第36話 帰路4~ジックザハラット
――蹂躙。
俺たちの戦闘は、そんな言葉がピッタリだった。
オークの一団は、好き勝手に戦う俺たちに殲滅され、晩のおかずになった。
「オークは無駄のないお金になる魔物ニャ。肉は食用、皮は防具の材料、睾丸は強精剤になるニャ。新人冒険者は、魔物の何がお金になるのか覚えておくニャ」
猫獣人ココさんは、俺たちへの指導を忘れない。
大変ありがたいことだ。
だが、俺は物を覚えるのが苦手だ。
覚えるのは柴山さんにお任せする。
「ミッツさんも、少しは覚える努力をして下さい」
適材適所!
分業して、助け合うことが大切なのだ!
帰路は、イルゼ村から森を通り新しく発見した神殿へ向かう。
神殿で一泊してから、二千五百人が待つ拠点へ。
嬉しい誤算は、移動速度だ。
教会で得たスキル『パーティー編成』のおかげで、戦闘に直接参加していない柴山さんもレベルアップした。
レベルアップは、基本的な能力を底上げするようだ。
行きは一日歩くだけで辛そうだった柴山さんが、かなり速い速度で森を歩いても大丈夫になった。
「これは……! かなりありがたいですね! 往路は一日歩くと足がパンパンになっていましたが、今は何ともありません。心地よい疲労を感じる程度で、夜グッスリ眠れそうです」
俺たちは、神殿で回収した結界箱と領都ノースポールで買ったテントを利用して、行きよりも快適な夜を過ごした。
「着いたな!」
柴山さんがレベルアップしたことで、俺たちの歩くスピードは上がり、三日で神殿に到着した。
行きは神殿からイルゼ村まで約五日かかっているので、移動速度アップの効果で二日短縮出来たのだ!
猫獣人ココさんたちが、神殿を見て驚きの声を上げる。
「こっ……これは!」
「旧世界の遺跡ニャ!」
「旧世界の遺跡ってこんなにキレイなんだ!」
「いや、土に埋まってないからだろう。土に埋まっていた遺跡は、汚れている場合が多いぞ」
旧世界の遺跡……。
何やら聞いたことのない言葉が出てきた。
色々と聞きたいことはあるが、もうすぐ日が暮れる。
「今夜は、ここに泊まります。行きもここに泊まりました。安全は確認してあります」
「この遺跡は、ミッツたちが発見したのかニャ?」
「ええ、そうです。部屋がきれいなので、個室が使えますよ。個室にはベッドもありますし、お風呂もついています」
「それは豪勢だニャ!」
領都ノースポールを出てからは、風呂に入らず生活魔法『クリーン』で済ませていた。
猫獣人ココさんたちは、生活魔法『クリーン』に慣れているが、俺たちは慣れていない。
体はきれいになるが、どうも気持ち的にスッキリしないのだ。
やはり、お湯につかってリラックスするのが、DNAに深く刻み込まれた日本人の性なのだろう。
食事と風呂を終えたところで、全員食堂に集まってもらった。
「ミッツ! 話があるって何ニャ?」
俺たち日本人組四人は、お互い目を合わせ気持ちを再確認した。
この三日、俺たちは考えた。
猫獣人ココさんたちに、俺たちが日本からの転移者であると打ち明けるかどうかを。
どういうリアクションが帰ってくるか、怖い面はある。
でも、結局、拠点に猫獣人ココさんたちを連れて行けば、『日本からの転移者』とバレるのだ。
それなら、ここで打ち明けておいた方が良いだろう。
「ココさん、ブラウニーさん、ティケさん、リーリオさん。今から話すことは、本当のことです。信じられないかもしれませんが、俺たちの話を聞いて下さい」
俺はゆっくりと話し始めた。
俺たちが『日本からの転移者である』なんて話は、猫獣人ココさんたちには理解が出来ないだろうと思ったからだ。
だが、猫獣人ココさんたちは、大いに驚きはしたが『転移者』や『違う世界』といった事柄をちゃんと理解してくれた。
エルフの魔法使いティケさんが、ボソリとつぶやく。
「そうか、そっちか」
「そっちとは?」
「私たちは、ミッツが異世界からの転移者だとは思っていなかった。貴族のご落胤、貴族のお坊ちゃんのお忍び旅行、この大陸以外からやってきた外国人……。そんな風に予想していた」
「そうだったんですか!」
まあ、俺の気品溢れる顔立ちや雰囲気を見れば貴族と間違えるのも無理はない。
俺がウンウンと一人で納得をしていると、リクが余計なことを言う。
「ミッツが貴族の子供とか、さすがに無理があるだろう?」
「そうだな。強引過ぎる予想だった」
「いやいやいや! 強引じゃないし! 俺は予想通りでも、まったく構いませんよ!」
俺とリクがいつものように、やり合い出すとマリンさんが止めに入った。
「今日は、ココさんたちへの説明がメインだから」
さすがマリンさん!
