第44話 佐伯グループとの話し合い

 拠点の住人に報告を行ったが、まだ、休むことは出来ない。


 すぐに佐伯グループのリーダー勇者佐伯君と会談だ。

 佐伯君は制服姿で、女性三人男性三人を引き連れてきた。


「人目のある所で話した方が良い。人目があれば、佐伯君たちも下手なことを出来ないだろう」


 井利口さんは、佐伯グループを警戒している。

 井利口さんのアドバイスに従って、広場で話し合うことにした。


 いつも野営で使う布を敷いて、出席メンバーが輪になって座る。

 こちら側は、俺、リク、柴山さん、マリンさん、井利口さん、猫獣人ココさんたち現地人四人組だ。


 まず、佐伯君が天真爛漫の笑顔で、社交辞令を飛ばしてきた。


「ミッツさん! お帰りなさい! 町を見つけて、物資を買い込んで、大成功ですね!」


「ありがとう」


 そこからは佐伯君が質問して、俺たちが答える形で話が進んだ。

 佐伯君に同行してきた六人は、興味深そうに話を聞いているが、会話には参加しない。


 昨晩、井利口さんが言っていた『独裁』が思い出される。

 グループの意思決定は佐伯君が握っているのだと、俺もハッキリと理解した。


 しばらくは、領都ノースポールのことや冒険者について質問が続いた。


「それで、日本に帰る方法は見つかりましたか?」


 佐伯君がズバッと聞いてきた。

 周りには、俺たちのグループに属さない人もいる。

 ある程度、俺と佐伯君の話は聞こえていると思う。

 だから、俺は誤魔化さずにハッキリと答えた。


「見つかってない」


 この答えは佐伯君よりも、周りで聞き耳を立てている拠点の住人に向けた答えだ。


 さっきの話と食料や衣料品を持ち帰ったことで、俺は拠点の住人から信用を得た。

 ここで下手に誤魔化して、信用を失いたくないのだ。

 見つかってないと正直に答えれば、みんなガッカリするだろうが、信用を失うことはない。


 聞き耳を立てていた人たちが、失意でうなだれるのが横目で見えた。

 だが、希望はある。


「だけど希望はある。俺たちがこの世界に転移した理由は不明だが、手掛かりを見つけた。詳しくは柴山さんから話してもらう」


 手がかりとは、この拠点の南で発見した神殿のことだ。

 南にある神殿で発見した日記を佐伯君に見せながら、柴山さんが佐伯君たちに説明する。


「――これまでわかったことの説明は以上です。僕としては、今後各方面と協力して研究を進めたいと思います。佐伯君のグループには賢者がいますよね? ひょっとしたら賢者のスキルが研究の役に立つのではないかと」


「うーん、どうでしょう……。賢者は攻撃職の色合いが強いですよ。お役に立つかどうか……」


「そうですか、残念です」


 柴山さんがあからさまにガッカリすると、佐伯君が慌ててフォローをした。


「いや、でも、協力はしますよ! 僕のグループにも日本に帰りたいという子がいるので、研究協力はしましょう! 後でメンバーに話して興味のある子を選んでみます」


「そうしていただけると助かります。ありがとうございます」


 柴山さんは、丁寧に佐伯君に頭を下げて礼を述べた。

 周りにいる取り巻きに聞かせているのだろう。

 佐伯君のグループの中には、佐伯君を心酔している人がいるらしい。

 佐伯君を軽く扱って、心酔している人から恨みを買うのが怖いのだ。


 何気ない会話が続いているが、柴山さんが言葉を選んでいるのが分かる。


「どうでしょう。日本へ帰る方法は見つかりそうですか?」


「うーん、何とも言えないですね。帰りの道中にエルフの魔法使いティケさんとも話し合いましたが、難しいかもしれないし、案外簡単にわかるかもしれないし……。やってみなければわからないです」


「そちらのエルフさんも協力してくれるんですか!」


 エルフの魔法使いティケさんが、軽く頭を下げた。

 ティケさんは淡々と話をする。


「私も協力する。エルフは魔道具や魔方陣にも精通しているので力になれるだろう」


「それは、心強いですね。僕らは日本に帰れますか?」


「わからない。あなたたちが故郷に帰りたい気持ちは理解出来る。しかし、出来もしないことを出来ると言うような無責任な振る舞いはしたくない。まず、この拠点を調査したい」


「了解です。拠点の調査を僕たちのグループは認めます」


 よし!

 佐伯君の承認が取れた。

 拠点の最大グループが認めたのだ。

 これで調査をしても文句を言うヤツはいないだろう。


 柴山さんは続けて、拠点の南にある神殿の位置や領都ノースポールの位置を、ノートに書いて佐伯君に説明した。


「なるほど……。じゃあ、その南にある神殿と同じ物が、他の場所にもありそうですね……。他の国の位置は、どんな感じですか?」


 柴山さんは、ノートに拠点を中心とした各国の位置を書き加える。

 南、東、西の位置にそれぞれ国がある。


「北にはないのですか?」


「北に人は住んでいないそうです。魔物が強力な上に、気候が寒冷なので人が住むのに適さないと聞きました」


「そうですか……」


 佐伯君は、腕を組んで何事が考えている。

 嫌な空気が漂う。

 俺は佐伯君に話を促した。

 秘密でコッソリ動かれるより、事前に知っていた方が対策を立てられるだけマシだ。


「佐伯君。どうした? 何か考えごと? 出来れば相談してもらえると嬉しいよ」


「ミッツさん。僕たちは国を作ろうと思っています。それで領土をどうしようかなと考えていました」


 一番聞きたくない、面倒な話をぶっ込まれた。

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