第34話 帰路2~回復役のリーリオさん

 ■ 異世界転移二十日目、拠点を出発して十八日目


 ――翌朝。


 俺たちは、イルゼ村を出発して拠点へ向かうことにした。

 つまり、魔物がウジャウジャいる森の中を突破するのだ。


 俺は猫獣人ココさんに最後の確認を行う。


「ココさん。本当に俺たちと一緒に行くのですね?」


「そうニャ! ウチらは護衛任務を引き受けたのニャ! 引き受けた限りは、やり遂げるニャ!」


「強い魔物が出ますよ。本当に大丈夫ですね?」


「大丈夫ニャ! ウチらはC級冒険者パーティーニャ! 後れは取らないニャ!」


「わかりました。では、出発します! リク! 先頭を頼む!」


「了解!」


 リクを先頭にして、イゼル村を出発した。

 リクの後に斥候役の猫獣人ココさんが続く。


 そして敵の排除役であるアタッカーの俺、エルフの魔法使いティケさん、そしてなぜか回復役のリーリオさんがいる。


「あの……リーリオさんは、回復役ですよね? 後ろに下がってもらって構いませんよ」


 俺の後ろには、盾役のブラウニーさんが控え、ブラウニーさんの後ろに水魔法を使うマリンさん、回復役の柴山さんの隊列になっている。


 リーリオさんは、小柄な人族の女性だ。

 柴山さんと同じ位置で良いと思うのだが?


 リーリオさんは、ニコッと笑うと両手で拳を作って見せた。


「私はモンクです。素手格闘が得意ですよ!」


「モンク……修行僧?」


「そうです!」


 何と!

 前線で殴る蹴るをしながら、仲間を回復するのか!

 そういえば、リーリオさんが着ている白い服は、カンフーマスターっぽい服だ。


「素手で魔物を殴って大丈夫なんですか?」


「大丈夫です! 私は身体を硬質化出来るので、拳が鈍器みたいに固くなるのですよ!」


「それはスゴイですね!」


 スキルかな?

 硬質化なんてスキルがあるのかもしれない。


 俺はチラッとリーリオさんの体を見た。

 リーリオさんは、小柄だが出るとこは出ている。


 ――胸がデカイ!


 柔らかい人間の体を鈍器に変えるなんて、何て罪作りなスキルなんだ!

 あのやわらかそうなオッパイが、鈍器になるなんて!


 いや、待て、待つんだ光広!


 接近戦では、オッパイ鈍器は強烈な武器になるかもしれない。

 ボクシングの『ワン・ツー』の要領で、『ワン! ツー! スリー! フォー!』とコンボが決まるかもしれない。


 それに胸部装甲として、敵の攻撃を堅い守りで防ぐかもしれない。


 俺が考えにふけっていると、リーリオさんが優しくニッコリ笑った。


「どうしたのですか? 何か聞きたいことがあれば、質問しても構いませんよ」


「じゃあ、お言葉に甘えて……。胸も固くなるんスかね?」


 俺は思い切って気になったことを質問してみた。

 その瞬間、四方八方から非難の嵐が……。


「ミッツ! 真面目にヤレ!」


「ミッツさん……。勇者過ぎるでしょう。質問はよく考えてからしてください」


「ミッツさん、不潔!」


「ミッツ殿……。少しは遠慮してください!」


「人族はスケベ、ミッツはスケベ」


「やっぱりミッツはバカニャ! 緊張感が足りないニャ!」


 あんまりだ!

 俺は正直なだけなのに!


「いや! だって気になるだろう! 戦略だって、変わってくるだろうし――」


「バカ! 何の戦略だよ!」


 俺は真面目に答えたのだが、リクがゲラゲラ笑う。

 いや、胸が固くなるか、柔らかいままなのかによって、戦闘の仕方も変わるだろう。

 たぶん……。


 俺はリーリオさんに詫びる。


「すいません。デリカシーが足りませんでした」


「いえ、いえ。男性は気になるみたいですね。硬質化するのは、拳や指先など攻撃をする箇所ですね。体全体を硬質化する訳ではないですよ」


「あっ! そうなんスか!」


 じゃあ、戦闘中は胸が揺れるのか?

 胸が揺れるんだな!


「リーリオさん、それじゃあ、防具は?」


「この白い服です。防御力が高いキラースパイダーの糸を紡いだ布で出来ているのですよ」


「俺の国では、見ない形の服ですが、何と言うのですか?」


「チャンパオです。私の流派では、免許皆伝すると、このチャンパオを着ることが許されるのですよ」


「ほー!」


 空手や柔道の黒帯みたいな物か!

 免許皆伝と言うからには、リーリオさんは相当『やる』のだろう。


「リーリオさんの流派は、何て流派ですか?」


「必殺の蛇拳です!」


「「えっ!?」」


 俺とミッツの声が重なった。


 蛇拳といえば、ジャッキー・チュン主演のアクション映画『蛇拳』だろう!

 銃は出て来ないし、特殊なエフェクトやSFXもない。

 だが、肉体を武器に画面狭しと暴れ回り、笑いも満載の古き良き香港映画の代表作だ。


 いや、待て!

 ここは異世界だ!


 ジャッキーの蛇拳とは、別の格闘技かもしれない。


「あの……、ちょっとやってもらっていいスか? 蛇拳……」


「良いですよ!」


 リーリオさんが、歩きながら両手で構えをとる。

 左腕と右腕で蛇をかたどる……まさに蛇拳!


「「おおお!」」


 俺とリクが歓喜する。

 異世界でカンフーマスターに出会うとは、胸熱だ!


 リーリオさんが、腕を組み替えながら、突きや払いを見せる。


 ボッ!

 ボッボッ!


 と風切り音が聞こえてくる。


 スゴイ……。

 俺は目をキラキラさせて、リーリオさんの蛇拳に釘付けになった。


 腕の動きもスゴイのだが、胸の動きもスゴイ……。


 急にリーリオさんの手が止まった。

 リーリオさんの表情が険しくなり、鋭い視線を前方に向ける。


 リクと猫獣人ココさんが、警戒をしだした。


「ミッツ! お客さんだ!」


「前方から、魔物が来るニャ! この臭いは……オークニャ!」

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