第37話 帰路5~拠点の人と出会う!

 ■ 異世界転移二十四日目、拠点を出発して二十二日目


 神殿を出発してから四日経った。


 ジックザハラットが、いるのか? いないのか?


 俺たちは『いない可能性が高い』と結論づけた。

 現地人四人組から色々と話を聞いたが、少なくともジックザハラットはここ五百年現れていないと断言できる。


 俺たちがいるのは大陸で、三つの大国が治めている。

 大陸が三つの大国に統一されたのが、およそ五百年前で、三国の記録にはジックザハラットが現れた記録はない。


 最後に現れて人々の魂を奪った。

 その時に大陸中央で栄えていたエルフの大国は滅ぼされ、高度な魔法技術が多数喪失した。


 だから、ジックザハラットについては、心配ないと思う。


 だが、猫獣人ココさんによると、勇者はジックザハラットを倒すために召喚された存在だから、勇者がいるということは、ジックザハラットが復活したのではないか……。


 どうも、俺たちは、縁起が悪い存在のようだ。


 俺たちは、神殿で一泊して、拠点へ向かった。

 何度も戦闘を行い、レベルアップを繰り返し、歩くペースを上げて、拠点の近くまで戻ってきていた。


「リク! どうだ?」


「ああ。このルートで間違いない! 行きに目印として傷をつけた木の幹だ」


 先頭を歩くリクが、一本の木の幹をポンポンと叩いた。

 木の幹を叩くリクは、懐かしんでいるのがわかる。


「近いのかニャ?」


「ええ。かなり近づいています」


「こんな奥に入った冒険者はいないニャ……」


 猫獣人ココさんが、不安がる。


 無理もない。

 俺たちは大陸の中央にある魔の森と呼ばれる深い森の中を進んでいるのだ。

 魔の森に住む魔物は強力で、よほど上位の冒険者でなければ近づくことも危険とされている。


 俺たちにはなじみの魔物である『グレートホーンディア』も、猫獣人ココさんたちにとっては、滅多にお目にかかることがない強力な魔物で、俺が瞬殺したのを見て目を白黒させていた。


「おっ!」


 リクが嬉しそうな声を上げた。


「リク! どうした? 魔物か?」


「いや! お仲間だ! オーイ! 俺だー! リクだー!」


 リクが森の奥の方へ、大声で呼びかけた。


「リクさーん!? 帰ってきたのかー!?」


 木々が邪魔で姿は見えないが、遠くの方から微かに声が聞こえる。

 俺たちは足を速めた。


 やがて、木々の間から拠点に残った仲間四人が見えた。

 俺たちのグループのメンバーだ!


「オオ! ミッツさんだ!」

「無事だったのか!」

「全員無事か!」

「このヤロー! 死んだかと思ったじゃねえかー!」


 俺、リク、柴山さん、マリンさんは、背中や頭をバンバンと叩かれ手荒い歓迎を受ける。

 仲間の一人が、期待のこもった目で俺を見た。


「それで! 町は見つかったのか?」


「ああ! 食料も服も沢山買ってきた!」


「「「「おおおおお!」」」」


 さあ、盛り上がってまいりました!

 俺は勢いに乗って、猫獣人ココさんたち現地人四人を紹介する。


「こちらの四人は、現地人の冒険者だ。猫獣人のココさん!」


「よろしくニャ!」


「ええ!? 獣人!?」

「スゲー! マジでネコミミ!」

「尻尾は!? 尻尾は!?」

「やっぱりニャなんだ!」


 四人がさらに盛り上がる。

 良かった。

 拒否されたらどうしようと心配していたのだけれど、この調子なら受け入れてもらえそうだ。


「エルフの魔法使いティケさん!」


「「「「おお! 本物のエルフだ! 美人! 耳! なが!」」」」


「盾役のブラウニーさん!」


「「「「おお! 美人で強そう!」」」」


「必殺の蛇拳使い回復役のリーリオさん!」


「「「「情報多過ぎ!」」」」


 四人は、大盛り上がりだ!

 しまいには、『俺、独身ッス!』とか言い出して、エルフの魔法使いティケさんにモーションをかけるバカが出る始末だ。


 その俺をも上回るバカは、リクがチョークスリーパーをかけて締め落としていた。


 四人はグループで、食料調達係、つまり魔物狩りを担当している。

 今日は、拠点の南側に狩りに来て、俺たちに出会った。

 ――と、四人のリーダー井利口さんが説明してくれた。


 井利口さんは、三十代前半くらいの見た目でスーツ姿だ。

 いつも途中の駅で乗ってくる人で、いつもスマホで子供の写真を見てニヤニヤしていたな。


「じゃあ、連絡入れるな」


「「「「えっ!?」」」」


 井利口さんは、スマホを取り出して操作し始めた。

 操作が終ると、俺たち日本人組四人を見てニヤリと笑う。


「ビックリしただろう?」


「今、どこかへ連絡したんですか?」


「そっ!」


「ええ!? スマホ使えるんですか!?」


「このアプリだけな」


 井利口さんは、スマホの画面を見せてくれた。

 日本でよく使っていたメッセージアプリに似た画面が表示されていた。


『ミッツたちを発見! これから一緒に戻る』


 ――とテキストメッセージが書かれていた。


「携帯会社の技術者さんがいたんだよ。それで、ノートパソコンとか、電車の中にあった機械を使って、このアプリだけ動くようにしてくれたんだ」


 井利口さんが種明かしを始めた。


「スゴイですね!」


「技術者さんによると、全員が一斉に使うのは無理らしい。神殿の外に出る人限定で、このアプリを入れている。今、送ったメッセージは、神殿の中にあるノートパソコンに表示されているよ」


「へー!」


 それはスゴイ便利だと思う。

 近距離であっても、狩りに出ている人と拠点に残っている人の間で連絡が取れるのだ。


「バッテリーは?」


「充電屋がいて、充電してくれる」


「えっ!? 充電屋!?」


「ああ。スキルでバッテリーに充電出来るらしい」


「はあ!? どうやって!?」


「詳しいことはわからないけど、やったら出来たんだって」


 井利口さんは、肩をすくめた。

 さすがに二千五百人もいると、色々なスキル持ちがいるな。


「それで、みんなの様子はどうですか?」


「悪いね」


 井利口さんの表情が険しくなった。

 拠点はどうなっているのだろう?


 俺たちは拠点へ向けて足を速めた。

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