ミッツさんですね! どうぞよろしく!」
「どちらさまでしょうか?」
「市会議員の羽毛田です! いやあ、そちらはリクさんですな! マリンさんはお美しい! 柴山さんは切れ者って感じですね!」
羽毛田議員は、一方的に俺の手をとる。
したくもない握手をさせられた。
「私は区議会議員の美栄春子です! よろしくね!」
美栄春子議員は、俺の肩をバンバンと叩く。
馴れ馴れしいな。
次々に議員を名乗るおっさんとおばちゃんが、一方的に挨拶をして握手をしてくる。
結局、五人が市議会議員や区議会議員で、残りは取り巻きだった。
俺、リク、マリンさん、柴山さんは、ポカンとする。
だが、佐伯君たちと井利口さんは、露骨に嫌そうな顔をしている。
羽毛田議員が満面の笑みで、俺たちに向けて宣言した。
「我々は選挙を行います! 議員と代表者を選挙で選出します!」
「えっ……? はあ……」
何だろう。
この決定事項を伝える感じは。
井利口さんを、チラリと見ると首を横に振っている。
井利口さんは、反対なのか?
俺、リク、マリンさん、柴山さんが、困惑していると、羽毛田議員はズイッと俺に顔を近づけてきた。
脂ギッシュな顔に嫌悪感を覚える。
思わず『クリーン!』と生活魔法を発動しそうになった。
「ミッツさんたちは、当然選挙に賛成ですよね?」
いや、決めつけんなよ!
俺は羽毛田議員の話の進め方にムッとしたので、羽毛田議員に嫌味を返した。
「じゃあ、俺と佐伯君は議員に当選確実ですね。この拠点の大きなグループの代表者ですから」
この拠点で、最大のグループが佐伯グループ、二番目が俺のミッツグループだ。
佐伯グループは、約五百人。
ミッツグループは、約二百人。
他のグループは、百人に満たない。
職場や近所のつながりであるとか、年齢が近いとかで固まっている。
選挙をすれば、俺と佐伯君は当選間違いなしだろう。
「いえ、佐伯君は選挙権も被選挙権もありませんよ」
「「「「えっ!?」」」」
俺、リク、マリンさん、柴山さんが、驚いて目をむく。
だが、羽毛田議員は、当然のことだと話し続ける。
「選挙権は十八才以上。被選挙権は二十五才以上です。佐伯君は十七才だそうですから、選挙権も、被選挙権もありません。立候補出来ませんよ」
「「「「……」」」」
「それからこれは提案ですが、立候補にルールを設けましょう。政治活動をしたことがある人、政治知識がある人に限定するのです。ほら、日本でも政治家になるのに試験制度や資格制度を作ろうなんて話があったでしょう? ここは異世界だそうですから、やはり経験のある人物がリーダーシップを取るべきです」
「それが羽毛田さんだと?」
「みなさんの信託を受ければ、粉骨砕身! より良い暮らしが出来るように努力いたします!」
「「「「……」」」」
俺、リク、マリンさん、柴山さんは、呆れて言葉が出ない。
井利口さんは首を振り、佐伯君たちは怒りで拳を握っている。
そりゃそうだ。
佐伯君たちを排除すると羽毛田議員たちは言っているのだ。
それに俺たちも政治経験がないからと排除しようとしている。
「ふざけるな! 自分たちで権力を握りたいだけじゃないか!」
俺は羽毛田議員たちを、思いきり怒鳴りつけていた。
同時に佐伯君が『国をつくる』気持ちも理解出来た。
何もしないで権力を握ろうとするヤツラから、自分たちを守ろうとしたのだろう。
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