第35話 帰路3~オーク迎撃

 どうやらノンビリ楽しくお話しする時間は終わりのようだ。

 俺はすぐに戦闘指示を出す。


「俺は正面から突っ込む! リクは左から回り込んで側面から奇襲! えっと……ココさんたちは?」


 俺は猫獣人ココさんを見た。

 猫獣人ココさんたちが、どんな風に戦闘するのか、俺は知らない。

 だから、指示も出来ないし、そもそも指示を出して良い立場なのかどうかもわからない。


「こっちはこっちで適当にやるニャ! そっちにあわせるから、ミッツは戦いたいように戦うニャ!」


「お願いします!」


 さすがネコ先輩は頼りになる!


 俺はスキル『身体強化』に物を言わせて、森の木々を右へ左へと高速で避けながらオークへ向かう。


「いた! 一匹、二匹、三匹……ええい! 沢山いる!」


 数えるのが面倒だ。

 とりあえず、ばっくりで十匹以上いるオークの団体さんだ。

 片っ端から倒してしまおう!


「いらっしゃいませ! ご注文は! 即死でよろしいでしょうか!」


 俺は右手を銃の形にして、戦闘のオークに狙いを定める。


 ドン!


 右手の先から魔力の銃弾が発射され、オークの頭部を吹っ飛ばした。

 頭なしのオークは、二歩三歩と歩いてからバッタリ倒れ、地面に血だまりを作る。


「ブヒ!?」

「ブヒー!?」


 オークの団体さんが、ブヒブヒ言い出した。

 パニックを起こしている。


 チャンスだ!


 俺は右方向へ円を描くように走り、木の陰から銃撃を続ける。

 ヘッドショットを連発して、オーク五匹を倒したところで、蛇拳少女リーリオさんが乱入してきた。


「お手伝いします!」


 リーリオさんは、飛び込みざま、一番手前にいたオークの土手っ腹に抜き手を見舞った。

 正確にみぞおちを貫いたリーリオさんの右手から、真っ赤な血が流れる。


「グボ……」


 オークの口から大量の血が流れ、リーリオさんが腕を引き抜くと同時に、オークが倒れた。


 強いな……!


 だが、リーリオさんに前線参加されると、俺の銃撃が使えない。

 魔法攻撃である銃撃は、現地人には隠しているのだ。


「仕方ない……。こっちを試すか!」


 俺は腰の剣を抜くと、オークの団体に向けて突貫した。

 二匹のオークがミートチョッパーを振り回して、俺を迎撃しようとする。


「だが、遅い!」


 俺は低い姿勢でオークが振り降ろしたミートチョッパーを避ける。

 すれ違いざま、オークの膝の裏を、右、左と斬り付けた。


「「ブヒッ!?」」


 二匹のオークが膝をつく。


 俺は急停止した勢いで、体を回転させて、遠心力をつけたままオークの首に剣を斬り付けた。

 ズブリと首の中程まで剣が埋まったが、切れ味がイマイチで首を断ち切るまではいかない。


「チイ! 量産品かよ!」


 剣の切れ味の悪さに、舌を打つ。

 アイテムボックスから、以前倒したオークから回収したミートチョッパーを取り出す。


「フンッ!」


 スキル『身体強化』が効いたミートチョッパーの振りおろしは、オークの頭部を真っ二つに裂いた。


 力任せの一撃だが、ミートチョッパーは刃が厚いので、肉も骨も容赦なく切り分けてしまう。


 俺はどうやら、ミートチョッパーのような丈夫な得物の方が合っているらしい。


 俺はアイテムボックスから、もう一本ミートチョッパーを取り出し、両手に握った。


 そのまま、両腕を大きく開いて、残りのオークを威嚇すると、体の大きなオークが後ずさりする。


「まあ、待てよ。晩メシは、ポークソテーと決まってるんだ」


 俺がダーティー・ハリーCV山田康雄風にセリフを決めると、オークたちの額からつーっと汗が流れた。

 オークたちの注意は、俺に向いている。


「背後が、がら空きだぜ!」


「いただきニャ!」


 オークの背後から、リクと猫獣人ココさんが襲いかかった。

 進行方向左、つまり俺の動きと逆方向から回り込み、オークの背後を取ったのだ。


 リクと猫獣人ココさんは、ジャンプすると肩車に乗る要領でオークの肩に乗った。

 そして、落下する勢いを使って、オークの後頭部に剣を突き立てる。


 一瞬だけ、ビクビクとオークが痙攣し、そのままドウと崩れ落ちる。


 リクと猫獣人ココさんは、息を合わせたように、きれいにバク転をシンクロさせて地面に降り立つ。


「ハイ! ハイ! ハアーイ! ハイヤー!」


 そして、リーリオさんが、蛇拳でオークの腹に穴を穿つ。

 俺はリーリオさんに、ちょっとしたアドバイスを送る。


「リーリオさん! 可能であれば、腹ではなく、頭を狙って下さい!」


「どうして?」


「オーク肉を楽しみにしている人が若干名おりまして……。腹に穴を空けると肉が減ってしまいます!」


 きっとマリンさんが、豚汁フィーバー状態だろう。

 愛する人の為に、肉を捧げるのだ。


「んー、じゃあ、こっちにするか?」


 リーリオさんは、一匹のオークを挑発するように指さした。

 腕を返して、指で『カモン! カモン!』とオークを呼ぶ。


 その指が空気を切り裂く。


 ボッ! ボッ!

 ボッ! ボッ! ボッ!


「「おおー!」」


 俺とリクが感嘆する。

 指の小さな動きだけで、風切り音を出すとは、恐ろしい実力だ。


 オークが、小柄なリーリオさんを見て『与しやすし』と思ったのだろう。

 好色そうな目で、涎をたらしながら突撃する。


「ハイッ!」


 だが、必殺の蛇拳に敵はなかった。

 リーリオさんは、蛇拳の構えから右手を真っ直ぐオークの股間に伸ばした。


 蛇がオークの睾丸にかみついたのだ。

 これはタマらない!


「ヒー!」


 オークは、『悲惨なヨーデル』といった感じの、それは……、もう、悲しすぎる声を上げて絶命した。

 俺とリクは、無意識に股間を抑え、猫獣人ココさんが悲鳴を上げる。


「ニャー! オークの睾丸は、強精剤の材料として売れるのニャ! タマを潰すのはダメニャー!」


「じゃあ、どうしろっていうのよ! 私は背が低いから、頭は届かないのよ!」


「睾丸をくりぬくニャ!」


「いやよ! そんなの!」


 俺とリクは、オークたちに同情する視線を送りながら、ますます股間を抑えるのであった。

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