第33話 帰路1~イルゼ村の夜
俺たちは、領都ノースポールを早朝に出発した。
森の入り口にあるイゼル村には、夕方到着予定だ
領都ノースポールとイゼル村の間は、駅馬車が走っている。
ノンビリと駅馬車に揺られる旅は、異世界感満載で俺は好きだ。
馬車の中では、日本人組四人と現地人組四人で、お互いの国の歌を歌ったり、話をしたりして過ごす。
柴山さんが、童話『泣いた赤鬼』を話すと、現地人四人組は涙を流して感動している。
「青鬼ニャーン!」
「ぐううう!」
「青鬼は鬼ではなく、騎士なのだろう……」
「青鬼さんに神のご加護を!」
鬼は魔物で人類の敵じゃないのか!
そんなツッコミを心の中でしながら、現地人の意外な純真さに驚く……。
そして、リクの鬼畜さにも……。
「いや、エルフのお姉さん! この程度の話で泣くんだ! いや~カワイイね~! ぐうううう!」
「貴様黙れ! 青鬼さんに謝れ!」
リクはエルフの魔法使いティケさんが気に入ったらしく、何かとモーションをかけている。
今もエルフの魔法使いティケさんに反撃され、ポカスカ叩かれて嬉しそうだ。
良かったな!
相棒!
俺とリクの関係は、アクション映画だとリーサル・ウェポンのリッグスとマータフかな!
リッグス刑事は、イケメン強キャラで、若き日のメル・ギブソンが演じる。
マータフ刑事は、ベテラン刑事でマイホームパパ。ダニー・グローヴァーが演じる。
あれ……?
どっちがどっちだ?
「なあ、リク。俺とオマエって、リーサル・ウェポンだと、どっちがリッグスだ?」
「そりゃ、俺がリッグス役、メル・ギブソンだろ。ほら、レネ・ルッソ似の美人が隣にいるしさ!」
リクがイケメンスマイルで、いけしゃあしゃあと、ぬかしやがった。
まあ、エルフの魔法使いティケさんが、レネ・ルッソ似の美人なのは認めよう。
「リーサル3かよ! じゃあ、俺がダニー・グローヴァー?」
「いいや、違う。ミッツは、レオ・ゲッツ! ジョー・ペシだ!」
「ジョー・ペシかよ! キレ芸やるぞ!」
俺は、アメリカ映画ではおなじみの俳優ジョー・ペシの真似をして、甲高い声で騒いで見せた。
いつもの調子で俺とリクは、大笑いする。
猫獣人ココさんは、俺とリクが何を話しているかわからないだろうが、ニコニコ上機嫌だ。
「ミッツとリクは、仲が良いニャ! パーティーの雰囲気が良いのは、重要ニャ! それで、何の話をしていたニャ?」
「映画……、えーと、お芝居の話ですよ! ミッツさんとリクさんはお芝居が大好きで、よくお芝居の登場人物に例えるのです」
柴山さんが、猫獣人ココさんにかみ砕いて伝える。
現地人四人組は、芝居と聞いて目をキラキラさせた。
「芝居ニャ! ノースポールにも旅回りの一座が来るニャ! 町のみんなは楽しみにしているニャ!」
「それは僕も見てみたいですね!」
柴山さんと猫獣人ココさんも、何気に良い雰囲気だな。
ケモナーめ!
リア充に進化しているな!
俺はニヤリと笑い。
視線を馬車の外へ向けた。
土がむき出しの街道をポクポクと馬車が進む。
「じゃあ、今度は私が『ロミオとジュリエット』を話しましょう!」
マリンさんがロミジュリを話し出した。
その話は最後悲劇なんだよな……。
また、現地人四人組は泣くな!
