第21話 領都ノースポール
■異世界転移十七日目、拠点を出発して十五日目
現地人の冒険者ケインたちの案内により、森の中で一泊してイゼル村に到着した。
イゼル村は、のどかな農村だが、商業は発達していないので物資調達や情報収集は断念し、早々に領都ノースポールへ向かった。
イゼル村からノースポールまでは、駅馬車が出ている。
イゼル村を朝出発して、翌日の夕方に領都ノースポールに到着した。
夕焼けに照らされる町が、ロマンチックだ。
「これは、中世ヨーロッパ風ってヤツか!」
俺が町を見た感想は、中世ヨーロッパ風だ。
石畳の通りに、壁を色とりどりに塗られた木製の三階建ての家が並ぶ。
ケインによれば、領都は三階建ての建物が多いそうで、賃貸物件もあるそうだ。
柴山さんが、眼鏡をクイッとさせながら評論し始めた。
「う~ん、文明レベルを地球の歴史にあてはめるのは難しいですね。この世界には魔法的な技術がありますから、結界箱なんて現代日本でも作れないですよね。ある一面では、現代日本よりも進んでいると考えられます」
「おお! 魔法文明か!」
「はい。一方で交通機関は徒歩か馬車ですから、科学技術がかなり遅れている印象です。産業革命は起きていないようですね。空もきれいですし、街並みも煤で汚れていません」
柴山さん空を指さす。
夕焼けが赤々と空を染めている。
マリンさんがスマホを取り出して、動画撮影をし始めた。
「こういう時のためにバッテリーを節約しておいたのよ! 凄いよね! あの人エルフじゃないかな!」
道行く人は様々で、ほっそりとして耳の長いエルフらしき女性、ヒゲもじゃ短躯のドワーフ、狼のような獣人……多種多様な人が歩いている。
リクが呆れた声を出す。
「日本でも『多様性』とか話題になっていたけど、多様性どころの話じゃねえな!」
「人種どころか、種族が違うようですからね。商店は我々と同じ人間が多いみたいですね」
柴山さんは、よく見ているな。
なるほど、確かに商店は、俺たちと同じ人間が店番をしている。
「なあ。ケイン。エルフやドワーフは、商売をやらないのか? 商店をやっているのは、人間だけか?」
「そうだな。商人は人族だ。他の種族は、商売が苦手だな。ドワーフは鍛冶屋をやっている者もいるぞ」
「へ~」
「……エルフやドワーフを見るのは初めてか?」
「ああ。俺たちの国には、いないんだ」
「……エルフやドワーフが?」
「そう。人間だけだよ。あの狼みたいな人もいない」
「あれは獣人な」
俺たちが物珍しそうにしていたので、ケインたちはガイド役を買って出て、あれこれ説明してくれた。
領都ノースポールは、この近辺で一番大きな町で、冒険者が多い町らしい。
冒険者たちは、俺たちが踏破してきた森の近くで魔物を倒したり、キャラバンの護衛をしたり、鉱石や薬草を集めたりするそうだ。
「それでミッツたちは、魔物の素材を売りたいのか?」
「ああ。金がなくてな」
「それなら冒険者ギルドへ行こう。素材を買い取ってくれるぞ」
ケインたちの案内で冒険者ギルドへ向かう。
神殿の机の中にあったコインが、俺のアイテムボックスに入っているが、柴山さんから使用を止められている。
この国のコインであるかどうかわからないから、まずは、換金できる物を換金して、塩や布を買う軍資金を調達しようとのことだ。
冒険者ギルドでは、ケインの紹介ということでスンナリと係のお姉さんにつないでもらえた。
魔物の素材を売るには、冒険者として登録が必要だという。
俺たち四人は、冒険者として登録してもらうことにした。
書類に記入して提出すると、受付のお姉さんが表情を変えた。
ガチガチに緊張した顔をしている。
「あの……貴族様でいらっしゃいますか?」
「いえ。平民ですけど」
「でも……お名前が、ダン・ミツヒロ、ナラシノ・リク、ミズキ・マリン、ソイチロ・スィーバヤーマ」
柴山さんの読み方だけおかしい。
どうも現地人には、『シバヤマ』と発音するのが、難しいようだ。
そういえば、ケインたちも『ヤーマさん』とか『ヤマさん』とか呼んでいたな。
「四人とも家名持ちですよね? ミツヒロ家、リク家、マリン家、スィーバヤーマ家……聞いたことがないご家名です……。旅をしているとおっしゃいましたから、外国の貴族様でしょう?」
「いやいや、違うから! 俺の国は平民でも家名があるんだよ!」
「ええ!?」
「ホントだって! それから、これ、ダンが家名で、ミツヒロが名前だよ。ミツヒロだからミッツ! ケインさんも俺の事をミッツと呼んでいたでしょう」
「並びが逆なのですか……」
受付のお姉さんは、物凄いショックを受けている。
さらに、俺たちの服装も悪かった。
俺、リク、柴山さんは、カジュアルスタイルとはいえ、この世界の住人が着ている服とは、まったく違う服を着ている。
マリンさんにいたっては、ビジネススーツだ。
この世界基準だと、かなり高級品の部類らしい。
顔立ちも、現地人の人族と俺たちでは、かなり違う。
現地の人族は、ヨーロッパ系の顔立ちなのだ。
一方の俺たちは、日本人顔。
イケメンのリクが、まあまあ濃いめだが、それでも現地人とは違う顔立ちだ。
さらに――。
「それ、知っていますよ! 眼鏡ですよね! 眼鏡なんて、一部の貴族しか使わない高級品ですよ!」
「いや! 僕たちの国では、一般的な物です!」
受付のお姉さんは、俺たちが平民だと、なかなか信じてくれない。
外国の貴族であれば、何かの国際問題になるといけないので、正直に話せと譲らない。
押し問答になったところで、ケインさんが助けに入ってくれた。
「あー、なんだ。色々疑問に思うかもしれないが、ミッツたちは文無しだ! 文無しの貴族様ってのもおかしいだろう? 平民てことでイイんじゃないか? それに、俺たちの命の恩人だからな。頼むよ!」
「わかりました……。ケインさんが、そうおっしゃるなら……」
俺たちは、『前途多難だな』とお互いに目を合わせて苦笑いした。
「さて! ミッツさんたちは、魔物の素材を売りたいんですよね!」
「ああ。リクが素材を保管している」
解体スキルを持つリクの出番だ。
俺の隣にリクが腰掛け、受付のお姉さんと交渉を始めた。
「魔物の素材は、肉、毛皮、牙、爪、魔石と色々ある。何が高く売れるかな?」
この旅の間、毎日魔物を狩った。
魔物の素材は、タップリある。
ちょっとでも高く売れて欲しい。
「では、まず、魔石を見せてください」
リクはアイテムボックスから、緑色のソフトボール大の魔石を取り出した。
あれは、グレートホーンディアの魔石だな。
「「えっ!?」」
受付のお姉さんとケインさんが、同時に驚いた。
何か不味いのか?
受付のお姉さんが、全力の営業スマイルに変わる。
「あの……他にも色々お持ちですよね?」
「えっ……まあね……」
リクがぎこちなく応じる。
「それでは、続きは応接室でお話ししましょう。ご案内いたします」
受付のお姉さんが、席を立つと思い切り気取った歩き方で俺たちを案内しだした。
「えっと……ケインさん?」
「ミッツ! 行ってこい! 悪い話じゃねえよ」
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