第46話 論破王柴山さん

 俺に怒鳴られても羽毛田議員はひるまない。

 すっとぼけた顔で、言い返してきた。


「おや? ミッツさんは選挙に反対ですか?」


「あんたたちの提案には乗れない」


「つまり民主主義に反対するのですね。独裁者ですね」


「ウチのグループは、合議制でやっている! 独裁じゃない!」


「なら、選挙に協力しましょうよ。何も問題ないでしょう?」


 この口先野郎をどうしてくれようか……。

 殴っちゃおうかな……。


 俺が実力行使を検討し始めると、リクが前に出た。


「あんたらさあ。市会議員だか区会議員だか知らないけど、この拠点の為に何をしたんだよ? 俺たちは危険な魔の森を抜けて、町を見つけて食料や服を手に入れた。佐伯君たちは、魔物を倒して食料を手に入れた。あんたたちは?」


「ですから! 今後は我々が、ノースポールの町との交渉を受け持ちます! リクさんたちは、この拠点とノースポールを往復して、荷物を運んでくれれば良いのですよ。気楽でしょう?」


「呆れたぜ……。自分たちは苦労しないで、オイシイところだけ持ってくつもりかよ……」


 リクは両手を広げて、呆れ果てている。

 リクの言う通りだ。

 こいつらは、権力者になりたいだけだろう。


 美栄春子議員が、猫獣人ココさんたちに話しかける。


「ノースポール側はいかがですか? 素人のミッツさんたちよりも、私たちプロの政治家と交渉する方が良いですよ」


 猫獣人ココさんたちは腕を組んで静観していたが、話を振られたことで仕方なしに回答した。


「ウチらは、ミッツたちの護衛任務で来ているニャ。ミッツたちには協力するニャ。それ以外は、知らないニャ」


 猫獣人ココさんの回答は美栄春子議員の予想……というか、願望とは違ったのだろう。

 美栄春子議員は、突然キレだした。


「あなた失礼でしょう! 私は議員ですよ!」


「議員は、王族か貴族かニャ?」


「違います! 日本には、そんな身分制度はありません」


「なら関係ないニャ。貴族相手じゃないなら、契約外の人間の相手をする義務はないニャ」


「んまあ! 私は議員ですよ!」


「知らないニャ」


 美栄春子議員は、無礼だの、失礼だの言い続けているが、猫獣人ココさんは三角耳を下に閉じて、まったく相手をしない。

 他の三人も、そっぽを向いて知らんぷりだ。


 俺は、全ての政治家を否定するつもりはない。

 真面目に取り組んでいる政治家さんもいるだろう。


 だが、こういう口先だけで力を得ようとする政治屋は嫌いだ。


「どうする? ヤルなら、俺がヤルよ」


 俺は小声で、リクに相談を持ちかけた。

 ここには沢山の日本人がいるが、日本じゃない。

 そのことを理解してもらう必要がある。

 その為には、多少痛い目にあってもらうのもやむを得ないのでは?


 リクは、グッと唇を突き出した。

 恐らくは俺と同じ気持ちだが、我慢している。

 慎重派のリクらしい。


「いや、柴山さんに任せよう……」


「そうだな。頼みます!」


 荒事は俺やリクの担当だが、こういう頭を使うことは柴山さんの出番だ。

 柴山さんが眼鏡をクイッとさせながら進み出る。


「議員の皆様方、一つ確認をさせて下さい。ここは日本でしょうか? 違いますよね? であれば、日本の法律はこの拠点に及びません。まずは、そのことをご理解下さい」


「いや、しかし、これだけ日本人がいるのだから、日本の領土と言っても差し支えないでしょう?」


「ほう! では、アメリカの日本人街は、日本の領土ですか? 日本の中華街は、中国の領土ですか? 違うでしょう! 特定の民族が沢山住んでいるからといって、勝手に領土を決めることは許されません。もちろん、日本で政治活動をされていた議員の皆様方ならご理解をいただけると思いますが?」


「それは……もちろん……」


 羽毛田議員が言葉に詰まった。

 柴山さんが、羽毛田議員を論破し始めたのだ。


 柴山さんは、眼鏡をクイッ! クイッ! とさせながら続ける。


「それから、羽毛田議員の主張は、ダブルスタンダードです。佐伯君たちには『選挙権も被選挙権もない』と日本の法律を持ち出し、一方でミッツさんの立候補に条件を付けようとする。立候補に条件をつけるなど日本の法律では違法ですよ! 自由選挙ではありません! よって、僕たちミッツグループは、羽毛田議員の『不公平かつ不公正な選挙の実施』案を拒否します!」


「そうだ! 僕たち佐伯グループも拒否するぞ!」


 柴山さんが断固とした口調で拒否すると、佐伯君が柴山さんの主張を後押した。

 俺たちの周りで聞き耳を立てていた拠点の住人が、ヒソヒソ話を始める。


「選挙って……。そういう選挙だったのか!」

「確かに条件付きは不公平だよね!」

「あいつらは、自分たちが議員になりたいだけだろう!」

「旨い汁を吸おうとしやがって!」


 羽毛田議員たちの旗色が悪い。

 羽毛田議員や美栄春子議員たちは、焦り始めた。


「違います! 私たちは、公平公正な選挙を行おうと尽力しているのです!」

「民主主義の火を消してはなりません! 平等な社会を実現しましょう! 貴族の横暴に立ち向かうのです!」


「ウソつけ!」

「この偽善者め!」

「出て行け!」


 拠点の住人から野次が飛んだ。

 ああ、羽毛田議員たちが、みんなのストレス発散の的になっている。

 羽毛田議員、美栄春子議員たちは、必死だ。


「私たちは、みなさんのお役に立ちたいだけなのです!」


「そうです! みなさんを守りたいだけです!」


 こいつらめげないな。

 少しお灸を据えるか?

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