*
イゼル村では、猫獣人ココさんが村長さんに交渉して、空き家を借りることが出来た。
ボロではるが、屋根と壁のある部屋で眠れるのはありがたい。
俺たち日本人組四人は、同じ部屋に泊まることにした。
打ち合わせる必要があるからだ。
俺は早速議題を切り出す。
「ココさんたち、四人をどうしようか?」
猫獣人ココさんたち四人は、俺たちの護衛を冒険者ギルドから依頼されている。
四人とも俺たちに、ついてくるつもりだ。
最初にリクが否定的な意見を口にした。
「連れて行けないだろう……。俺たちが異世界から来たとバレる」
「それなんだよな。リクは、バレたらどうなると思う?」
「正直、わからない。ココさんたちは良い人だし、冒険者ギルドマスターのボイルさんも良い人だと思った。けどな……」
リクが眉根をグッと寄せる。
俺は先を促す。
「けど?」
「どうやら、この世界には貴族がいるらしい。権力者……それも日本の政治家とかの比じゃないだろう。貴族が出てきたら、俺たち日本人に対して、どう接するか予想がつかない」
「うーん……」
難しいな。
日本には貴族なんていないので、どんな人たちなのか想像もつかない。
貴族に対して、『わからない怖さ』は、確かにある。
「柴山さんは、どう思う?」
俺は柴山さんに話を振った。
難しいことは、頭の良い人に考えてもらうに限る。
「貴族に限らず現地人の中には、僕たちを利用しようとする人もいるでしょう。ココさんたちと行動を共にしてわかりましたが、僕たちはこの世界では子供以下の常識しかありません。物を知らなさすぎる。つまり、現地人としては、利用しやすい、騙しやすい存在でしょう」
「それ、反論出来ないな……。安全とかさ……。俺たちは危機意識ゼロだなと思った」
「勇者を始めとする戦闘力のある日本人は、武力要員として重宝されるでしょう。それから聖女など回復職は日本でいうと医者ですよね。最初に助けたケインさんたちは、僕のことを物凄くあがめていましたよ」
「凄腕の医師、スーパードクターって感じなのかな? なら柴山さんは立場的に大丈夫か……」
「いえ! 逆に危ないですよ! どこかの貴族家に囲い込まれる……。つまり、どこかの貴族家が僕を拉致して、そのまま家から出さないで、ひたすら治療をさせるとか、そんな可能性もあります。僕は戦闘力がありませんし、荒事は苦手です。危険度は高いと思いますよ」
「軟禁かよ……」
次々と嫌な未来が見えてくる。
本当に、柴山さんの言う通りになるとしたら、不味いよな。
無理矢理でもウソをついて、『外国からの旅行者』を貫き通さないとダメだ。
だが、俺の口から出たのは、逆の言葉だった。
「しかし……」
「ミッツ……。しかし? 何だ?」
リクが怖い顔で俺をにらむ。
リクは、リスクを最小化にしたいタイプだ。
だから、現地人と接触はしても、深い交流は望んでいないのだろう。
まあ、女性関係を除いて。
俺は腹に力をグッと入れて、リクに対する。
「しかし、現地人の協力がなければ、俺たちは生きていけないだろう。今回だって、冒険者ギルドが立て替えをしてくれて、商業ギルドが物資を集めてくれて、ココさんたちが交渉したり教えたりしてくれたから、物資調達が出来た!」
「それは、間違いないな」
「だから、いっそココさんたちを拠点に連れて行って、協力者にしてしまった方が良いんじゃないか?」
「ミッツ! だから、リスクが高いと言ってるだろう!」
「そのリスクを負う価値があると思う。現実問題として、拠点の二千五百人を俺たち四人が一から十まで面倒見ることは出来ない。自立するなり、なんなりしてもらわないと無理だ。ココさんたちには、その相談にも乗ってもらいたい」
「うーん……」
リクは、頭ごなしに反対はしなかった。
俺はリクのことが何となくわかるが、基本的に自由でいたい人だ。
だから、『拠点の二千五百人の面倒を見る』と聞いた瞬間に嫌そうな顔をした。
誰かに対して責任を持つことになれば、自由に行動できなくなる。
まして、それが二千五百人ともなれば……。
リクはそう考えたのだろう。
「私はココさんたちを連れて行った方が良いと思うな。ノースポールの様子をスマートフォンで撮影してきたけれど、小さい画面で見るよりも、現地人の四人に会わせた方が、話が早いと思うの」
それまで黙っていたマリンさんが、違う角度から意見をした。
「そっか。拠点にいる人たちに情報提供する意味合いもあるのか……」
「うん。私たちは、この世界に転移して、割とすぐに行動できた方だと思う。けど、現実を受け入れられない人もいただろうし、異世界転移と言われてもピンとこない人もいたと思う。猫獣人のココさんやエルフのティケさんを見れば……」
「嫌でも現実を目にすることになるか……」
拠点から出発する前は、食料供給を俺たちに頼り切っていた。
あれから、どうなったのだろう?
夢のような異世界の町での日々から、日本人の集団がいる拠点に戻る。
何となく胃の辺りが重くなる感じがした。
色々と意見はでたが、結局、猫獣人ココさんたちを同行させることにした。
もちろんリスクはある。
けれど、拠点のみんなが前へ進むには、猫獣人ココさんたちに同行してもらった方が良いだろうと結論をだした。
俺たち四人が色々言うよりも、ココさんたちに話してもらった方が、拠点のみんなも信じるだろう。
さあ、明日は森に入るぞ!
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