俺の心の恋人!
猫獣人ココさんが、質問をしてきた。
「ミッツたちの仲間に勇者はいるニャ?」
「います」
「そうニャ……。聖女と賢者は?」
「いますね」
「ニャア……。伝説通りだニャ……」
猫獣人ココさんの三角耳がヘニョンと倒れてしまう。
よほど気落ちしたのだろう。
「勇者たちがいると不都合があるのですか?」
現地組の四人は、何も話さない。
四人とも黙っている。
「ひょっとしてジックザハラットでしょうか?」
柴山さんが、『行き』で見つけた日記を手に、ジックザハラットかと尋ねた。
現地組の四人の視線が柴山さんに注がれる。
「この日記は、この神殿らしき建物に住んでいた人が書き残したようです。ジックザハラットを非常に恐れていました。ジックザハラットとは、何なのでしょう?」
「ジックザハラットは、大悪魔とか魔王とか呼ばれているニャ。伝説上の人物ニャ」
「伝説ですか? すると、現在、ジックザハラットは存在していないのですね?」
「一応、そうなるニャ。何百年前なのか、何千年前なのかはわからないニャ。ジックザハラットが現れては、勇者たちに倒され、倒されては復活するを繰り返したニャ。その度に、違う世界から勇者が召喚されたと言い伝えられているニャ」
猫獣人ココさんが、淡々と答える。
柴山さんは、ふんふんとうなずきながら、テーブルに広げた日記に目を落としていた。
猫獣人ココさんの話からすると、かなり昔の出来事らしい。
エルフの魔法使いティケさんが、ぶっきら棒に話を引き継いだ。
「口伝ではあるが、エルフの中では事実と認識されている。ジックザハラットは実在した。勇者も実在した。しかし、最後にジックザハラットが現れた時に、勇者の召喚が出来なかったらしい」
日記には、かなり焦っている様子が記してあった。
ティケさんの話に出てきた『最後にジックザハラットが現れた時』なのだろうか?
「なぜ、勇者を召喚出来なかったのだろう?」
「理由は伝わっていない。召喚するための魔力が不足したとか、召喚を試みたが失敗したとか、色々な予想をする人はいる。事実は、とにかく勇者たちを召喚することが出来なかった」
「なるほど」
「ジックザハラットは、住民たちの魂を根こそぎ奪い取り、どこかえ消えてしまったらしい」
魂を根こそぎ奪い取る。
つまり。住民を皆殺しにしたということだろう。
俺たち日本人組四人は、当時の状況を想像して顔を青くした。
「住民たちが消えた町は、時が経つとともに森の木々や土に埋もれた。それが旧世界の遺跡と呼ばれている。この建物も旧世界の遺跡。旧世界はエルフによって作られ魔法技術が発展していた。しかし、ジックザハラットによって滅ぼされ、当時の技術は失われている」
「じゃあ、ティケさんたちは?」
「ジックザハラットの襲撃から生き残ったエルフの末裔」
エルフの魔法使いティケさんの声は淡々としていたが、握った拳がかすかに震えていた。
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